キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年8月21日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
今週も夏休みで世界の外交は開店休業かと思ったが、以下に述べる通り、案外そうでもない。特に、日本外交は頑張っている。16-24日には佐藤外務副大臣がコモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシエルを、同じく16-25日には宮腰内閣総理大臣補佐官がブラジル、パラグアイ及びメキシコを訪問する。
更に、閣僚レベルでは、19-23日に小野寺防衛相がインドとスリランカを、21-26日には河野外務大臣が米国をそれぞれ訪問する。特に、防衛大臣のインド・スリランカ訪問は、「インド太平洋」構想を具体化する大事な出張だ。やはり、日本では夏休みはお盆で終わりなのか。みなさま、ご苦労様です。
中東屋でもある筆者にとって今週最も気になったニュースは新疆ウイグル自治区の著名な女性学者が8カ月も行方不明になっているというNYTの記事だ。同地域は最近急速に「漢化」が進む中国の一部であると同時に、中央アジアであり、イスラム圏でもあるという意味で地政学的に極めて重要な場所だ。今週はこれについて英語コラムを書いた。ご関心の向きはご覧頂きたい。
もう一つ関心を持ったニュースが最近のボルトン国家安全保障(NSC)担当大統領補佐官の発言だ。同補佐官は19日放送のテレビ番組で、金正恩委員長が4月の南北首脳会談で1年以内の非核化に同意していたと述べたそうだ。韓国の文在寅大統領から米側に伝えられたという。筋金入りの強硬派ボルトンはどこへ行ったのか。
文大統領が金委員長に対し「1年以内の非核化実現」を呼びかけたのに対し、金委員長も「はい」と同意したという。だが、それがどうしたというのだ。米国はその発言内容を確認できたのか。文大統領が述べているだけで、何の「非核化」かすら明らかではない。ボルトンの毒気はもう抜けてしまったのか。
そもそも、最近の米国の外交安全保障チームの体たらくは目を覆うばかりだ。時系列的に見ても、2017年1月の大統領就任から同チームの人事は猫の目のように変わってきている。具体的にはこんな具合だ。筆者だったら、一週間と続かないだろう。トランプ氏の下で働いている皆さんには心から同情する。
1.2017年2月13日フリンNSC担当大統領補佐官の辞任とマクマスター補佐官の就任
2.同年8月のケリー大統領首席補佐官就任とバノン首席戦略官の辞任
この時点では、首席補佐官、NSC担当補佐官、国防長官がすべて現役または元軍人となり、それまでトランプ政権の外交・安全保障政策に振り回されていた同盟国関係者から安堵の声が聞かれるようになった。ところが、そうは問屋が卸さないのがトランプ政権だ。
3.2018年4月2日コーン経済安全保障会議(NEC)委員長辞任とナバロ局長の台頭。
4.同年3月13日ティラソン国務長官の辞任と4月26日のポンペイオ長官の就任
5.同年3月22日マクマスターNSC担当補佐官の辞任と4月9日ボルトン補佐官就任
これにより、トランプ政権の外交安全保障チームの陣容は様変わりし、トランプ氏好みのボルトン、ポンペイオ氏など保守強硬派が主導権を握るようになった。しかし、誰も今の大統領に意見する度胸のある者はいない。これ以上、犠牲者を増やしても、トランプ氏のスタイルは変わらないと諦めているのだろうか。恐ろしい話である。
〇欧州・ロシア
西欧は今週も本格的夏休みで特記すべき事項はないが、唯一、先週プーチン大統領が訪独に先立ってオーストリアに立ち寄り、同国のクナイスル外相の結婚式に出席したという。同外相は連立政権に入る極右・自由党の推薦で民間から外相に登用された人物。EU分断を図るプーチン氏の行動には全く無駄がないようだ。
〇中東・アフリカ
トルコは米国人牧師の軟禁を続けているが、報道によれば、トルコが米国に対し、牧師釈放の見返りにトルコ国営ハルク銀行への捜査中止を求めてきたそうだ。米側は提案を拒否したらしいが、いかにもトランプ氏らしい動きだ。ハルク銀行といえば、元最高幹部が米国で対イラン制裁逃れの有罪判決を受けている。狐と狸の馬鹿し合いは当分続きそうだが、こんなことで欧州南部のNATO同盟は大丈夫なのだろうか。
〇東アジア・大洋州
23日に米中貿易戦争が更にエスカレートする。もう一つ、ロシアの大統領補佐官は9月にウラジオストクで開かれる「東方経済フォーラム」に金正恩委員長も文在寅大統領も来ないとの認識を示し、「別の機会を調整する」と述べたそうだ。これでウラジオでのハイレベル日朝接触もなくなったということか。されば、次の可能性は国連総会ということなのか。
