外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2018年12月25日(火)

外交・安保カレンダー(12月24-30日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


今年最後となる本原稿を早朝の福島県いわき市で書いている。2018年のクリスマスは東京電力の福島第一原子力発電所の見学だ。これから新設された「廃炉資料館」を経て発電所に向かい、多核種除去施設、タンク、サブドレンピット、地下水バイパス、遮水壁、原子炉建屋、廃棄物保管エリアなどを見せてもらうことになっている。

東日本大震災の記憶は今でも鮮明だが、諸外国では「フクシマ」というだけでまだ誤解や偏見が残っているらしい。その実態はどうなのか、何が達成され、如何なるチャレンジが残っているのか。これらを実際にこの目で見たいと思っていた。今回の結果は今週木曜日のジャパンタイムスのコラムに書く予定なので、ご一読願いたい。

それにしても2018年は散々な年だった。東アジア方面では、元旦から北朝鮮に振り回され、こともあろうに米国大統領がそれに便乗し、首脳会談こそ開かれたが、「非核化」に進展がないまま、南北関係だけが「進展」するというお粗末だ。挙句の果てが、米中関係や日韓関係の険悪化だが、これらについても出口は全く見えない。

中東はどうか。元々状況は良くなかったが、サウジ人ジャーナリスト殺害事件が起きて以来、中東地域、特に一部のアラブ諸国が如何に国際的常識とは異なる行動原理で動いているかを思い知らされた。永年この地域を見て少々のことでは動じないつもりだったが、40年経ってもこの地域の政治家たちにはやはり驚かされる。

しかし、その中東の煮ても焼いてもの連中を驚かし続けているのがトランプ氏だ。極め付けは「シリアからの米軍撤退」で、トルコ大統領との電話会談の最中に飛び出したらしい。これでは外交安保問題を担当する閣僚・補佐官のなり手がいなくなるのではないか。この大統領の下で責任をもって政策を実施することが難しいからだ。

もう一つ気になるのは欧州情勢である。今年一年、欧州方面ではロシア「帝国の逆襲」、東欧の「先祖返り」、西欧での「ダークサイドの覚醒」が極まったのではなかろうか。ここでも暗躍するのがトルコで、あまり知られていないが、「トルコストリーム」と呼ばれるロシア・トルコ間のガスパイプラインが欧州を引っ掻き回しそうだ。

総じて、2018年は世界中で、これまで音もなく静かに進んでいた従来の「国際秩序の風化」がついに顕在化し、今や音を立てて変化し始めたような気がする。こうした状況の結末は何なのだろう。過去一年間のご愛読に感謝するとともに、来年もこのテーマで外交安保カレンダーを書き続けていきたい。皆さま良いお年を!

〇東アジア・大洋州
12月20日、韓国海軍艦艇が海上自衛隊P1哨戒機に火器管制レーダーを照射したとされる問題が発生した。韓国側は同国艦艇が遭難した北朝鮮漁船を捜索中、接近していた日本の哨戒機に向けて映像撮影用光学カメラを使用したと主張しているそうだが、これを額面通り受け止める日本側関係者は少ない。
光学カメラを使う際は追跡レーダーも作動させるが、哨戒機にビームは照射しなかったという。射撃統制レーダーは遠距離にある海上の物体をより正確に識別できる。韓国海軍によれば、当時射撃統制レーダーは対空用ではなく、対艦用のモードで運用していたそうだ。お粗末な誤解に終われば良いのだが。

〇欧州・ロシア
英国のEU離脱問題が迷走している。英国の女性首相は一部で、サッチャー氏ほど「鉄の女」ではない、などと批判されているようだが、それはちょっと可哀そうだ。メイ首相が引き継いだ英国は1980年代の冷戦真っ最中の英国ではない。むしろ、あの英国ですら混乱するようになった欧州を心配すべきではなかろうか。

〇中東・アフリカ
〇南北アメリカ
今週のハイライトは米国防長官の解任である。「そして誰もいなくなった」という言葉が相応しいトランプ政権の惨状だ。直接の引き金はシリアからの米軍撤退という大統領の衝動的、直感的決断だったといわれるが、本当にそうなのか。「大失敗で悲惨な結果を生む」と批判されているが、筆者の見立てはちょっと違う。
外電によれば、トランプ氏は23日、ツイッターで「トルコのエルドアン大統領がシリアに残留するイスラム国(IS)の戦闘員を一掃すると断言したと投稿したが、トルコが一掃したいのはこれまで米軍が支援してきたクルド系勢力であることは明らかだ。一見、米国の裏切りにも思えるが実態はどうだろう。
トランプ氏がシリアの状況を理解せず、内政的本能丸出しで、決断したというのは簡単だし、そうした指摘が誤っているとは思わない。他方、彼のこの決断が、「中東での戦争に利益はなく、米国は中国というより重要な対象に集中すべし」という戦略的判断に沿っているのだとしたら、それはそれで、一つの判断ではないかと思う。

〇インド亜大陸
特記事項はない。本年はこのくらいにしておこう。

19-24日 モルディブ・シャーヒド外務大臣他が訪日
21日か24日 ロシア1-10月貿易統計発表
22日 長征11(珠海一号03)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
22日 ファルコン9(GPS 3-01)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
23-25日 金杉アジア大洋州局長がソウル出張
23-29日 河野外務大臣がモロッコ、チュニジア、アルジェリア訪問
24日 メキシコ11月雇用統計発表
24日か25日 ロシア11月雇用統計発表
25日 クリスマスで米・欧州・インド・ブラジル・メキシコ市場が休場
25日 長征3C(通信技術試験衛星三号)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
25-28日 山田外務大臣政務官がカザフスタン及びキルギス訪問
26日 南北鉄道連結事業の着工式(北朝鮮・板門駅)
27日 ソユーズ2.1a(Kanopus-V N5/N6, Dove等)打ち上げ(ロシア・ボストチヌイ基地)
28日 ブラジル11月全国家計サンプル調査発表
28日 メキシコ11月貿易統計発表
29日 ロシア第3四半期需要項目別GDP統計発表(速報値)
30日 バングラデシュ国会議員選挙
30日 コンゴ大統領選挙及び国会議員選挙

【来週の予定】
31日 ギニア国会議員選挙
2019年1月1日 ブラジル新大統領就任
1日 ロシアで付加価値税(VAT)率を18%から20%へ引き上げ
1日 トルクメニスタンがCISの議長国に
1日 ウズベキスタンで新関税率の適用開始
3日 米国第116議会第1会期開会
4日 米国2018年12月雇用統計発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問