キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年12月4日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
現地時間の11月30日、第41代ジョージHWブッシュ大統領が94歳で亡くなった。8月末にはマケイン上院議員が逝去したが、米メディアは前回以上に、このブッシュ41の功績と人柄を偲ぶ追悼記事や特別番組を「これでもか、これでもか」と報じていた。あたかもトランプ氏の登場で失われた古き良きアメリカ政治を懐かしむかのように。
ちなみに、息子のジョージWブッシュも後に43代大統領となったが、日本ではこの親子を「ブッシュ・シニア、ブッシュ・ジュニア」とか「パパ・ブッシュと息子ブッシュ」などと呼んでいる。だが、米国ではミドルネームが異なる息子をジュニアとは呼ばない。ブッシュ41、ブッシュ43と呼ぶ方が一般的だ。まあ、どうでも良いことなのだが・・・。
ブッシュ41については今週のJapan Timesと産経新聞に追悼のコラムを書いたので乞う一読。筆者が在米日本大使館政治部に赴任したのは1991年10月、時の大統領がブッシュ41だった。当時からホワイトハウス記者会見の雰囲気は厳しかったが、決して敵対的ではなかった。今のような喧嘩腰のやりとりはちょっと記憶にない。
ブッシュ41は真の意味で米国の本質的に善良なエリート層出身のステーツマンシップを体現した最後の大統領だったと思う。その後の大統領は、クリントン(育ちが違う)、ブッシュ43(父親と同じにはなり切れなかった)、オバマ(出身や背景がまるで違う)、トランプ(全てが異様なほど違う)、誰であれブッシュ41には遠く及ばないからだ。
ブッシュ41は湾岸戦争の目的をクウェート解放に限定したが、ブッシュ43は父親が拒否した「バグダッド侵攻とイラクの政権交代」という禁断の提案を易々と受け入れてしまった。イラク戦争の首謀者はチェイニー副大統領とラムスフェルド国防長官だが、前者はブッシュ41政権の国防長官だった。チェイニーは確信犯だったのだ。
なぜブッシュ43はかくも弱かったのか。結局は戦争従軍体験の有無ではなかったかと思う。ブッシュ41は本当の戦争の悲惨さを知っている。彼自身も小笠原諸島で死にかけたし、間近で多くの戦友の死を見てきた。だからこそ、クウェート解放後に準備もなくイラクに侵攻すれば、夥しい数の米兵が死ぬことを恐れていたのではないか。
これに対し、ブッシュ43は「戦争は短期、米軍は解放軍として歓迎される」というラムスフェルドらの説明を信じてしまった。確かに戦争は短期で、米兵は死ななかった。当時筆者はバグダッドにいたが、多くの米兵はイラク戦争ではなく、その後のイラク占領時に武装勢力のテロ攻撃で亡くなっている。やはりブッシュ43は弱かったのだ。
〇東アジア・大洋州
先週末はブエノスアイレスで米中首脳会談が行われた。ホワイトハウスの発表によれば、「額は未定なるも、今後90日間に中国が米国から多額の農産物、エネルギー、工業産品を購入する一方、強制的技術移転、知財窃取、非関税障壁、サイバー攻撃、サービス、農産品につき中国が構造変革を行うことで合意した」そうだ。
米国は予定されていた25%への関税引き上げを凍結するが、上記合意が実行されない場合には引き上げを実施するという。トランプ氏は大はしゃぎだが、内容的には中国が米国の要求を満たすとは到底思えない。この発表文をよく読めば、報じられるような「一時休戦」ですらないことが分かる。米中の確執は今後も長く続くだろう。
〇欧州・ロシア
ブエノスアイレスでのG20 会合では日露首脳会談も行われた。プーチン大統領は日本側と「1956年宣言に戻ることで一致」し、ラブロフ外相に対日協議を監督させ、外務次官を大統領特別代表に任じたという。北方領土を日ソ・日露二国間交渉の観点から論ずるか、米中露間の戦略的覇権争いの視点で論じるのか。この点に関する日本国内の議論はまだ本格化していない。
筆者が個人的に注目するのは12月7日に予定される保守与党キリスト教民主同盟(CDU)党首選でメルケル首相の後任党首に誰が選ばれるかだが、今のところ、同党幹事長が優勢なようだ。メルケル氏は首相続投を表明しているので、当面は二頭立ての馬車ということになるが、これでドイツ内政は安定するのかが気になる。
〇中東・アフリカ
アルゼンチンでのG20会合にサウジの皇太子が何事もなかったかのように参加した。プーチン大統領とはハイタッチ(英語ではhigh fiveという)で挨拶を交わす等ご機嫌だったが、33歳の若い指導者には相当の精神的重圧ではなかったかと勝手に心配している。皇太子の政治家としての力量を占うには情報がまだ足りないが・・・。
〇南北アメリカ
米国ではブッシュ41逝去のニュースばかり。
〇インド亜大陸
特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。
11月20日-12月21日 ラオス第8期第6回国民議会
26-12月9日 米・ロサンゼルス自動車ショー(一般公開は30日から)
27-12月5日 中国・習主席がスペイン、アルゼンチン、パナマ、ポルトガルを訪問
