キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2019年1月22日(火)
[ 2019年外交・安保カレンダー ]
この原稿は未明の福岡天神のホテルで書いている。昨日は「西郷どん」の鹿児島で仕事があり、夜までに九州新幹線で博多に入ったが、所要僅か1時間半。昔は6時間かかったというから実に便利になったものだ。それにしても福岡という街はいつ来ても住み易い便利な所だなと感心する。その福岡で今BBCの実況中継を見ている。
メイ首相が再び議会で説明に立ったからだ。ようやくブラッセルとまとめたEU離脱案が先週英議会で否決された。直後の内閣不信任決議こそ否決されたが、今日メイ首相は新たな提案(プランB)を行うのではと注目されたのだ。ところが結果は散々。殆ど新味のない内容でプランBはプランAと同じだったと揶揄されていた。
久し振りに英議会生中継を見て思ったことがある。首相と野党党首の議論はすれ違いだったが、これにスコットランド国民党とか少数政党が、それはまあ、勝手なことを言い続ける。こちらを立てればあちらが立たず、かくも複雑な政治状況の中ではコンセンサスどころか、多数派を作ることすら至難の業だ。これが英国内政の現状である。
一方ワシントンでは米連邦政府の閉鎖が今も続いている。昔は民主主義と法の支配のお手本のように言われた英米政治システムは機能しなくなったのか。それとも、実は彼らのシステムはそれほど効率が良い訳ではないことが改めて分かっただけなのか。この英米の体たらくを見て最近筆者は国際政治に関する見方を変えつつある。
簡単に言えば、国際政状が不安定になると、その予測可能性も著しく低下していくということだ。昔全てが安定していた時、国際政治のプレーヤーはそれぞれ合理的な判断を下すことができたので、その結果も含め、他のプレーヤーは今後の成り行きを相当程度予測することが可能だったように思う。
ところが、今のように社会が不安定になり始めると、英首相にせよ、米大統領にせよ、意思決定者の判断が合理性を失っていく。そうなると、合理性ではなく、「勢い」、「偶然」、「判断ミス」といった不確実性の高い要素で重要な判断が決まる頻度が高まっていくのではないか。トランプ氏やメイ女史の言動を見ているとつくづくそう思うのだ。
こうした各国政治家の「勢い」、「偶然」、「判断ミス」に基づく決断を批判することは簡単だが、それで一度始まった流れが止まる訳ではない。それどころか、これらの「勢い」、「偶然」、「判断ミス」で生じてしまった新たな国際情勢は、それ自体不可逆的なものとして自律的に動き始め、最終的には「新常態」として定着していくのである。
歴史が動く時代には、こうして「新常態」化した新たな不確実性に満ちた国際情勢に対応し、政治指導者たちが再び新たな「勢い」、「偶然」、「判断ミス」を繰り返していくのだろう。恐らく1930年代、40年代はそのような時代だったのではないか。されば、歴史の評価は後世の歴史家に任せ、我々は日々の「新常態」を追うしかなくなる。恐ろしい時代が始まったものだ。
〇東アジア・大洋州
中国の成長が鈍化したことで一部経済記者や市場関係者が懸念を持ちつつあるようだ。しかし、これって何年も前から予測されていたことではないか。今頃こんな記事が出るということは、市場が新たな「材料」を見つけただけのこと、と考えるべきなのだろうか。
いずれにせよ、今の数字なんて、まだまだ序の口だ。これからは、もっと深刻な問題が噴出しそうになり、それを共産党が力づくで押さえようとして無茶をする。その無茶が数年後またブーメランとして中国の実体経済に戻って来る。こんな異常な状態を中国は何時まで続けるつもりなのだろうか。
〇欧州・ロシア
22日に日露首脳会談がある。この会談後の記者会見は注目に値するだろう。先週の日露外相会談でどの程度「地ならし」が出来たのか、逆に地面を掘り返してしまったのではないかと危惧する向きもあろう。しかし、ラブロフという人の役割はその程度のものだ。プーチン大統領と役割分担をしていると見るべきだろう。
〇中東・アフリカ
あまり大きなニュースになっていないが、イスラエルはシリア国内のイラン革命防衛隊の拠点に対し大規模な攻撃作戦を続けている。一方、トルコとロシアが合意した非武装地帯では本来各過激派が武装解除を進めるはずだったが、状況は逆の方向に進んでいる。
具体的には、シリアにおけるアル・カーイダである「シャーム解放機構」(旧称は「ヌスラ戦線」)が他の諸派の殆どを解体し、イドリブ県とその周辺の「反体制派」が占拠する地域の大半を制圧したという。要するにシリアはトルコを含め、誰の思い通りにもならないのだろう。だったら、イランを攻撃するというイスラエルの判断は合理的かもしれない。
〇南北アメリカ
どうやらトランプ氏は第二回米朝首脳会談に踏み切るようだ。2月末にもベトナムのダナンという時間と場所まで報じられるようになった。こういう時はトランプ氏が内政的に追い詰められているに違いないのだが。内政上の目くらましで北朝鮮との首脳会談開催が安易に決まる現状こそは「勢い」、「偶然」、「判断ミス」の権化ではなかろうか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
