外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2018年8月7日(火)

外交・安保カレンダー(8月6-12日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


あの「歴史的」な米朝首脳会談から2カ月経ったが、北朝鮮非核化問題の進展はあまり芳しくない。筆者の周辺では、今回の首脳会談を北東アジア和平の「重要な第一歩」などと礼賛するばかりか、「鉄は熱い内に打て」とばかり、日本も対北朝鮮政策を変更すべしなどという意見すらあった。

しかし、本当に北朝鮮の「鉄」は「熱かった」のだろうか、そもそも打つべき「鉄」はあったのか、「鉄」よりも打つ「ハンマー」の方が先に熱くなってしまったのではないか。こんなことをジャパンタイムスの英語コラムに書いてみた。ご関心の向きはご覧頂きたい。

6月12日の米朝首脳会議直後、筆者は米朝交渉をボクシングに例えた上で、1Rは北朝鮮の粘り勝ちだが、2R目は未知数と書いた。しかし、今振り返ってみると、2Rはまだ始まっていない気がする。そもそもリング上では何も起きていないのではないのか。こんなことで3Rは始まるのか。北朝鮮の意図を改めて推測しよう。

北朝鮮には非核化する気が全くないとまで言い切る自信はないが、少なくとも「北朝鮮の核兵器と開発計画の廃棄」なるものは最後の切り札として、交渉の最終段階まで温存する可能性が高いのではないか。北にとってトランプ氏のような交渉相手は飛んで火に入る夏の虫であり、最後まで利用することは間違いなかろう。

政治的に見れば、トランプ氏は中間選挙まで北朝鮮との交渉について失敗を認めることができない。あくまで成功していると言い続けるしかないだろう。そのような状況の下で北朝鮮が「切り札」を温存するには、飴と鞭が必要だ。米兵士の遺骨返還は飴であり、ミサイル開発報道は鞭を象徴している。こうした傾向は当面続くだろう。

トランプ政権内の温度差が大きくなりつつあることも気になる。これは北朝鮮だけでなく、対ロシア政策についても同様だ。北朝鮮の「段階的」「同時進行」を重視する交渉態度についてトランプ氏以外の米政府関係者は苦々しく思っていることだろう。交渉の最大の障害はトランプ氏自身であり、それは米国内政とも密接な関連がある。

日本は北朝鮮にどう向き合うべきか、とよく聞かれるが、日本は何が起きても動揺せず、「最大限の圧力」という今の立場を続けるべきだ。拉致問題進展のチャンスは必ず来る。それまでは北と接触を続け対話の可能性を探るしかない。米朝交渉が停滞すれば、北朝鮮の優先順位も変わる。中間選挙後にまた動きがある筈だ。

北は今後も核弾頭とミサイルの全ての面で秘密裏に開発計画を維持する可能性が高い。小型化、高性能化を進めると同時に、米との和平交渉を模索するだろう。これを止めるためには幾つか条件がある。米国には戦略的判断ミスを行わないよう働きかけ、中国には北に対する圧力を継続させ、韓国には前のめりの危険を諭す。

言うは簡単だが実行は難しいだろうが・・・。

〇欧州・ロシア
西欧は今週も本格的夏休みで特記すべき事項はない。

〇中東・アフリカ
7日に米国の対イラン制裁が強化される。第1弾は自動車や鉄鋼などだが、11月には第2弾となる石油や金融の猶予期間も終わるという。その後もイランと取引を続けた企業には制裁金や米国での商業活動禁止が課される恐れがあるという。イラン国内が騒がしくなりつつある今、イラン内政の動きが最も気になるところだ。

〇東アジア・大洋州
今週は日露2+2がモスクワで、ASEAN外相関係の一連の会議がシンガポールでそれぞれ開かれるのが目玉だ。これ以外では、31日に朝鮮半島で南北軍当局が将軍レベルの会合を行うという。先週23日の南北朝鮮卓球・射撃競技会閉幕、24日の南北鉄道線路共同検査に続き、南北接触だけが続いている。不思議な世界だ。

