キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年11月6日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
先週、ワシントンに出張した。過去半年で3回目の訪米だったが、行けば行くほど、あの国がよく見えなくなると感じる。明日は中間選挙の投票日だが、これまでは見通しを聞かれても、「判りません」と答えてきた。しかし、今日はそうもいくまい。下馬評通り、下院を民主党が、上院を共和党が制するという前提で、感じたことを書こう。
出発前、渋谷のハロウィーンが大混乱に陥ったこともあり、到着日の夜はジョージタウンのハロウィーンを見に行った。結論から言えば、トラックをひっくり返したり、酔って大騒ぎをする若者は皆無。当然だろう、ウィスコンシン通りとM St.の交差点はDCの警察が完全にコントロールしていた。あそこで騒げば間違いなく逮捕されるだろう。
流石は米国、ハロウィーンは静かだったと書こうと思ったら、ニューヨークでは仮装した何者かが市民を射殺したという。流石は米国だ、ジョージタウンを警備する警官も、ニューヨークで殺人を行う犯人も、いずれも銃を持っているんだから。要するに、平和な日本と米国を比較しても仕方がないという、実にお粗末な結論である。
さて、本題に入ろう。先週ワシントンでは様々なニュースが飛び込んできたのだが、いずれも「ショックだが、驚かない」ものばかりだった。ピッツバーグのシナゴーグでは11人のユダヤ系米国人が射殺された。ドイツではメルケル首相が次期党首選に出馬しないと発言した。いずれも予兆があったから、「ショックだが驚かなかった」のだ。
しかし、筆者にとっての極めつけは、やはり韓国最高裁の徴用工判決だ。流石の日本人も、ここまでやられれば黙ってはいられない。韓国法曹界には「法的安定性」という発想がないのか。韓国は確かに民主主義国家だが、「法の支配」となると、まだ発展途上国なのかもしれない。これについては今週木曜日の産経にコラムを書いた。
さて、中間選挙直前の米国ではトランプ氏が「死に物狂い」の選挙キャンペーンをやる姿が異様だった。典型例は、中米からメキシコ経由で米国を目指す「移民集団」は米国に対する「侵略」だとして、メキシコ国境に数千もの米軍兵士を派遣したことだ。どう考えても、選挙向けのパーフォーマンス。軍の政治利用だが、ようやるわい!
こんなベタな戦術でも結構トランプ氏の人気は上がるのだから不思議だ。CNNが如何に厳しくトランプ氏を批判しても、当人はビクともしない。逆に、最近CNNの報道は左に寄り過ぎているのではないかと思うほど、一部ヒステリックな報道も目立つようになった。おいおい、俺もトランプのマジックに騙されるようになったのか、と反省する。
〇東アジア・大洋州
今週はロシア首相とパキスタン首相が訪中する。中国といえば、5日に「中国国際輸入博覧会」が上海で開幕し、習近平国家主席は「中国は多国間貿易体制を支持し自由貿易を推進する」などと演説したそうだ。中国が「保護主義に反対」するなんて、殆どブラックジョークだと思うのだが、時代は変わるものだ。
〇欧州・ロシア
28日の州議会選挙敗北を受け、メルケル独首相が与党・キリスト教民主同盟(CDU)党首から退任することを表明した。凋落のきっかけは多数の難民受け入れを決断したことだが、13年間は長過ぎたのかもしれない。これで、ドイツの内政は大きく揺れるだろう。ドイツ人は長期政権を作るのが得意だったが、次期政権はどうだろうか。
〇中東・アフリカ
今週、米国による対イラン制裁が再開される。イランは強く反発しており、米国を除くJCPOA(イラン核合意)署名国も合意を維持するとしている。だが、実際にはイラン原油の輸出が徐々に減っていくだろうから、イラン経済は再び試練の時期を迎えるだろう。自国通貨価値の下落でイランの一般庶民は哀れとしか言いようがない。
サウジジャーナリスト失踪事件も未だ解決していない。サウジアラビア皇太子はダンマリを決め込み、トカゲの尻尾切りで、居座るつもりだろう。米国トランプ政権の態度も及び腰だから、このままだと残念な結果に終わる可能性が高い。これで良いのかという意見もあるが、9.11だって犯人の多くはサウジ人だった。歴史は繰り返すのか。
〇南北アメリカ
火曜日に米国の中間選挙があるが、民主党が下院で過半数を回復すれば、法律案は通らなくなり、下院のあらゆる委員会で公聴会、召喚状、宣誓証言といった政治ショーが延々と続くだろう。選挙後はモラー特別検察官のロシアゲート捜査も進むから、年末にかけてトランプ陣営と民主党の間で命懸けの死闘が続くのではないか。
死闘と言えば、1993年にクリントン政権の大統領次席法律顧問だった若い弁護士が自殺した事件を思い出す。彼は遺書の中で、ワシントンは「人々を破滅させることがスポーツである街だ(where ruining people is considered sport)」というあまりに悲しい言葉を残している。ロシアゲートを巡り、犠牲者が出ないことを祈るしかない。
〇インド亜大陸
特記事項はない。今週はこのくらいにしておこう。
25-11月8日 国際労働機関(ILO)理事会及び委員会 第334回会合 (ジュネーブ)
28-11月6日 対日理解促進交流プログラム・米国、韓国、フィリピン高校生が訪日
29-11月16日 国際民間航空機関(ICAO)理事会 第215回会合(モントリオール)
