キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年1月29日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
先週から今週にかけて世界各地域で象徴的な事件が起きている。中東では米国がターリバーンと交渉し、アフガニスタンからの撤退を真剣に考えているらしい。欧州では英国首相がEU離脱で炎上している。米国では司法省がフアウェイ(華為、ファーウェイとは発音しない)のCFOを企業秘密盗取罪で正式に起訴した。
一方、アジア方面はどうか。日韓関係は極度に悪化しているが、両国以外は意外に冷めている。日本にとっては実にけしからん話だが、東アジアの関係諸国と米国を除けば、何が問題なのか分かっていない人々が殆どだろう。日本では、驚くべきことに、大坂なおみの全豪優勝のニュースよりも、「嵐」活動停止発表の方が注目された。
大坂選手についてはJapan Timesと産経新聞にコラムを書いたのでご一読いただきたい。彼女のように、日米二重国籍を持ち、ハイチと日本と米国という3つの国を代表できる立場にある偉大なスポーツ選手が「日本人」であるということは、一体いかなる意味を持つのか、そもそも「日本人とは何か」を問うた文章である。
以上のように今週も論じたいトピックスは多々あるのだが、ここでは米国の対中東政策に論点を絞りたい。振り返ってみれば、2001年の同時多発テロから18年、米国はテロの後遺症という「勢い」からアルカーイダの根拠地だったアフガニスタンを攻撃し、その後現在まで対テロ戦争は続いている。これが本当に米国の国益なのか。
歴史上、アフガニスタンを軍事的に支配できた外国は記憶にない。アフガニスタンのインド側にあるヒンドゥークシ山脈はペルシャ語で「インド殺し」を意味する。ということは地続きのインドですらアフガニスタンばかりは支配できなかったということ。地続きというなら1979年末だったか、ソ連も侵攻したがその支配は10年も続かなかった。
遠征軍とて例外ではない。古のアレキサンダー大王の時代から大英帝国に至るまで、アフガニスタンを制圧できた国はない。かの地は多くの文化・言語の異なる諸部族集団が群雄割拠しており、アフガニスタン全土を、軍事的ならともかく、政治的に支配することは極めて難しい。米国が18年戦って結果が出ないのも当然なのだ。
米軍のシリア撤退は今頓挫しているようだが、大きな流れは変わらないだろう。米国は過去20年間弱で一体何を成し遂げたのか。投入した資源に見合う成果があったのか。率直に言おう。米国内で「米軍による中東介入」に関する評価が割れ始めているのではないか。この動きが米国の対中政策と表裏一体なのか。疑問は尽きない。
〇東アジア・大洋州
今週米中貿易交渉が佳境を迎える。中国高官が訪米する直前に米国でフアウェイのCFOが起訴されるという流れは異常だ。恐らくあまり楽観視できる状況にはないのだろう。しかし、何らかの「短期的にしか効果はないが、マーケットに対してある程度前向きな」妥協に達する可能性はある。これに期待するしかないだろう。
〇欧州・ロシア
先週だったか、独仏で新しい協力条約が結ばれた。マクロン大統領とメルケル首相というEUを支える最後の欧州指導者の「最後の足掻き」なのか。変質しつつある欧州連合を何とか救いたいと考える二人の姿は痛ましくすら思えた。おっと、これはちょっと意地悪過ぎたかもしれない。
〇中東・アフリカ
先週ロイターが、トランプ政権の中東和平計画について報じていた。要は、①ヨルダン川西岸の最大90%をパレスチナ国家とし、その首都は東エルサレムとする、②ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地がある旧市街はイスラエルの主権下に置き、パレスチナとヨルダンの共同管理とする、③東エルサレムの「最もアラブ色の濃い地域」が将来の首都としてパレスチナの主権下に置かれる、④イスラエルとパレスチナの領土交換を行う、といったことらしい。これで交渉がまとまると思っているのだろうか。
〇南北アメリカ
先週はロジャー・ストーンというトランプ氏の悪友が逮捕された。ストーンといえばニクソン時代から共和党内で暗躍を続けるイワク付きの人物だ。恐らく、ロシアゲートに関する特別検察官の捜査は終盤に差し掛かっているのだろう。これが吉と出るか、凶と出るかは現時点では不明としか言いようがない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
14-2月1日 子どもの権利委員会 第8回会合(ジュネーブ)
17-31日 日本産米等の「地域の魅力海外発信支援事業」の開催(北京・上海)
23-30日 MIRAIプログラム・欧州の大学生・大学院生らを招へい
28日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
28日 メキシコ18年12月貿易統計発表
28-29日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28-29日 Invest Myanmar Summit 2019
28-29日 外務省が中東地域公館エネルギー・鉱物資源担当官会議を開催(カイロ)
28-30日 カタール・タミーム首長が訪日
29日 イギリスでEU離脱代案の議会審議と採決
29-30日 米国FOMC(FRB)
29日か30日 ロシア18年12月雇用統計発表
29日か30日 ロシア18年1-12月貿易統計発表
29-2月1日 平成30年度アジア大洋州・国際機関大使会議の開催(東京)
29-2月5日 対日理解促進交流・インドネシアから若手外交官及び行政官が訪日
30日 米・18年第4四半期および18年年間GDP発表(速報値)
30日 外務大臣及び鹿児島県知事共催レセプションを開催(飯倉公館)
30-31日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
30-31日 米中の閣僚級貿易会議(ワシントン)
30-31日 中・劉副首相が訪米
30-2月1日 軍縮諮問委員会 第71回会合(ジュネーブ)
31日 ブラジル18年12月全国家計サンプル調査発表
31日 EU18年10-12月GDP(EU統計局)
31日 EU18年12月失業率発表
31-2月1日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
1日 インド19年度政府予算案発表
1日 米国1月雇用統計発表
1日 ブラジル18年12月鉱工業生産指数発表
1日 日EU経済連携協定(EPA)発効
1日 「佐渡島駐タイ大使及び梅田駐ベトナム大使による任国治安情勢講演会」の開催
2日 第46回米アニー賞授賞式
2日 米、ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約の義務履行停止期限
3日 エルサルバドル大統領選挙・国会議員選挙
3日 愛知県知事選挙
3-5日 ローマ法王がアラブ首長国連邦訪問
【来週の予定】
4日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4-5日 ドイツ・メルケル首相が訪日
4-8日 国際麻薬統制委員会 第124回会合(ウィーン)
4-10日 中国の春節(旧正月)
5日 米国18年12月貿易統計発表(商務省)
5-6日 ブラジル中央銀行、Copom
5-8日 UNICEF 執行理事会 第一定期会合(ニューヨーク)
6日 フィリピン・ミンダナオ島でイスラム自治政府樹立の法律をめぐる住民投票(2回目)
6日 フアウェイ副会長が出廷(カナダ・バンクーバー)
6日 アリアン(通信衛星Hellas-Sat 4等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
6日か7日 ロシア1月CPI発表
6-7日 EU地域委員会(CoR)本会議 第133回会合(ブリュッセル)
7日 メキシコ1月CPI発表
7-8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7-17日 ベルリン国際映画祭
8日 ロシア中央銀行理事会
10日 ファルコン9(SpaceX社 有人型ドラゴン デモミッション1)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問