外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2019年1月15日(火)

外交・安保カレンダー(1月14-20日)

[ 2019年外交・安保カレンダー ]


あっという間に今年も第三週に入ったが、米連邦政府の閉鎖は今も続いており、既に本原稿を書いている時点で22日間を超え、史上最長となっている。トランプ氏はメキシコ国境に壁を建設する予算承認を連邦議会に執拗に求めているが、中間選挙で下院多数派となった民主党には譲る気配が全くない。当然だろうが・・・。

それもあってか、最近トランプ氏はメキシコからの不法移民は「国家安全保障上の危機」であり、このままでは「国家非常事態宣言」を発出するかもしれないという。報道によれば、陸軍工兵隊用の施設建設費など国防予算の中から壁建設費用を捻出できるというのだが、どうやら大統領は本気らしい。冗談だろ、トランプさん!

こうした過激なアイディアについては共和党関係者ですら懐疑的だ。そりゃそうだろう、これが通るなら、将来議会の承認を得られない予算項目について、大統領が「非常事態」を宣言し、軍の予算を使って行政を執行できる。そうなれば、米国には大統領府も連邦議会もいらない。米民主主義の死を意味する重大事態となるだからだ。

壁建設問題について米国民は意外に醒めている。最新の米Pew世論調査によれば、①米国人の半数は流入移民の大半が合法移民であることを知らず、②移民の有用性について米国世論は割れており、③米国人の5割強は壁建設に反対し、④壁の効用についても民主党員と共和党員で意見は大きく割れているそうだ。

一方、別の世論調査では「壁建設」を支持する声が42%と、一年前に比べ8ポイントも増え、無党派層でも支持者が40%と11ポイントも上昇したそうだ。どうやら米国では不法移民対策強化を求める声が高まりつつあるらしく、保守層の支持固めを狙ったトランプ氏の政治戦術は一定の成果を上げているようである。

壁ができるか否か以上に気になるのが、米国内政の政治動向だ。これについては今週日経ビジネス電子版に詳しく書く予定だが、サワリだけをご紹介しよう。重要なことは、トランプ氏が米国政治の本質ではなく、1970年代のベトナム戦争とウォーターゲート事件以降に起きた米国内政劣化の「結果」もしくは「症状」に過ぎないことだ。

Class of '74という言葉がある。ウォーターゲート事件後の1974年中間選挙で共和党が大敗し、76人もの改革派民主党議員が誕生した。彼らは議会での年功序列長老支配の打破、権力分散化、政治資金・選挙区改革などを断行したが、それと同時に、連邦議会内に現在に繋がるような深刻な党派対立の種を撒いたとの批判もある。それでは昨年の中間選挙で生まれた第116議会は如何なる役割を果たすのだろうか。

〇東アジア・大洋州
先週米中貿易高級事務レベル会合が北京で開かれたが、どうやら両国は何らかの合意に向け動き出したような気がする。トランプ氏は株価が気になるだろうし、中国もこのままではジリ貧だからだ。ところがその最中に金正恩委員長が訪中した、これって偶然だろうか。恐らくそうだろう、あまり深読みする意味は少ないのではないか?

〇欧州・ロシア
14日に日露外相会談があるが、報道によれば露外務省報道官は、外相会談後の共同記者会見を「日本が拒否した」と述べ、「日本は平和条約問題で情報の不安定な状況を作り出して人々を惑わす一方、協議の結果を記者会見で伝える意思はない」と主張したそうだ。ロシア外務省は相変わらず小細工が得意である。

