キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年3月19日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週末、駆け足でワシントンに出張してきた。米国出張中は努めてCNNとFox News(FOX)を見比べるようにしている。これって結構大変、部屋のテレビで10分から15分おきに交代でCNNとFOXを見続けるのだから、実にせわしない。だが、二つの局が同じニュースを全く違う角度から報じる姿は、まるで「一国二制度」のようだ。
これまで米国ケーブルニュース市場は、保守系のFOX、リベラルのMSNBCとその中間にあるCNNというのが相場だったが、今はFOXが視聴者数ではトップらしい。しかも、2016年にトランプ氏が大統領に選出されて以来、中立系CNNと保守系FOXの報道姿勢の差は拡大している。詳細は今週火曜のJapanTimesに書いたので読んで欲しい。
一言で言えば、FOXは越えてはならない一線を越えてしまったが、CNNも最近は中道から左に大きく振れている。要するにどちらも極端で目糞鼻糞なのだ。出張中にニュージーランドで白人至上主義者がモスク礼拝中のイスラム教徒に銃を乱射し50人もの死者を出した事件が発生したが、これに関するCNNとFOXの報道ぶりが全く違うのが典型例。
このように米国社会の分裂は深まるばかり。米国のジャーナリズムはどこへ行ってしまったのか。日本ではこのような非難合戦は決して起きない。放送法第4条で、「放送内容は公序良俗に反せず、政治的に中立を守り、事実を歪曲してはならない」などと定めているからだが、米国は1987年にこの種の「中立原則」を撤廃している。
政治的中立を求めなくなれば、テレビ局は勝手な報道を始める。他方、中立原則を維持したからといって公平な報道が続くとは限らない。そうなれば、問題は中立原則の有無ではなく、ジャーナリズムが成熟しているか否か、かもしれない。少なくとも米国のジャーナリズムの劣化は顕著だ。日本にとっても対岸の火事ではないだろう。
〇アジア
先週北朝鮮の外務次官が記者会見を開き、「米国の強盗のような姿勢は事態を明らかに危険にさせる」「米国は千載一遇の機会を逃した」「最高指導部が近く自らの決心を明らかにする」などと述べたが、翌日の北朝鮮メディアはこのニュースを一切報道していないらしい。
素直に読めば、北朝鮮は米国に強く再考を求め、それが駄目なら深刻な事態を招くと警告するが、米国との決定的な関係悪化は望んでいない、ということだろう。近く金委員長が第二回首脳会談後の行動計画を盛り込んだ公式声明を発表するらしいが、韓国メディアはこれを交渉局面を壊さないための「水位調節」と分析しているようだ。
それにしても、北朝鮮は困っているだろう。今更、核兵器廃棄に応ずる訳にもいかないし、かといってこれ以上の経済制裁は耐え難い。ここは中露と韓国から騙し騙し、かつ秘密裏に、経済支援を獲得していくしかないが、そんなにうまく行くだろうか。北朝鮮の暴発よりも、トランプ氏の変節の方が可能性が高いかもしれない。要注意だ。
〇欧州・ロシア
今週ロシア大統領がクリミアを訪問し、クリミア併合5周年を祝い、新しい発電所二か所の開所式に参加するという。あれからもう5年も経ってしまったのか。ちなみに、ここで使われる発電用タービンは独シーメンス社製だが、同社はそうした事実を知らなかったという。要するに経済制裁違反と言うことだが、ロシア側は否定しているそうだ。
〇中東
14日夜のテルアビブに対するガザからのロケット弾攻撃に報復すべく、イスラエル軍は17日までにガザを実効支配するハマースの拠点約100カ所を空爆したという。被害はなかったとはいえ、ガザからのロケット弾攻撃は2014年以来初めてだそうだ。通常イスラエルの報復攻撃は容赦がないから、攻撃連鎖の可能性も懸念される。
そもそも中東では、どこかで和平の動きがあると、必ずといって良いほど、そうした和平プロセスを潰す動きが表面化する。これはアラブ、イスラエル双方とも得意の常套手段だから始末が悪い。今回もエジプトの仲介で停戦延長交渉が続いていたとの報道もあるから、これに反対するハマースの少数派が妨害に出た可能性もある。
〇南北アメリカ
米大統領が相変わらず炎上している。今週はニュージーランドでのモスク銃乱射事件で、トランプ氏が米国イスラム教徒への同情や白人至上主義者に対する非難の言葉を口にしなかったことが批判されている。ホワイトハウスは大統領が「白人至上主義者ではない」と発表したが、問題は白人至上主義者かどうかではなく、あの多弁な大統領自身が完全に沈黙していること自体なのだ。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
2月25-3月22日 国連人権理事会 第40回会合(ジュネーブ)
3月4-29日 自由権規約人権委員会 第125回会合(ジュネーブ)
