外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2019年1月8日(火)

外交・安保カレンダー(1月7-13日)

[ 2019年外交・安保カレンダー ]


先週は元旦早々、金正恩労働党委員長が発表した「新年の辞」を取り上げ、「内容的にあまり進展があるとは思えない」などと断じてしまった。勿論、間違った分析ではないが、今週は国際ニュースを読む際の最低限の心構えについて書きたい。まずは、流石に専門家は別の視点で見ているのだなと痛感させられた記事からご紹介する。

筆者は朝鮮半島の専門家、同氏は金委員長が「新年の辞」演説の中で、「国民に初めて『核兵器の製造中止』と『核の不使用』、『核不拡散』を語った『衝撃は大きい』」と指摘する一方、演説から「『主体思想』なる語が消え、軍を評価する言葉がなかったのは、奇妙」とも述べている。なるほどね、確かに言われてみれば、そうだろうね。

更に同氏は、金委員長が「執務室でソファーに座り、テレビカメラに向かった」スタイルは「父親や祖父の権威から離れ自らの権威が確立した」と「老幹部や軍幹部に世代交代を宣言する演説スタイル」だったとも指摘する。彼の分析の是非もさることながら、より重要なことは、こうした「公開情報を継続的に読み込む分析」の説得力である。

確かに金委員長は政策の方向性を変えたいのだろう。公開情報の蓄積による分析はかくも強いのだ。問題は同委員長が政策変更を対外的譲歩なしに行おうとしていること。実に虫の良い話だが、その点では韓国国防省だって立派なもの。レーダー照射問題は当面解決しそうにないが、もっと気になるのは日本の専門家・識者のコメントだ。

韓国海軍艦船の内部で何が起きたかは正直言って現時点では公開情報がないので分からない。されば今は推測で論じるしかないのだが、軍事知識の乏しい経済評論家の推測ほどいい加減なものはない。それは筆者も身に染みて知っている。海上自衛隊OB達ですら言うことが微妙に違う。この問題で即断、決め付けは禁物なのだ。

最後にある科学者のツイッターをご紹介する。「NHKのニュース7は..ひどい。BBCと比べると、世界認識の甘さと、批評性のなさが絶望的...こんなもん見ない。NHKニュースだけ時間が石器時代で止まっている」と手厳しい。確かに傾聴に値する国際派らしい批判だが、冷静になってよく考えてみると、何だか分かったようで、分からない。

まず「BBCと比べる」というが、BBCとはWorld Serviceのことか。されば、ニュース7とBBC/WSを比較すること自体、そもそも無理だろう。米国のCNN、Fox、三大ネットワークだって、意外にドメスティック。どの国のニュース番組も視聴者で成り立っている。NHKニュース編集の批判は、結局は視聴者批判となる「天に唾する」行為だろう。

要するに、思い付きの分析や評価ではダメで、やはり長年公開情報を丹念に集め、比較した上での分析に勝るものはないということだ。今年も一年、以上のような真摯な態度で国際情報分析をしていかないとアカンな。言うは易しいが、行うはシンドイ。されど、これ以外に国際情報分析の王道はないのである。

〇東アジア・大洋州
6日に中国の国務委員・外相がエチオピアなどアフリカ4カ国を歴訪する。毎度同じことを言うが、年間200日以上国会審議に縛り付けられる外務大臣を持つ主要国は日本だけだ。中国の対アフリカ外交に種々問題があることは事実だが、とにかく外交のトップが議会に気兼ねなく外遊できるようにしないと、ね。
8日から米国の貿易交渉代表団が訪中する。米側出張者に閣僚はおらず、極めて実務的なラインアップだ。良いニュースは「政治的ショー」の要素がないので、しっかりした議論ができること。悪いニュースは「政治的決断」のできる高官がいないので、このレベルでは大きな進展が見込めないということだ。ご関心の向きは以下を乞一読。
https://www.scmp.com/news/china/diplomacy/article/2180795/inside-us-delegation-china-trade-war-talks-washingtons-big-guns

〇欧州・ロシア
7日は東方正教会系のクリスマスに当たる。全てのクリスマスが12月25日だと思ったら大間違い。だからだろうか、今週の欧州は忙しくない。9日にはイギリスでEU離脱問題の議論が再開される。そう、まだやっているのだ。12日から日本の外相が訪露する。北方領土問題で何を話すか気になるところだが、詳細が発表されることはない。
欧州についてはニューヨークタイムスの面白い記事を一つご紹介しよう。
https://www.nytimes.com/2019/01/05/world/europe/france-arabic-public-schools-mosques.html
現在フランスには日常会話でアラビア語を使う人々が300万人!もいるが、アラビア語の学校はモスクの中にあるのでフランス政府は関与できない。今後同政府は公立学校でのアラビア語教育を検討するという。これが「日常会話で中国語を使う人々が数十万人!もいる日本」だったどうするのか?決して他人事ではない記事である。