〇中東・アフリカ
先週からポンペイオ国務長官とボルトンNSC補佐官が中東諸国を歴訪している。国務長官はアラブ8カ国を訪問中、補佐官はイスラエルとトルコを訪問したが、早速ボルトン氏が炎上してしまった。同補佐官がイスラエルで「シリアからの米軍撤退はシリア・クルド勢力の安全をトルコが保証することが前提条件だ」と述べたからだ。
当然、エルドアン大統領はこれに激怒、ボルトン発言を「重大な誤り」と罵倒し、同補佐官との会見をキャンセルした。シリア米軍撤退をトランプ氏が唐突にツイートしてから一カ月も経っていないのに、ボルトン補佐官は大統領の決定を実質的に変え、一方で在シリア米軍は撤退を開始したとも報じられた。こんな稚拙な米国の中東外交を見るのは初めて、正直なところ、とても見ていられない。

〇南北アメリカ
トランプ氏に対する不利な報道が続いている。NYTは11日、「FBIが大統領がロシアの利益のために動いた疑いがあるとみて、捜査に乗り出していた」と伝えた。12日にはワシントンポストが「トランプ氏はプーチンと話した具体的な内容を隠しておくため、同席した通訳からメモを回収して詳細の口外を禁じるなど、異例の手立てを講じてきた」と報じている。トランプ氏ならこんな報道は「フェイクニュース」と一蹴するのだろうが、それにしても、あまりに重い報道内容ではないだろうか。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

10-19日 対日理解促進交流・JENESYS韓国水原市大学生等が訪日
12-16日 河野外務大臣がロシアを訪問
13-16日 米海軍のリチャードソン作戦部長が訪中(北京・南京)
14日 ICAO Committee Phase 第216回会合(モントリオール)
14日 中国 2018年12月貿易収支
14日 河野外務大臣とロシア・ヴィクトロヴィッチ外務大臣が会談(モスクワ)
14-15日 アジア金融フォーラム(Asian Financial Forum)(香港)
14-15日 フィンランド・ニーニスト大統領が中国を訪問
14-17日 欧州議会本会議(ストラスブルーグ)
14-17日 香港ファッション・ウィーク(秋/冬)(香港)
14-20日 阿部外務副大臣がミャンマーおよびベトナムを訪問
14-27日 北米国際自動車ショー(一般公開は19日から)(デトロイト)
14-2月1日 子どもの権利委員会 第8回会合(ジュネーブ)
15日 ブラジル2018年11月月間小売り調査発表
15日 英・EU離脱合意案議会採決
15日 PSLV C44(EMISAT, Microsat-R)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
15-16日 駐日外交団の福島県視察ツアーの実施
15-20日 岩屋防衛相が訪米
15-22日 対日理解促進交流・JENESYS2018でミャンマー柔道・空手選手が来日
15-22日 対日理解促進交流・JENESYS2018でインドネシア大学生が訪日
16日 米国2018年12月小売売上高統計発表
16日 ベージュブック(FRB)
16日 岩屋防衛相と米・シャナハン国防長官代行が会談(ワシントン)
17日 EU 2018年12月CPI発表
17日 ロシア・プーチン大統領がセルビアを訪問
17日 イプシロンロケット4号機(小型実証衛星1号機等)打ち上げ(内之浦宇宙空間観測所)
18日 外務省主催「平成30年度地方連携フォーラム」開催(三田共用会議所)
18日 ファルコン9(SpaceX社 有人型ドラゴン デモミッション1)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
19日 独・キリスト教社会同盟(CSU)が新党首選出

【来週の予定】
21日 EU外相理事会(ブリュッセル)
21日 ユーログループ(ブリュッセル)
21日 キング牧師誕生記念日で米市場休場
21日 長征11(文昌超算一号)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
21-25日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
21-25日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会 第1期定期会合(ニューヨーク)
21-29日 ジュネーブ軍縮会議 第一部(ジュネーブ)
22日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
22日 メキシコ 2018年12月雇用統計発表
22-25日 世界経済フォーラム年次総会(スイス・ダボス)
23日か24日 ロシア2018年鉱工業生産指数発表
23-27日 フランシスコ法王がパナマを訪問
24日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
24-2月1日 WHO執行理事会 第144回会合(ジュネーブ)
25日 メキシコ2018年11月小売・卸売販売指数発表
27日 北九州市長選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問