11-4月5日 国連総会 第5委員会 再開会期第一部(ニューヨーク)
14-22日 国連麻薬委員会 第62回会合(ウィーン)
14-28日 国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会 第335回会合(ジュネーブ)
16-23日 薗浦内閣総理大臣補佐官がジブチ、インドネシア及び英国を訪問
17-18日 EU外相理事会(非公式会合)(ブカレスト)
17-30日 エレクトロン(R3D2)打ち上げ(ニュージーランド・マヒア半島)
18日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18日 EU外相理事会(ブリュッセル)
18日- 日ロさけ・ます漁業交渉の開催
18-19日 日・ベトナム受刑者移送条約交渉第2回会合が開催(ハノイ)
18-19日 第13回日本・シンガポール・シンポジウムを開催(東京)
18-21日 香港インターナショナル・フィルム&テレビ・マーケット(フィルマート)
18-22日 ASEAN-日本科学技術イノベーション共同研究(バンコク)
18-29日 国際化学物質安全性カード(ICSC) 第88回会合(ニューヨーク)
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 米ブラジル首脳会談(ホワイトハウス)
19-20日 米国FOMC
19-20日 ブラジル中央銀行、Copom
19-20日 第15回アジア不拡散協議(ASTOP)の開催(東京・三田共用会議所)
19-26日 JENESYS2018・ラオスから高校生や大学生らが訪日
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
20日 英国のEU離脱合意案の3度目の採決
20日か21日 ロシア1月貿易統計発表
21日 ECB一般理事会(フランクフルト)
21-22日 欧州理事会(ブリュッセル)
21-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21-28日 台湾総統が南太平洋3カ国のパラオ・ナウル・マーシャル諸島を歴訪
22日 ロシア中央銀行理事会
22日 ヴェガ(PRISMA)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
22日か25日 ロシア2月雇用統計発表
22-23日 「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」第4回会合を開催(京都)
23-24日 国際女性会議WAW!(都内)
24日 タイ総選挙投票日
24日 ブルキナファソ・憲法改正を巡って住民投票
24日 コモロ連合・大統領選挙
24-28日 東ティモール・バボ外務・協力大臣が訪日
【来週の予定】
25日 OS-M1(魂鵲一号B(Lingque 1B))打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
25-26日 第16回ASEAN-カナダ対話(カナダ)
25-28日 欧州議会本会議(ストラスブール)
25-4月5日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)作業部会B及び非公式・専門家委員会 第52回会合(ウィーン)
26日 メキシコ1月小売・卸売販売指数発表
26-27日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(非公式会合・運輸)(ブカレスト)
26-29日 ボアオ・アジアフォーラム(中国海南省)
27日 メキシコ2月貿易統計、雇用統計発表
27-28日 ASEAN-米国対話(米国)
28日 米国2018年第4四半期および2018年年間GDP発表(確定値)
29日 第3回持続可能な開発に関するASEAN共同体ビジョン2025とUN2030アジェンダの相互補完の強化に向けた対話
29日 米国2月PCE物価指数発表(商務省)
29日 ブラジル2月全国家計サンプル調査発表
29日 ソユーズST-B(4機の通信衛星O3b)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
30日 スロバキア大統領選挙
30日午前0時〔中央ヨーロッパ時間(CET)〕英国のEU離脱
30-31日 フランシス法王がモロッコを訪問
31日 ウクライナ大統領選挙
31日 トルコ統一地方選挙
31日 長征3B(天鎖二号01星(Tianlian 2))打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
31-4月2日 ブラジル・ボルソナーロ大統領がイスラエルを訪問
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問