キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年9月18日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
先週はプーチン大統領の「突然の提案」のお蔭で日本は大騒ぎだったが、海外主要紙は殆ど報じていない。NYT電子版に至っては「Russia's Putin Says His Japan Peace Treaty Proposal Was No Joke」というロイター電を短く編集した記事を流しただけ。このヘッドラインを読む限り、欧米の読者にはチンプンカンプンだろう。
この「提案」なるものが東京で大ニュースとなるのは仕方ない。日本では、プーチン氏がウラジオストックの東方経済会議の質疑応答部分で、「今頭をよぎったことだが」と前置きし、「年末までに前提条件なしで平和条約を締結しよう」と述べたこと、更にはその場にいた安倍首相が反論しなかったことが大いに批判された。一体なぜなのか。
今週は英語コラムしか書く場がないためJapan Timesに書いた。日本語版はないので、ここで簡単に要約しておく。要するに、①プーチン氏の提案は突然の思い付きなどではなく、周到に計算された反撃だ、②主要各紙の社説で安倍首相の「沈黙」を批判する向きもあるが、これは所詮、総裁選も含めた内政がらみの話だろう。
③最も重要なことは、ロシア・プーチン氏の考え方や立場が近年ほぼ一貫しており、「北方領土の帰属の問題を解決」して平和条約を結ぶことに消極的なことだ。北方4島での「共同経済活動」が主権の問題もあり簡単には動かないから、ここで一発仕掛けてきただけだ。されば、別に驚くべき提案でもないし、何も悲観する必要はない。
筆者はロシア語の専門家ではないし、交渉の経緯に精通している訳でもない。されど、というか、だからこそ、素人の方が大局を掴み易いのではないか。今の日露交渉の目的として最低限達成すべきは、ロシアとの対話を続けることで「不法占有者」による所有権・使用権の「時効取得」を回避することだと筆者は割り切っている。
その意味では対露交渉は一定の成果を挙げているし、これで4島が今すぐ返ってこないとしても、それはそれで、これからも長く続く交渉の一側面と考えれば良いのではないか。ロシアが中国との関係も睨みながら、近くない将来に地政学的、戦略的な決断を下す可能性が残っている以上、現状が悪い方向に向っているとは思わない。
これ以外の結論が出るとしたら、それは交渉結果に対する期待値が高過ぎるのか、または内政上の理由で何らかの政治的な判断を下さざるを得ないのか、その両方か、のいずれではないだろうか。その意味で主要各紙社説の結論に異を唱えるつもりはないが、どの社説も、どこか「ピントがずれている」感じがする。
今週もう一つ気になったのは、中国のfakeニュースによる他国での世論操作だ。ロシアによる米国内政への介入は、特別検察官の捜査もあり、米国では徐々に全貌が明らかになりつつある。だが、この種のオペレーションを国家的規模でやっているのはロシアだけではない。中国の動きは要注意、日本でも既に行われている筈だ。
ある台湾の友人に教えてもらったのが次の記事だ。「【台風21号】関空孤立めぐり中国で偽ニュース 「領事館が中国人を救出」 SNS引用し世論工作か」と題された記事はfakeニュースの意図的拡散による特定国世論の誘導・操作の恐ろしさを浮き彫りにしている。具体的には次の通りだ。
台風21号の影響で旅行客ら最大約8千人が関西国際空港に取り残された問題をめぐり、「中国の総領事館が用意したバスが関空に入り、優先的に中国人を救出した」とのfake情報が中国のインターネット上で拡散したそうだ。日本で起きた災害をきっかけに中国国内や台湾への世論工作が展開されたという。
関西空港閉鎖に伴い、中国人旅行客も約千人が取り残された。関連記事によれば、この偽情報は「海外で災害などに遭遇した台湾人の不安心理を揺さぶる中国側の巧妙な宣伝工作」(北京在住の台湾籍の男性)だという。これが、日本の世論に対して行われるようになったらと思うとぞっとするのだが、皆さんはどう思うのだろうか。
今週はこのくらいにしておこう。
10-19日 対日理解促進交流プログラム・21世紀ユース日本通信使日本の大学生が訪韓
11-22日 国連貿易開発会議(UNCTAD)第64回貿易開発理事会(TDB)(ジュネーブ)
11-29日 第36回国連人権理事会(ジュネーブ)
12-18日 山口公明党代表がマトビエンコ・ロシア上院議長と会談のために訪ロ(モスクワ)
12日-12月中 第72回国連総会(ニューヨーク)
12-19日 堀井巌外務大臣政務官がオーストラリア、マレーシア及びラオスを訪問
12-21日 対日理解促進交流プログラム・日韓学術文化青少年交流事業団が訪韓
