外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2019年4月16日(火)

外交・安保カレンダー(4月15-21日)

[ 2019年外交・安保カレンダー ]


 先週北朝鮮で最高人民会議が開かれた。ラヂオプレスによると14日の朝鮮中央放送などは金正恩氏を「全ての朝鮮人民の最高代表者であり、共和国の最高領導者」と呼んだそうだ。日経新聞は「首脳外交を積極展開するため、名実ともに金正恩氏が『国家代表』の立場であることを明確にした可能性」を指摘するが、そうなのかなぁ!

 それより気になるのは米朝首脳会談に関する金委員長の発言だ。「米国が正しい姿勢を持って私たちと共有できる方法論を見つけることを条件に」「米国が3回目の朝米首脳会談をしようというならば、もう一度は臨む用意がある」「今年末までは米国の勇断を待ってみる」といった発言は北朝鮮が対米合意を切望していることを暗示する。

 同時に金委員長は「ハノイ方式は不可」とし、米国の交渉態度は「先に武装解除、後で制度転覆の野望」があり、「私たちの国家の根本利益に背馳する要求」だったとも述べた。「ハノイのような首脳会談が再現されることに対しては、歓迎しないし、臨む意欲もない」とも発言しているから、ハノイでのトラウマは決して小さくないようだ。

 また、金委員長は「米国が今の計算法をやめて、新しい計算法を持って私たちに近寄ることが必要だ」とし、「3回目の首脳会談」を可能にする代案的経路としてシンガポールでの1回目の朝米首脳会談の結果である『6・12共同声明』の履行を提示。だが、流石のトランプ氏ももう騙されないだろう。北朝鮮の思惑通りに動くとは思えない。

 このように、今回の最高人民会議での金委員長の言い方は実に「上から目線」の「高飛車」な発言ではあるが、その実態は「どうしても米国とは合意に達したい」という底意が行間から滲み出ていて、むしろ哀れにすら思う。勿論、一部の北朝鮮専門家はこれとは全く別の解釈をするかもしれないが・・・。

 高飛車といえば、今回の演説で金委員長は韓国を次のように厳しく批判したそうだ。「南朝鮮当局は、成り行きを見て左顧右眄し、忙しく行脚して差し出がましく『仲裁者』、『促進者』のように振る舞うのではなく、民族の一員として自分の信念を持ち、堂々と自分の意見を述べて民族の利益を擁護する当事者にならなければなりません」、と。

 はるかに年下の金委員長にこれほどコケにされた文在寅大統領も可哀そうではないか。儒教の伝統はもうないのか、それとも金委員長の弱さの表れなのか。文大統領は先週米国でもトランプ氏にコケにされている。同大統領のレームダック化は意外に早いかもしれない。韓国大統領ぐらい割の合わない公職も珍しいと思う。

〇アジア
 米中貿易交渉と並行して15日から日米交渉も始まる。報道によれば米財務長官が「競争的に有利になる目的で通貨を操作させないようにする」と述べたそうだ。米国は同様の規則を盛り込んだ新北米自由貿易協定(NAFTA)を結んでおり、日本とも「同じような為替条項を望んでいる」らしいが、冗談ではない。

 こんな制限的条項など日本としては受け入れ難い。だが、米国の本音はこれをEUに認めさせた上で、最終的に中国にも認めさせたいのだろうから、決して対日妥協はしないだろう。この問題も含め、一昔前に大騒ぎとなった「数値目標」とか、「自主規制」とかで、再び日米貿易交渉が紛糾するを見るのは実に忍びない。

〇欧州・ロシア
 米中、日米に続いて、欧州連合(EU)も15日に米国と正式な通商交渉を開始することを漸く承認した。EU加盟国は欧州委員会が提案した交渉権限を賛成多数で認めたが、フランスは反対票を投じ、ベルギーは棄権したという。欧州諸国は各国で利害が異なるので時間がかかったようだが、米EU交渉が長期化することだけは予測可能だ。

〇中東
 先週のイスラエル総選挙は、何のことはない、ネタニヤフ現首相の勝利に終わった。勝因としては、トランプ氏の肩入れもさることながら、「中道会派を率いた元将校たちが、ネタニヤフの強硬策に対するリアルな安全保障の代案を示さなかったからだ」とNewsweekが報じた。これでパレスチナ問題の解決はほぼ永遠に失われるのか。

