外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2018年11月20日(火)

外交・安保カレンダー(11月19-25日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


先週末パプアニューギニア(PNG)で開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では史上初めて首脳宣言が採択されなかった。その会議に米国を代表し出席したのがペンス副大統領だ。トランプ氏が出ないで良いのかと聞いてきたジャーナリストがいた。トランプは出ない方が良かったと筆者が答えたら、先方は驚いていた。

当然だろう。トランプ氏は元来多国間会議が大嫌いだ。その彼が嫌々出席して、あまりの不愉快さ故に衝動的妄言を繰り返したら、東アジア諸国、特に中国に間違ったメッセージを送ることになる。今回のAPECは米中「貿易戦争勃発」後最初の会合だから極めて重要。ペンス副大統領が出席した方が間違いはないということだ。

その理由は簡単、ペンス氏は事務方の準備したtalking pointsを真面目に繰り返すだろうからだ。今米政府の事務方が積み上げた公式の外交政策を、判り易く、しかも正確に代弁できるのはペンス氏しかいない。トランプ氏が即興で喋り始めたら何を話すか判ったものではない。という訳で、今週はペンス副大統領に焦点を当てたい。

ペンス副大統領は1959年インディアナ州生まれ、アイルランド系カトリック教徒だが、共和党内ではエヴァンジェリカル系の保守派に属する。弁護士で、連邦下院議員を6期、インディアナ州知事を1期務めた。州知事時代は現地日米協会の会合にもよく顔を出す等日系企業の誘致や雇用促進に取り組んでおり、日本とは縁が深い。

個人的な面識はないが、人柄は真面目で安定しているようだ。2016年、トランプ氏が共和党の大統領候補指名を受けた際、イヴァンカ夫妻が副大統領候補として最も強く推したのがペンス氏だったという。トランプ氏のような破天荒な人物には、ペンス氏のような、面白みはないが、確実で信頼度の高い人物が必要だったのだろう。

当時の共和党にとって、数少ないワシントンを代表できるプロの政治家であるペンス氏は、文字通り多くの人にとって安心材料だった。実に運の強い人である。トランプ氏の側近が猫の目のように抜擢・更迭されていく中、ペンス副大統領のスタッフに内紛の噂は聞かれない。筆者は彼のこのような信頼感を強く買っている。

〇東アジア・大洋州
前述の通り、APEC首脳会議の首脳宣言は流れた。報道によれば米中間の貿易をめぐる対立が原因だと言うが、筆者は議長国のパプアニューギニアの力不足も間接的な理由ではないかと思っている。中国側は宣言採択の責任者である同国政府関係者に猛烈な圧力をかけたらしいが、それを無視できなかったPNGは実に哀れだ。
報道によれば、宣言が流れた理由はこうだ。宣言の原案にあった「保護主義と対抗する」といった表現に米国が強く反発。中国はトランプ米政権を念頭に「一国主義と対抗する」との文言を盛るよう求めたのに対し、米国はこの表現の削除を強く要求、更に中国を念頭に不公正貿易慣行撤廃を求める表現を盛り込むよう主張したらしい。
前回も書いたが、上海で開かれた「中国国際輸入博覧会」で習近平国家主席は「中国は多国間貿易体制を支持し自由貿易を推進する」などと演説した。中国が「保護主義に反対」するなんて、殆どブラックジョークだと思ったが、やはりその結果が今回出たということだ。仮に米中が一時的に妥協しても、覇権争いは今後も長く続くだろう。

〇欧州・ロシア
このところ日露首脳会談で北方領土問題について2島返還を軸に交渉が進展する可能性に関する報道が乱れ飛んでいる。だが、筆者は事実関係が明らかでない現時点でコメントをすることは差し控えている。いずれにせよ、問題は4島か2島か、それとも2島+かよりも、日本にとって戦略的に如何なる利益があるかとなるだろう。