30日-11月6日 対日理解促進交流プログラム・第10陣(タイ、カンボジア、ミャンマー)が訪日
30-11月16日 国際麻薬統制委員会(INCB)第123回会合(ウィーン)
31日-11月7日 MIRAIプログラム・西バルカン諸国の青年らを招へい
1-7日 セントクリストファー・ネーヴィス・ブラントリー外務・航空大臣が訪日
2-5日 パキスタン・カーン首相が中国を訪問
4-6日 薗浦内閣総理大臣補佐官(総理特使)がベトナムを訪問
4-8日 佐藤外務副大臣がセネガルを訪問
5日 世界津波の日
5日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
5日 ユーログループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
5日 米国が対イラン制裁第2弾(原油禁輸)を発動
5-7日 マレーシア・マハティール首相が訪日
5-8日 アルジェリア・ユースフィー産業・鉱業大臣が訪日
5-10日 第1回中国国際輸入博覧会(上海)
6日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
6日 米国中間選挙
6日 グアム知事・副知事選及び総選挙
6日か7日 ロシア10月CPI発表
6-14日 対日理解促進交流プログラム・中国高校生訪日団第2陣が訪日
7日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
7日 ブラジル10月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
7日 マダガスカル大統領選挙第1回目の投票
7日 JETRO主催「アルジェリア経済セミナー」開催
7日 ソユーズST-B(欧州気象衛星MetOp C)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
7日 ペガサスXL(電離層探査ICON)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
7-8日 米国FOMC
7-9日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)第51回会合(ウィーン)
7-9日 アフリカ投資フォーラム(南アフリカ共和国・ヨハネスブルク)
8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
8日 欧州委員会秋季経済予測発表
8日 メキシコ10月CPI発表
8日 中国10月貿易統計発表
8-9日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)理事会(スイス・ジュネーブ)
9日 EU外相理事会・貿易(ブリュッセル)
9日 中国10月CPI発表、PPI発表
9日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
9日 英国「フィナンシャル・タイムズ」主催モザンビークサミット(マプト)
10日 アフガン下院選暫定結果発表(12月20日に最終結果発表)
10-11日 トルコ・エルドアン大統領がフランスを訪問
11日 パリで第1次世界大戦終結100周年記念行事を開催
11日 米国・トランプ大統領がパリを訪問
11日 米・退役軍人の日(ベテランズデー)(為替、債券市場が休場)
11-15日 第33回ASEAN首脳会議、AEC協議会
【来週の予定】
12日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
12-13日 WTO物品貿易理事会(ジュネーブ)
12-13日 ASEANビジネス投資サミット(ABIS)
12-15日 欧州議会本会議(ストラスブール)
12-16日 国連貿易開発会議(UNCTAD)貿易・開発委員会 第10回会合(ジュネーブ)
13日 ブラジル9月月間小売り調査発表
13-15日 APECビジネス諮問委員会(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
13-15日 イタリア・マッタレッラ大統領がスウェーデンを訪問
14日 米国10月消費者物価指数(CPI)発表
14日 フィジー議会選
14日 中国10月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14-27日 India International Trade Fair
15日 APEC閣僚会合(ポートモレスビー)
15日 米国10月小売売上高統計発表
15-17日 APEC首脳会議(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
16日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(予算)(ブリュッセル)
16日 EU10月CPI発表
16日か19日 ロシア1-10月鉱工業生産指数発表
17日 モルディブ新大統領就任
18日 インド9月鉱工業生産指数発表
18日 APEC首脳会議(ポートモレスビー)
18日 ギニアビサウ国民議会議員選挙
18-22日 ブルキナファソ・カボレ大統領が訪日
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問