キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年12月11日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
今週は書くことが沢山ある。まずは中国の大手通信機器メーカーのCFO逮捕の衝撃から始めよう。日本のマスコミは社名を「ファーウェイ」としているが、これには違和感がある。「ファーウェイ」と書くと多くの人は「Far Way」とでも思うかもしれないが、中国語の正確な発音は「フア2・ウェイ4」、漢字で書けば「華為」である。
「華為」とは、恐らく「中華有為」を短くしたものだろう。中華が意義ある仕事をする、とでもいう意味だろうか。前途有為の「有為」だが、いかにも人民解放軍エンジニアが考えそうな社名ではないか。今回逮捕されたのは創業者・任正非氏の最初の妻の娘・孟晩舟女史だが、今は母親の姓を使っている。色々葛藤があったのだろうか。
それはともかく、彼女逮捕のタイミングが絶妙で、直前の米中首脳会談との関係が取り沙汰された。90日間の休戦で折角合意したのに、なぜこの時期に?と訝る向きもあったようだ。真相は不明だが、トランプ氏は逮捕を事前には知らなかったとしており、偶然説も根強い。だが常識的には、この逮捕に政治的メッセージがない筈はない。
華為は、ZTEと並び、昔から知る人ぞ知る要注意企業だった。筆者が両社の製品の問題点を最初に取り上げたのは2012年6月。当時連載していた「中国株式会社の研究」というコラムに以下のように書いている。ちょっと長くなるが、重要なので該当部分を引用しよう。今から読み返してみても、華為はちっとも変っていないようだ。
(以下引用)
●華為技術(Huawei)、中興通訊(ZTE)という名を聞いてピンと来る読者はインターネット・情報通信にかなり詳しい方々だろう。今これら中国通信機器メーカーに「中国当局の隠れ蓑」、「不正情報収集」疑惑が浮上している。今回はこの疑惑の真偽を取り上げたい。
●下院委員会の公式質問状
手元に二通の公式書簡がある。去る6月12日、米下院インテリジェンス特別委員会が件の「華為技術」と「ZTE」の経営者に対し3週間以内の情報開示を求めたものだ。・・・同書簡カバーレターには、今回の目的が「中国政府と潜在的に関係を持ち得る中国企業が米国の死活的インフラと防諜体制に与える脅威について調査すること」だとはっきり記されている。どうやら委員会の目的は貿易・経済ではなく、あくまで安全保障のようだ。
●相当悪質な華為とZTE
冒頭では華為とZTEに「疑惑が浮上」と書いたが、こうした疑惑は実は今回が初めてではない。それどころか、過去数年間だけでも、世界中でこの二社が製造した通信設備・機器などにつき、安全保障上の重大な懸念が指摘されている。
例えば、インド政府は2010年3月から、華為技術やZTEなどの通信設備・機器輸入を事実上禁止したという。これらの製品には盗聴用の特殊なチップが組み込まれており、遠隔操作で機密性の高いネットワークへの侵入も可能になるというのが理由だ。
また、同年10月のワシントン・ポストは、米国家安全保障局(NSA)が2009年末、AT&Tに対し華為技術の通信機器は中国情報機関のスパイ活動に利用される恐れがあるので取引を見合わせるよう警告していたと報じている。
●翌2011年11月には、件の米下院インテリジェンス特別委員会が、華為技術やZTEを含む中国企業が米国の安全保障と通信インフラを脅威に曝しているとして予備調査を開始している。今回の質問状はこの調査の延長上にあるものだ。
更に、本年3月にはオーストラリアでも同様の問題が起きている。豪連邦政府は同国ブロードバンド網(NBN)整備計画において華為技術の応札を禁じ、パース・シンガポール間の海底ケーブル敷設事業でも情報の安全性につき調査を始めると報じられた。
●つい最近も米国ZTE製のスマートフォンに通常ではあり得ない異常な「バックドア(情報流出のための重大な脆弱性)」が見つかったという。特定のパスワード入力で端末のコントロールが可能になるそうだが、専門家は単なるミスや偶然では起こり得ないと主張する。
このほかにも、最近では欧州連合(EU)が華為技術とZTEに対し反ダンピング調査を開始すると報じられた。華為技術の創業者・任正非氏は人民解放軍出身、ZTEは中国国有企業との関連が深い。中国政府の圧力・関与を懸念する声はどうしても消えないのだ。・・・・・(以下略)
もう十分だろう。この華為技術なる中国企業は実は10年も前から、米EU豪印などでその危険性が指摘されていた問題企業だ。その会社の製品を漸く日本政府は調達禁止と決めたが、実は多くの日本の民間企業が今もこれらを使用している。このことはあまり大きく報じられていなかったが、こんなことで良いのか、疑問は尽きない。
〇東アジア・大洋州
先の米中首脳会談では何も決まらなかった。更に、華為技術のCEOが逮捕されたのだから、米中貿易交渉が順調に進むとは到底思えない。ホワイトハウス内でも、財務長官、大統領の娘婿など中国との取引を優先しようとするグループと、それに反対する勢力との綱引きが続いている。華為CEOの逮捕もその一環と見るべきだろう。
〇欧州・ロシア
フランスで政府に抗議するデモが続いているが、報道画像をよく見ると、これは単なる「デモ」を通り越して、一種の暴動に近いのではないか。「黄色いベストを着る」ということは、暴徒の中心が学生や知識人などではなく、フランスの雑多な単純労働者達の組織されない衝動的集団行動であることを暗示しているのかもしれない。
