外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2018年11月13日(火)

外交・安保カレンダー(11月12-18日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


先週の米中間選挙、あまりサプライズがなかったことがサプライズだった。米国民主主義の健全なバランス感覚が働いたのか、勝敗は痛み分けだった。こう来なければ困る。別に予想屋になった訳ではないが、2年前はトランプ氏の当選を断言できなかった。その時のショックに比べればと、今回の結果はほぼ想定内で一安心だ。

想定内の結果に終わった理由を幾つか考えてみた。第一は、いわゆる「隠れトランプ」票が今回はあまりなかったらしいことだ。勿論、「隠れ」だから、統計などある筈はない。だが、2年前に比べれば、米国の政治産業もトランプ現象に慣れてきたのだろう。より正確な予測が可能になったのは一歩前進である。

第二の理由は、トランプ氏の言動があまりに突飛であり、さすがの米国白人中間層のトランプ支持に陰りが見えてくるだろうことは十分予測できたからだ。実際に、出口調査を見ていると、郊外に住む中間層、中でも女性票の伸びが大きかったらしい。今回女性議員が多数当選したのも、「逆トランプ」効果だったのだろう。

第三に指摘できるのは、共和党の「トランプ党」化現象である。これまで米共和党は、ティーパーティ運動など様々な保守的動きはあったものの、基本的には多くの「中道保守」「センターライト」系の分別と良識のある議員が主導してきた。それが今回、「センターライト」はほぼ消滅してしまった。その象徴がマケイン上院議員の死である。

トランプ氏は共和党内で圧倒的な影響力を持つに至ったが、その分、党全体は右傾化し、結果的に上下両院では議席を大幅に減らしている。上院では過半数を維持したというが、合衆国憲法で各州の上院議員数が2人とされている以上、現時点での上院での共和党の優位は変わりそうもない。

今回最も驚いたのは、投票率の高さだ。普通日本のマスコミは中間選挙などに関心を示さなかった。ところが今回は関心の度合いが違った。先週は金曜日朝からラジオが一本、午後は大阪で録画が二本、東京に戻って深夜に「朝まで生テレビ」、更に土曜日は朝のニュース番組と生出演が続いた。中間選挙でこれほど忙しくなるとは。

最後に、これから米国の内政外交で何が起きるかにつき筆者の見立てを書く。

内政的には混乱が一層深まるだろう。中間選挙後にロシアゲート特別検察官による容疑者の立件と起訴、年内の最終報告書作成などが予想されていた。トランプ氏から見れば、ここでモラー特別検察官を解任したいのだろうが、そのために司法長官を解任したのであれば、共和党内の数少ない良識派をも敵に回すだろう。

司法省内で捜査活動を制止できても、民主党が多数派となった下院での動きは止められない。これからはあらゆる委員会で、公聴会、召喚状、宣誓証言といった言葉が乱れ飛び、トランプ氏の身内や側近が多数、公開火炙りの刑に服するだろう。当然法律は成立しなくなり、議会は普通のねじれ以上にねじれるだろう。

問題は外交だが、トランプ氏にこれまでの強硬姿勢を変える理由はない。というか、彼はこれしかできないのだから。当然、貿易では日欧に対し引き続き大幅譲歩を迫るだろう。外交の優先順位はイランと中国だろう。中国とは仮に手打ちがあっても、直ちにその次のラウンドが始まる。米中の死闘はまだ始まったばかりだ。

筆者が最も懸念するのは混乱した内政が突拍子もない外交政策を生む恐れだ。このままではロシアゲートでワシントンは大混乱となりかねない。追い詰められたトランプ氏が、これまであまり真面目に取り組んでこなかった分野で、お得意の「目くらまし」戦術を繰り返す可能性は否定できない。

その典型例が、第二回米朝首脳会談開催と朝鮮戦争「終結宣言」という誘惑である。トランプ氏にはその誤りの大きさが理解できないかもしれない。今のところ、トランプ氏以外の閣僚・補佐官は常識的な動きを示しているが、大統領が決断すればすべては一瞬にして変わるだろう。その時が来ないことを神に祈るしかないかもしれない。

申し訳ないが、現在名古屋に出張中で、原稿執筆時間が足りなくなった。今週はこのくらいにしておこう。

7-14日 MIRAIプログラム・2018「政治・安全保障」テーマに欧州の大学生・大学院生を招へい
11-15日 第33回ASEAN首脳会議、AEC協議会
12日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
12日 ペンス米副大統領が来日
12-13日 WTO物品貿易理事会(ジュネーブ)
12-13日 ASEANビジネス投資サミット(ABIS)
12-14日 東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合及び首脳会合(シンガポール)
12-15日 欧州議会本会議(ストラスブール)
12-16日 国連貿易開発会議(UNCTAD)貿易・開発委員会 第10回会合(ジュネーブ)
12-16日 国連グローバル・コミュニケーションズ担当スメイル事務次長が訪日
12-16日 対日理解促進交流プログラム・中国青年代表団が訪日
13日 ASEAN首脳会議(シンガポール)
13日 安倍首相とペンス副大統領が会談
13日 ブラジル9月月間小売り調査発表
13-15日 APECビジネス諮問委員会(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
13-15日 ロシア・プーチン大統領がシンガポールを訪問
13-15日 日中犯罪人引渡条約締結交渉第6回会合の開催(中国・西安)
13-15日 イタリア・マッタレッラ大統領がスウェーデンを訪問
13-19日 韓国・文大統領がシンガポールとパプアニューギニアを訪問
14日 米国10月消費者物価指数(CPI)発表
14日 フィジー議会選
14日 中国10月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 安倍首相がシンガポール、オーストラリア、パプアニューギニア歴訪に出発
14日 GSLV Mk II D2(Gsat-29)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
14-15日 「核軍縮の実質的な進展のための賢人会議」第3回会合(長崎)
14-27日 India International Trade Fair
15日 APEC閣僚会合(ポートモレスビー)
15日 東アジアサミット(EAS)開催(シンガポール)
15日 米国10月小売売上高統計発表
15日 ファルコン9打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
15日 アンタレス(ノースロップグラマン社商用補給機)打ち上げ(ワロップス飛行施設)
16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)(ブリュッセル)
16日 EU10月CPI発表
16日か19日 ロシア1-10月鉱工業生産指数発表
17日 モルディブ新大統領就任
17日 ソユーズFG(ISS無人補給機プログレス)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
17-18日 APEC首脳会議(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
18日 インド9月鉱工業生産指数発表
18日 ギニアビサウ国民議会議員選挙
18-22日 ブルキナファソ・カボレ大統領が訪日

【来週の予定】
19-20日 EU外相理事会・防衛(ブリュッセル)
19-20日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
19-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
19-23日 国際海事機関(IMO)理事会 第121回会合(ロンドン)
20日 ファルコン9(Spaceflight SSO-A)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
20-21日 アジア物流・海運会議(香港)
21日 OECD経済見通し発表(フランス・パリ)
22日 米感謝祭(為替、債券、株式、商品市場が休場)
22日か23日 ロシア1-9月貿易統計発表
22-23日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
22-23日 スペイン大統領がキューバを訪問
23日 メキシコ第3四半期GDP発表
23日 博覧会国際事務局(BIE)総会(最終プレゼンテーションと投票)(パリ)
23日か26日 ロシア10月雇用統計発表
24日 台湾統一地方選
25日 スイス国民選挙


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問