〇南北アメリカ
トランプ氏と米国情報機関関係者との喧嘩が再燃している。先週は元CIA長官が、機密情報アクセス権限剥奪を受けて、テレビで「彼(トランプ氏)は権力に酔いしれていると思う」と強く批判。トランプ氏もツイッターでブレナン氏を再度攻撃している。両者の非難合戦は続くだろうが、子供じゃあるまいし。どっちもどっちではなかろうか。
〇インド亜大陸
先週パキスタンのカーン新首相は就任後初の演説で自身の政策構想「新パキスタン」を打ち出し、富裕層に適正な納税を求めるとともに、緊縮財政を通じた債務削減や貧困対策の実施などを表明したという。同新首相はクリケットの元スター選手で近年は反汚職運動の旗手として若者と中間層の間で人気が高いらしいが、人気だけでパキスタンの抱える問題を捌けるかは疑問だ。今週はこのくらいにしておこう。
7月30日-9月14日 ジュネーブ軍縮会議 第3部(ジュネーブ)
8月16-22日 北方四島での共同経済活動に関する調査団の現地調査
16-24日 佐藤外務副大臣がコモロ、マダガスカル、モーリシャス及びセーシエル訪問
16-25日 宮腰内閣総理大臣補佐官がブラジル、パラグアイ及びメキシコを訪問
18-9月2日 第18回アジア大会(ジャカルタ)
19-23日 小野寺防衛相がインドとスリランカを訪問
20日 武器貿易条約第4回締約国会議に河野外務大臣が出席(東京)
20-24日 国際人権理事 第82回恣意的勾留に関するワーキンググループ(ジュネーブ)
20-24日 APEC鉱業相会合(パプアニューギニア・ポートモレスビー)
20-24日武器貿易条約第4回締約国会議(CSP4)(東京)
20-26日 韓国と北朝鮮の離散家族再会行事(北朝鮮南東部・金剛山)
20-29日 対日理解促進交流・韓国の大学生らが福島県を訪問
21日 米国連邦議会予備選挙(アラスカ、ワイオミング)
21-26日 フランシス法王がアイルランドを訪問
21-26日 河野外務大臣が米国を訪問し日系人らとの交流
21-31日 長征11(珠海一号03)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
22日 FOMC議事要旨
22日 メキシコ6月小売・卸売販売指数発表
22日 ヴェガ(ADM Aelous)の打ち上げ(仏領ギアナ基地)
23日 米国が知的分野の対中関税第2弾(160億ドル相当)を発動、中国も同規模の報復措置を実施
23日か24日 ロシア上半期貿易統計発表
23-24日 G20デジタル経済相会合(アルゼンチン・サルタ)
23-25日 米・ジャクソンホール会合(ワイオミング州ジャクソンホール)
24日 ジャパン・ハウス ロサンゼルス全館開館(ロサンゼルス)
24日か27日 ロシア7月雇用統計発表
24日 メキシコ第2四半期GDP発表
24日 ソウル高裁が賄賂事件で朴槿恵韓国前大統領に判決
24日以降 ファルコン9(Telstar18 VANTAGE)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
24-26日 長征3B(北斗三号M11/12)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
26日 香川県知事選
26日-9月2日 第50回ASEAN経済相会合、第6回RCEP閣僚会合
【来週の予定】
8月27日 メキシコ7月貿易統計発表
27日 ケニア・ケニヤッタ大統領が米・トランプ大統領と会談(ワシントン)
27-9月7日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)第51回作業部会B及び作業部会AとBのジョイントミーティング(ウィーン)
28日 第37回 市民的及び政治的権利に関する国際規約締約国の臨時会議(ニューヨーク)
28日 メキシコ7月雇用統計発表
28日 米国連邦議会予備選挙(アリゾナ、フロリダ)
29日 米国第2四半期GDP(改定値)発表
30日 英・メイ首相がケニアを訪問
30日 ブラジル7月全国家計サンプル調査発表
31日 EU7月失業率発表
31日 ブラジル第2四半期GDP発表
9月1日 韓国通常国会開会
1日 モーリタニア・国民議会の選挙
1-30日 H-IIBロケット7号機(宇宙ステーション補給機)打ち上げ(種子島宇宙センター)
2日 ルワンダ・下院の選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問