キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年8月28日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
先週末、末期の脳腫瘍で療養中だった米上院のマケイン議員が亡くなった。いずれこの日が来ることは判っていたが、筆者個人的には大きなショックだった。実は同議員が2013年に訪日した際、赤坂のレストランで事実上一対一で昼食を共にしながら懇談したことがあるからだ。詳細については今週の産経新聞をお読み頂きたい。
ここでは産経コラムに書けなかったマケイン逝去が米国にとって意味することについて考えたい。ポイントは3つある。第一は米議会で指導的役割を果たす人々がいなくなること。現在の米議会は両極化が進み、決めるべきことが決まらないことも日常茶飯事だ。このリーダーシップの空白はそう簡単には埋まりそうもない。
第二は国家安全保障問題に関する議論が迷走することだ。確かにマケインは一匹オオカミの異端児だったが、その主張は至極正論だった。この正論を政策とするためにはマケインのような戦士が必要である。このままだと、トランプ氏の外交安保政策に真正面から異を唱える頑固者がいなくなるのではないか。
最後は米国政治倫理の劣化が進むことだ。マケイン議員は高潔な人だった。私事は個人的に楽しんだろうが、彼は常に私的利益より国益を優先した。言うは易しいが、それを何十年も実践することは決して容易ではない。ジョン・マケインというベトナム戦争が生んだ稀代の政治家を失ったアメリカはこれから一体どこへ行くのだろう。
Three Amigos!という言葉がある。元々は1986年に公開されたコメディ映画の題名で、スティーヴ・マーティン、チェビー・チェイス、マーティン・ショートが主演だった。米国のコメディ好きなら、ニヤッと笑うだろう。日本では「サボテン・ブラザース」として公開されたが、実はこの「三人の友人」という表現、米議会上院にもあったという。
リンゼイ・グラハム上院議員、 ジョー・リーバーマン元上院議員とマケインの三人は仲が良く、Three Amigos!と呼ばれていた。グラハムとマケインは共和党員だが、リーバーマンは無所属。それでも彼らは重要問題で頻繁に協力し合った。この三人を支えていた若くて優秀な外交安保担当スタッフ、今や彼らの世代が米国の希望である。
改めてジョン・マケイン上院議員逝去に対し心から哀悼の意を表したい。
〇欧州・ロシア
西欧は漸く夏休みが終わったようで、30日にはEUの外相や国防相が非公式会合を行う。しかし、本格的な活動再開は来週になるのではないか。
〇中東・アフリカ
30日に国際司法裁判所が米国の対イラン経済制裁措置に関するイラン側の言い分を聞くそうだ。こんなことでトランプ政権が反省するとは思わないが、法的措置を積み重ねることで、米国以外のイラン核合意署名国を繋ぎ留める戦略だろう。流石はイラン、意外に賢いスタッフもいるのだなと感心する。ここが北朝鮮と違う点だ。
〇東アジア・大洋州
30~31日にシンガポールで東アジア地域包括的経済連携(RCEP)の第6回閣僚会合が開催される。日本からは経産大臣などが出席する。RCEPを同時並行的に進めるのは正しいが、RCEPはTPPほど内容がある訳ではないので、あまり大きな成果を期待することは無理だろう。
〇南北アメリカ
マケイン逝去について、あのおしゃべりのトランプ氏が沈黙を守っている。最近のツイートでは、「マケイン上院議員のご家族に対し、我々の心情と祈りとともに、心からの哀悼の意を表します。」と述べただけ。以前トランプ氏は「捕虜になるような男は英雄ではない」と述べてマケイン氏を嘲ったことがある。何と器の小さい男だろうか。
これに比べれば、マティス国防長官の声明は流石だ。「一貫して米国の最善の理想を代表した男を我々は失った。彼は常に自分よりも国家への奉仕を優先した。」同じ軍人としてマケインに対する愛情と尊敬が滲み出ているではないか。トランプ氏とマケイン氏の評価はいずれ未来の歴史家が下すだろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
7月30日-9月14日 ジュネーブ軍縮会議 第3部(ジュネーブ)
18-9月2日 第18回アジア大会(ジャカルタ)
20-29日 対日理解促進交流プログラム・韓国の大学生らが福島県を訪問
21-31日 長征11(珠海一号03)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
26日-9月2日 第50回ASEAN経済相会合
27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日 ケニア・ケニヤッタ大統領が米・トランプ大統領と会談(ワシントン)
27日 日・エクアドル租税条約交渉 第1回交渉(東京)
27-29日 薗浦内閣総理大臣補佐官がモンゴルを訪問
27-9月7日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)第51回作業部会B及び作業部会AとBのジョイントミーティング(ウィーン)
29-9月8日 第75回ベネチア国際映画祭(ベネチア)
28日 第37回市民的及び政治的権利に関する国際規約締約国の臨時会議(ニューヨーク)
28日 メキシコ7月雇用統計発表
28日 米国連邦議会予備選挙(アリゾナ、フロリダ)
28-9月6日 対日理解促進交流プログラム・日韓学術文化交流事業訪韓団(第1-2団)が訪韓
29日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
29-31日 エスピノサ第73回国連総会議長が訪日
29-9月1日 二階自民党幹事長が訪中
30日 英・メイ首相がケニアを訪問
30日 米・7月PCE(個人消費支出)物価指数 発表
30日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
30-31日 第6回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)閣僚会合の開催(シンガポール)
31日 第7回日中財務対話(北京)
31日 EU7月失業率発表
31日 ブラジル第2四半期GDP発表
1日 韓国通常国会開会
1日 モーリタニア国民議会選挙
2日 ルワンダ下院選挙
2-4日 インド・コヴィンド大統領がキプロスを訪問
【来週の予定】
3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3日 労働者の日で米市場休場
3-5日 国連クラスター弾に関する条約 第8回締約国会議(ジュネーブ)
3-7日 APEC女性と経済に関するハイレベル会合(大臣級)(ポートモレスビー)
4日 米国連邦議会予備選挙(マサチューセッツ)
4日 ブラジル7月鉱工業生産指数発表
4-7日 UNDP/UNFPA/UNOPS 執行理事会 Second regular session(ニューヨーク)
5日 米国7月貿易統計発表
5日か6日 ロシア8月CPI発表
5-7日 G20教育相および雇用担当相合同会合(アルゼンチン・メンドーサ)
6日 米国連邦議会予備選挙(デラウェア)
6日 ブラジル8月IPCA発表
7日 米国8月雇用統計発表
7日 メキシコ8月CPI発表
7日 EU第2四半期実質GDP成長率発表
8日 中国8月貿易統計発表
8日 アリアン5(通信衛星Horizons 3eなど)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
9日 スウェーデン議会総選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問