13-19日 堀井学外務大臣政務官がアゼルバイジャン及びトルクメニスタンを訪問
14-20日 ロシア軍がベラルーシで大規模演習
17-23日 河野外務大臣が国連総会へ参加するためにニューヨークを訪問
18日 ユーロスタットが8月CPI発表
18日 柳条湖事件から86年
18-19日 佐藤外務副大臣がオマーンを訪問
18-22日 安倍首相が国連総会出席のため訪米
18-22日 第35回ASEANエネルギー相会合(マニラ)
18-22日 第61回国際原子力機関(IAEA)総会(ウィーン)
18-23日 対日理解促進交流プログラム「環境資源を活かした先進的なまちづくりを学ぶ・日韓若者交流リーダー育成事業」日本の大学生等が韓国を訪問
18-10月6日 国際民間航空機関(ICAO)第212回Committee Phase(モントリオール)
19日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
19日 4-6月期の米経常収支(商務省)
19日 スー・チー・ミヤンマー国家顧問が国民向けテレビ演説
19日 米大統領が国連総会で演説(ニューヨーク)
19-20日 米国連邦公開市場委員会(FOMC)
19-25日 第72回国連総会一般討論演説(ニューヨーク)
19-26日 対日理解促進交流プログラム「日ASEAN学生会議」の実施
19-28日 対日理解促進交流プログラム「未来につなぐ環境プロジェクト-福島の再生可能エネルギー事業に学ぼう-」韓国の大学生等が訪日(福島県)
20日 安倍首相が国連総会で演説
20日 包括的核実験禁止条約(CTBT)発効促進会議(ニューヨーク)
20日か21日 ロシア1-7月貿易統計発表
20-21日 第528回EU経済社会評議会(EESC)プレナリーセッション(ブリュッセル)
20-21日 外務省が復興庁等と共催で「ふくしま復興フェアin霞が関コモンゲート」開催
21日 日米韓三カ国首脳会談
21日 メキシコ7月小売・卸売販売指数発表
21-22日 APEC第11回防災担当高官会合(SDMOF11)(ベトナム・ビン)
22日 英首相が演説(イタリア・フィレンツェ)
22日 アルバ大統領選挙
22日 ソユーズ2.1b(ロシア測位衛星Glonass-M)宇宙基地(カザフ・バイコヌール宇宙基地)
23日 ニュージーランド総選挙
23-27日 北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉第3回会合開幕(カナダ・オタワ)
【来週の予定】
24日 ドイツ連邦議会(下院)選挙
24日 フランス上院選挙
24日 スイスで年金制度改革を問う国民投票
24日 ベルリンマラソン
24-27日 英国労働党大会(ブライトン)
25日 イラク・クルド自治区で分離独立を問う住民選挙
25日 IAEA理事会(ウィーン)
25日か26日米・スペイン首脳会談(ワシントン)
25日か26日 ロシア8月雇用統計発表
25-28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25-26日 G7産業・デジタル担当相会合(イタリア・トリノ)
25-29日 国連人権理事会第18回「人権と多国籍企業及びその他の企業の問題」に関するワーキンググループ(ジュネーブ)
26-28日 WTOパブリックフォーラム(スイス・ジュネーブ)
26日 メキシコ8月雇用統計発表
26-29日 APEC女性と経済フォーラム(ベトナム・フエ)
27日 メキシコ8月貿易統計発表
29日 日中国交正常化45周年
29日 ブラジル8月全国家計サンプル調査結果発表
29日 ドイツ8月労働市場統計発表
28日 米国第2四半期GDP(確定値)発表
28-29日 G7科学相会合(トリノ)
29日日中国交正常化45周年
29日 プロトンの打ち上げ(カザフ・バイコヌール宇宙基地)
29日 アリアン5の打ち上げ(仏領ギアナ基地)
30日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
30日 長征2D(地震電磁観測試験衛星等)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
30日 長征6(吉林一号)打ち上げ(山西省・太原衛星発射センター)
30日-10月1日 G7労働相会合(トリノ)
9月中 パキスタン中央銀行、金融政策決定会合
9月中 インド7月鉱工業生産指数発表
9月下旬 ヒジュラ暦(イスラム暦)新年
9月下旬 フランス2018年政府予算案・社会保障会計法案発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問