〇南北アメリカ
 米民主党の大統領候補選びが佳境に入ってきた。最近は毎日のようにこれまで噂された候補者が出馬を表明している。その数は、数え方にもよるが、何と20人近くになった。ちょっと多過ぎるというのが率直な印象だが、これから暫くは新しい候補者が出馬表明するたびに各候補者の支持率が乱高下する星雲状態が続くのだろう。

〇インド亜大陸
 インドで下院総選挙が始まった。先週お伝えした通り、4月11日から5月19日までの長丁場。パキスタンとの戦闘のお蔭でモディ現首相の支持率が急上昇した時期もあったが、どうなるだろうか。開票は5月23日だ。今週はこのくらいにしておこう。

8-29日 国連軍縮委員会 年次会合(ニューヨーク)
11-5月19日 インド総選挙投票開始
13-15日 河野外務大臣が中国訪問
14日 「日中ハイレベル経済対話」開催(北京)
14-15日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(健康・非公式会合)(ブカレスト)
14-16日 OECDグリア事務総長が訪日
15日 日中外相会談(午前、北京)
15日 ボストン・マラソン
15-16日 日米貿易協定交渉(ワシントン)
15日 故金日成首席誕生日
15-16日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
15-16日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(文化・非公式会合)(ブカレスト)
15日か16日 ロシア1-3月鉱工業生産指数発表
15-18日 欧州議会本会議(ストラスブール)
16日「持続可能な開発のための革新的資金調達:規模とインパクト」の開催(国連本部) 
16日 カナダ・アルバータ州選挙
16-25日 上海モーターショー開幕(一般公開は18日から)
17日 OPEC定例総会(ウィーン)
17日 米・ベージュブック
17日 米国2月貿易統計発表
17日 EU3月CPI発表
17日 中国第1四半期主要経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
17日 インドネシア大統領選挙・国会議員選挙投票日
17日 台湾次期総統選の与党公認候補決定
17-28日 ニューヨーク国際自動車ショー開幕(一般公開は19日から)
18日 米国3月小売売上高統計発表
18日 アルジェリア大統領選
18日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機11号機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
18-25日 モスクワ国際映画祭
19日 インド2月鉱工業生産指数発表
19日 米・グッドフライデーで債券、株式、商品市場は休場、外為市場は通常取引
19日か22日 ロシア1-2月貿易統計発表
21日 ウクライナ大統領選 決戦投票
21日 マケドニア大統領選
21日 衆議院補欠選挙
21日 英女王93才誕生日
21-24日 クレーシ・パキスタン外務大臣の訪日

<22-28日>
23日 中国・国際観艦式(山東省青島)
24日か25日 ロシア3月雇用統計発表
22-25日 第17回情報通信に関する高級実務者会議(SOMRI)(シンガポール)
23日 メキシコ3月雇用統計発表
24-25日 第25回ASEAN非公式経済相会議(AEM)(タイ・プーケット)
24-25日 ベネズエラ・ロペス国防長官がロシアを訪問
24-27日 APECビジネス諮問委員会(ABAC)会合(インドネシア・ジャカルタ)
24-26日 食品・飲料および関連設備やサービスに関する展示会(FHV2019)(ホーチミン)
24-28日 第21回ジャカルタ・インターナショナル・ハンディクラフト・トレードフェア(INACRAFT 2019)(ジャカルタ)
25日 メキシコ2月小売・卸売販売指数発表
25-26日 ASEAN常任委員会議、ASEAN高級実務者会議(ASEAN SOM)、ASEAN合同諮問会議(プーケット)
25日-5月5日 インドネシア国際モーターショー(ジャカルタ)
26日 ASEAN経済高級実務者-欧州貿易担当委員会議(プーケット)
26日 米国第1四半期GDP発表(速報値)
26日 メキシコ3月貿易統計発表
26日 ロシア中央銀行理事会
26日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン17号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
27日 板門店宣言から1年
28日 スペイン総選挙
28日 ベナン国民議会選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問