14-2月1日 子どもの権利委員会 第8回会合(ジュネーブ)
15-22日 対日理解促進交流・ミャンマー柔道・空手選手が来日
15-22日 対日理解促進交流・インドネシア大学生が訪日
16-23日 外務省主催MIRAI・中央アジア・コーサカス地域諸国から法律実務家及び大学院生らを招へい
16-26日 対日理解促進交流・韓国の高校生及び大学生らが訪日
17-31日 日本産米等の「地域の魅力海外発信支援事業」の開催(北京・上海)
19-27日 北米国際自動車ショー 一般公開開始(デトロイト)
19-29日 対日理解促進交流プログラム・サモア、ツバル、トンガ、ニウエ、パラオ、フィジー、ソロモン諸島等の大学生らが訪日
20-26日 世耕経済産業相がロシア及びスイスを訪問
21日 EU外相理事会(ブリュッセル)
21日 ユーログループ(ブリュッセル)
21日 中国・18年通年と12月の小売売上高(国家統計局)
21日 中国・18年通年と10-12月GDP(国家統計局)
21日 英・メイ首相、EU離脱代案表明の期限
21日 キング牧師誕生記念日で米市場休場
21日 フィリピンでミンダナオ島のイスラム自治政府樹立の法律を巡り住民投票(1回目)
21日 長征11(文昌超算一号)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
21-24日 安倍首相がロシア及びスイスを訪問
21-25日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21-25日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会 第一回定期会合(ニューヨーク)
21-25日 河野外務大臣がロシア及びスイスを訪問
21-22日 第11回日・ASEANテロ対策対話の開催(ブルネイ)
23-26日 辻外務大臣政務官がスイスを訪問
21-29日 対日理解促進交流プログラム・インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュなどの高校生及び大学生らが訪日
21-29日 ジュネーブ軍縮会議 第一部(ジュネーブ)
22日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
22日 メキシコ 18年12月雇用統計発表
22日 日露首脳会談(モスクワ)
22-25日 世界経済フォーラム年次総会(スイス・ダボス)
23日か24日 ロシア18年鉱工業生産指数発表
23-24日 第3回日・ASEANサイバー犯罪対策対話の開催(ブルネイ)
23-27日 フランシスコ法王がパナマを訪問
24日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
24-2月1日 WHO執行理事会 第144回会合(ジュネーブ)
25日 メキシコ18年11月小売・卸売販売指数発表
25日 「東南アジア知的財産担当官会議」の開催(在タイ大使館)
25日 PSLV C44(Microsat-R, Kalamsat)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
27日 北九州市長選挙
【来週の予定】
28日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
28日 メキシコ18年12月貿易統計発表
28-29日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28-29日 Invest Myanmar Summit 2019
28-29日 外務省が中東地域公館エネルギー・鉱物資源担当官会議を開催(カイロ)
28-30日 カタール・タミーム首長が訪日
29-30日 米国FOMC
29日か30日 ロシア18年12月雇用統計発表
29日か30日 ロシア18年1-12月貿易統計発表
30日 米・18年第4四半期および18年年間GDP発表(速報値)
30-31日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
30-2月1日 軍縮諮問委員会 第71回会合(ジュネーブ)
31日 ブラジル18年12月全国家計サンプル調査発表
31日 EU18年10-12月GDP(EU統計局)
31日 EU18年12月失業率発表
31-2月1日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
1日 インド19年度政府予算案発表
1日 米国1月雇用統計発表
1日 ブラジル18年12月鉱工業生産指数発表
1日 日EU経済連携協定(EPA)発効
2日 第46回米アニー賞授賞式
3日 エルサルバドル大統領選挙・国会議員選挙
3日 愛知県知事選挙
3-5日 ローマ法王がアラブ首長国連邦訪問
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問