〇中東・アフリカ
今週から米国務長官が中東アラブ諸国を歴訪する。それに関する事前ブリーフで国務省高官は、「米国は中東から撤退しない。シリアに関する大統領決定については報道が錯綜し間違った話もあるが、我々はどこへも行かないThe United States is not leaving the Middle East. Despite reports to the contrary and false narratives surrounding the Syria decision, we are not going anywhere.」と言ってのけた。
大統領がシリア撤退をツイートしたのは12月19日、大統領が4カ月の猶予期間を認めたのは大晦日の夜だったが、今やイスラエル訪問中のボルトン補佐官までが撤退はIS掃討という条件付きと述べたらしい。これを中国では「上有政策、下有対策」と呼ぶ。今週のJapan Timesコラムは米国版「上有政策、下有対策」について書いた。

〇南北アメリカ
昨年末に米国外の良識派にとって最後の希望だったマティス国防長官が辞任し、米外交安全保障チームは沈没かと思われたが、なかなかどうして、トランプ氏の「殿ご乱心」には、あのボルトン国家安全保障担当補佐官ですら、付いて行けなかったらしい。トランプ政権では健全な常識がない人でも「抵抗勢力」にならざるを得ないのか。

〇インド亜大陸
7日から日本の外務大臣が訪印する以外、特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7-9日 ノルウェー・ソルベルグ首相がインドを訪問
7-10日 ルワンダ・カガメ大統領が訪日
7-12日 河野外務大臣がインド、ネパール及びフランスを訪問
7-13日 佐藤外務副大臣がブラジル及びチリを訪問
8日 UN Women執行理事会 Election of Bureau(ニューヨーク)
8日 UNICEF執行理事会 Election of Bureau(ニューヨーク)
8日 EU一般理事会(ブリュッセル)
8日 米2018年11月貿易統計発表
8日 ブラジル2018年11月鉱工業生産指数発表
8日 金正恩朝鮮労働党委員長の誕生日
8日 ファルコン9(イリジウム・ネクスト10機)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
8-11日 米家電・IT見本市「CES」(ラスベガス)
9日 FOMC議事要旨(FRB)
9日 メキシコ2018年12月CPI発表
9日 EU2018年11月失業率発表
9-10日 英議会がEU離脱案の審議を再開
9-12日 岩屋毅防衛相が日仏防衛相会談等のために訪仏
10 日 ベネズエラ・マドゥロ大統領が2期目を開始
10日 中国・18年通年と12月CPI、PPI発表(国家統計局)
10日か11日 ロシア2018年12月消費者物価指数(CPI)発表
10-11日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
11日 インド2018年11月鉱工業生産指数発表
11日 米2018年12月消費者物価指数(CPI)発表
11日 ブラジル2018年12月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
11日 メキシコ2018年11月鉱工業生産指数発表
11日 日仏防衛相会談及び日仏2プラス2(外務・防衛閣僚会合)(仏ブレスト)
12日 米ロサンゼルス映画批評家協会授賞式(ロサンゼルス)
12-16日 河野外務大臣がロシアを訪問

【来週の予定】
14日 河野外務大臣とロシア・ヴィクトロヴィチ外務大臣が会談(モスクワ)
14日 ICAO Committee Phase 第216回会合(モントリオール)
14-15日 アジア金融フォーラム(Asian Financial Forum)(香港)
14-17日 欧州議会本会議(ストラスブルーグ)
14-17日 香港ファッション・ウィーク(秋/冬)(香港)
14-27日 北米国際自動車ショー(一般公開は19日から)(デトロイト)
14-2月1日 子どもの権利委員会 第8回会合(ジュネーブ)
15日 ブラジル2018年11月月間小売り調査発表
16日 米国2018年12月小売売上高統計発表
16日 ベージュブック(FRB)
17日 EU2018年12月CPI発表
17日 ロシア・プーチン大統領がセルビアを訪問
17日 イプシロンロケット4号機(小型実証衛星1号機等)打ち上げ(内之浦宇宙空間観測所)
18日 ファルコン9(SpaceX社 有人型ドラゴン デモミッション1)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
19日 独・キリスト教社会同盟(CSU)が新党首選出


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問