1-7日 セーシェル・メリトン副大統領兼外務大臣が訪日
2-4日 イスラエルエネルギー会議(イスラエル・エイラート)
3日 ユーロ・グループ(ブリュッセル)
3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ブリュッセル)
3日 シンガポール・バラクリシュナン外務大臣が訪日
3日 「日ソ地先沖合漁業協定」に基づく日ロ漁業委員会第35回会議が開催
3日 ファルコン9(Spaceflight SSO-A)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
3日 ソユーズFG(国際宇宙ステーション第57次及び第58次長期滞在ミッション用)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
3-5日 国連アフリカ経済委員会、アフリカ経済会議2018(ルワンダ・キガリ)
3-6日 鈴木外務大臣政務官がパラオを訪問
3-6日 薗浦内閣総理大臣補佐官がモルディブ及びパキスタンを訪問
3-6日 国連パレスチナ難民救済事業機関・クレへンビュール事務局長が訪日
3-7日 FAO理事会 第160回会合(ローマ)
3-14日 国連気候変動枠組み条約第24回締約国会議(COP24)(ポーランド・カトヴィツェ)
4日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
4日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ブリュッセル)
4日 ブラジル10月鉱工業生産指数発表
4日 オーストラリア準備銀行理事会
5日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
5日 ベージュブック発表(FRB)
5日 カナダ中央銀行、政策金利発表
5日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン16号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
5日 アリアン5(Gsat-11・KOMPSAT-2A)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
5-6日 欧州地域委員会(CoR)132回本会議(ブリュッセル)
6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日 ECB一般理事会(フランクフルト)
6日 UNDP/UNFPA/UNOPS 執行理事会(ニューヨーク)
6日 米国10月貿易統計発表
6日 OPEC総会(ウィーン)
6-7日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
6-7日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ブリュッセル)
7日 米国11月雇用統計発表
7日 メキシコ11月CPI発表
7日 ブラジル11月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
7日 EU第3四半期実質GDP成長率発表
7日 ドイツ与党・キリスト教民主同盟(CDU)党首選
8日 中国11月貿易統計発表
8日 長征3B(嫦娥四号)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
8-9日 国際フォーラム「Africa 2018」(エジプト・シャルムエルシェイク)
9日 中国11月CPI発表
9日 アルメニア国会議員選挙
9日 ペルー司法改革等を問う国民投票
【来週の予定】
10日 EU外相理事会(ブリュッセル)
10-12日 ブラジル中央銀行、Copom
10-13日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
11日 英国労働市場統計(8~10月)発表
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 米国11月消費者物価指数(CPI)発表
12日 インド10月鉱工業生産指数発表
12-13日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
13日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
13日 ブラジル10月月間小売り調査発表
13-14日 欧州理事会(ブリュッセル)
14日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 米国11月小売売上高統計発表
14日 黒海経済協力機構外相会議(アゼルバイジャン・バクー)
14日 ロシア中央銀行理事会
16日 トーゴ国民投票
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問