直接のきっかけは燃料税引き上げだったが、その本質は非エリート労働者層のエリート指導層に対する素朴な反感ではないのか。さればこの運動に強力な指導者がいる可能性は低く、参加者は現在のマクロン式エリート政治に不満を持つ、右翼、左翼、外国人労働者など雑多な人々なのだろう。マクロンの化けの皮が剥がれつつある。
〇中東・アフリカ
7日にOPEC石油輸出国機構とロシアなどの産油国が2019年上期に日量120万バレルの減産を実施することで合意したという。削減量120万BDのうちOPECが80万BD、ロシアが23万BDを削減するというが、本当にうまく行くのかね。こういう時は合意はできるけど、皆抜け駆けを考えるのではないのかね。要注意である。
〇南北アメリカ
米国ではロシアゲート問題の特別検察官が法廷に新たな文書を提出し、トランプ氏の周辺や身内への包囲網が更に狭まりつつあるという報道が流れている。だが、本当のところは良く分からない。トランプ氏に明確な有罪に値する違法行為があったことを示す証拠はないからだ。
そうした中で、ホワイトハウスの大統領首席補佐官が年内に辞任することが明らかとなり、現在後任候補が取り沙汰されている。しかし、今更こんな仕事を喜んで引き受ける人がいるのだろうか。能力のある賢い人なら引き受ける筈はないから、今後、就任する人がトランプ氏の下でホワイトハウスを仕切るのは至難の業だろうと思う。
〇インド亜大陸
特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。
11月20日-12月21日 ラオス第8期第6回国民議会
3-14日 国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)(ポーランド・カトヴィツェ)
9-11日 鈴木外務大臣政務官がモロッコを訪問
9-18日 対日理解促進交流プログラム・オーストラリアの大学生らが訪日
10日 EU外相理事会(ブリュッセル)
10日 日・ジャマイカ租税 第1回目条約交渉(東京)
10-12日 ブラジル中央銀行、Copom
10-13日 欧州議会本会議(ストラスブール)
10-13日 ガーナ・アクフォ=アド大統領が訪日
10-18日 対日理解促進交流プログラム・インド、スリランカ、パキスタン、バングラデシュ、ブータン、ネパール及びモルディブから「農業」をテーマに大学生らが訪日
11日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
11日 英国労働市場統計(8~10月)発表
11日 英議会がEU離脱合意案採決
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 米国11月消費者物価指数(CPI)発表
12日 インド10月鉱工業生産指数発表
12-13日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
13日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
13日 ブラジル10月月間小売り調査発表
13日 「中東・アフリカ知的財産担当官会議」開催 第27回目(在ドバイ総領事館)
13-14日 欧州理事会(ブリュッセル)
13-14日 日韓・韓日議員連盟の合同総会(ソウル)
14日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 米国11月小売売上高統計発表
14日 黒海経済協力機構外相会議(アゼルバイジャン・バクー)
14日 ロシア中央銀行理事会
16日 トーゴ国民投票
【来週の予定】
17日 EU11月CPI発表
17-18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
17日か18日 ロシア1-11月鉱工業生産指数発表
18日 貿易経済に関する日露政府間委員会第14回会合の開催(東京)
18日 ファルコン9(GPS 3-01)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
18-19日 米国FOMC
19日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ブリュッセル)
19日 GSLV(政府系通信衛星GSAT-7A)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
19日 マダガスカル大統領選挙決選投票
20日 トーゴ国会議員選挙
20日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
20日 タイ銀行金融政策委員会
20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
20日 プーチン大統領によるプレスコンファレンス
21日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
21日 第6回日フィリピン経済協力インフラ合同委員会の開催(比マニラ)
21日 プロトンM(Blagovest-13L)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
21日か24日 ロシア1-10月貿易統計発表
22日 米・11月のPCE物価指数発表
23日 コンゴ民主共和国大統領選挙および国民議会議員選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問