〇中東・アフリカ
サウジジャーナリスト殺害事件は米CIAがサウジ皇太子命令説を流し始めた。これに対し同皇太子は勿論、トランプ氏もダンマリを決め込み、具体的なコメントを避けている。典型的なトカゲの尻尾切りで、このまま逃げ切るつもりだろう。今の米国トランプ政権にはサウジ皇太子を「切る」選択肢はあり得ない。これが悲しい現実である。

〇南北アメリカ
中間選挙の翌日、トランプ氏は司法長官を更迭し、新たに指名された長官代行がロシアゲート問題を捜査するモラー特別検察官に対する指揮権を握った。あれから2週間余り、同長官代行は沈黙を守っている。嵐の前の静けさか、大虐殺の前夜なのか。ワシントンは息を飲んで成り行きを見守っている。
トランプ氏としては特別検察官を解任するよりも、捜査を事実上縮小させ、できれば終息させたいのだろうが、そんなにうまく行くだろうか。民主党が過半数を回復した下院は手薬煉引いてトランプ氏の次の一手を待っている。やはり、これから年末にかけてトランプ陣営と民主党の間で命懸けの死闘が続く可能性が最も高いのではないか。

〇インド亜大陸
特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。

13-19日 韓国・文大統領がシンガポールとパプアニューギニアを訪問
14-27日 India International Trade Fair
15-22日 日蘭平和交流事業の開催
18-21日 ネパール・ギャワリ外務大臣が訪日
18-22日 ブルキナファソ・カボレ大統領が訪日
18-27日 対日理解促進交流プログラム・ニュージーランド,キリバス,クック諸島,トンガなどの大学生らが来日
19日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
19-20日 EU外相理事会・防衛(ブリュッセル)
19-20日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
19-20日 日・クロアチア航空協定第1回政府間交渉の開催
19-21日 日中受刑者移送条約締結交渉 第5回会合の開催
19-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
19-23日 国際海事機関(IMO)理事会 第121回会合(ロンドン)
20日 長征2D(SaudiSAT 5A/5B等)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
20日 ファルコン9(Spaceflight SSO-A)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
20-21日 アジア物流・海運会議(香港)
20-23日 国連平和維持活動(PKO)・ラクロワ事務次長が訪日
21日 OECD経済見通し発表(フランス・パリ)
22日 米感謝祭(為替、債券、株式、商品市場が休場)
22日か23日 ロシア1-9月貿易統計発表
22-23日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
22-23日 スペイン・サンチェス首相がキューバを訪問
23日 メキシコ第3四半期GDP発表
23日 博覧会国際事務局(BIE)総会(最終プレゼンテーションと投票)(パリ)
23日か26日 ロシア10月雇用統計発表
23-24日 アンゴラ・ロウレンソ大統領がポルトガルを訪問
24日 台湾統一地方選
24日 バーレーン国民議会選
25日 スイス国民選挙

【来週の予定】
26日 EU外相理事会(開発)(ブリュッセル)
26日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表
26-27日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
26-27日 EU教育・若年・文化・スポーツ相理事会(ブリュッセル)
26-28日 持続可能な海洋経済の世界会合(ケニア・ナイロビ)
26-29日 G20財務相代理会合、財務相ワーキング・ディナー(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
26-30日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会 第二回定期会合(ローマ)
27日 メキシコ10月貿易統計、雇用統計発表
28日 米国第3四半期GDP(改定値)発表
28日 ジョージア大統領選
28-29日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
28-29日 インド・モディ首相がネパールを訪問
29日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29日 米・10月PCE発表(商務省)
29日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
29-30日 国連訓練調査研究所(UNITAR)理事会(ジュネーブ)
29-30日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
30日 ブラジル第3四半期GDP発表
30日 インド第2四半期GDP発表
30日 EU10月失業率発表
30日 FOMC議事要旨(FRB)
30日-12月1日 G20首脳会議(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
12月1日 黒海経済協力機構外相会議(アゼルバイジャン・バクー)
1日 メキシコ新大統領就任
1日 バーレーン国民議会選(第二回目)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問