〇南北アメリカ
トランプ氏は2016年米大統領選中に長男がロシア人弁護士と秘密裏に面会した目的はクリントン民主党候補に不利な情報を得るためだったと認めたそうだ。あれあれ、以前はロシアの法律について話しただけと言っていたのに・・・。「完全に合法」だと主張するが、これがトランプ陣営とロシアとの合作でなくて何なのか?
ベネズエラで大統領の演説中に爆発物を積んだドローンにより少なくとも1回の爆発が発生。同国政府は大統領暗殺が目的と断定したそうだ。犯行はコロンビアやベネズエラ亡命者が多く住む米フロリダ州との関係が疑われる右派勢力との見方だが、大統領暗殺計画にしてはお粗末ではないか。

〇インド亜大陸
4日からインドの対外関係相がキルギスとウズベキスタンを訪問する。16世紀初頭から北インド、17世紀末から18世紀初頭にはインド南端部を除くインド亜大陸を支配し、19世紀後半まで存続したムガル帝国の起源は中央アジアだったことを知れば、こうしたインドの動きもより深く理解できるだろう。今週はこのくらいにしておこう。

7月30日-8月8日 河野外務大臣がロシア、シンガポール、ミヤンマー及びバングラデシュ訪問
7月30日-9月14日 ジュネーブ軍縮会議 第3部(ジュネーブ)
2-11日 堀井外務大臣政務官が豪、トンガ、クック諸島、フィジー、キリバス及びマーシャル諸島を訪問
2-12日 Gaikindo Indonesia International Auto Show(GIIAS)2018
5-6日 佐藤外務副大臣がエリトリアを訪問
6日 広島原爆の日
6日か7日 ロシア7月消費者物価指数(CPI)発表
6-10日 第21回人権理事会諮問委員会(ジュネーブ)
7日 米国連邦議会予備選挙(カンザス、ミシガン、ミズーリ、ワシントン)
7日 コロンビア新大統領就任式
7日 ファルコン9(インドネシアの通信衛星Merah)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
7-9日 グテーレス国連事務総長が訪日
8日 中国7月貿易統計発表
8日 タイ銀行金融政策委員会
8日 ブラジル7月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
8日 バングラデシュ・アリー外相がミヤンマーを訪問
8-10日 Vietnam Manufacturing Expo 2018
9日 メキシコ7月CPI発表
9日 中国7月CPI、PPI発表
9日 長崎原爆の日
9日 河野外務大臣とグテーレス国連事務総長が会談(長崎市)
9日 河野外務大臣及びグテーレス国連事務総長が長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に出席(長崎市)
10日 インド6月鉱工業生産指数発表
10日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル6月月間小売り調査発表
10日 米国7月CPI発表
10日 日韓文化・人的交流推進に向けた有識者会合の開催(外務省) 
10日 インドネシア大統領選 候補者登録締め切り
11日 米国連邦議会予備選挙(ハワイ)
11日 デルタVIヘビー(太陽観測衛星パーカー・ソーラー・プローブ)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
12日 第5回カスピ海沿岸諸国首脳会議(カザフスタン・アクタウ)
12日 マリ大統領選挙(第二回投票)

【来週の予定】
14日 中国7月固定資産投資、社会小売品販売総額発表
14日 米国連邦議会予備選挙(コネチカット、ミネソタ、バーモント、ウィスコンシン)
15日 米国7月小売売上高統計発表
15日 パラグアイ大統領就任式
15日 韓国・光復節(北朝鮮・解放記念日)
15日か16日 ロシア1-7月鉱工業生産指数発表
16日 マレーシア裁判所が北朝鮮の金正男氏殺害の実行犯に公判続行の是非判断
17日 ユーロスタット、7月CPI発表
17日 ファルコン9(Telstar18 VANTAGE)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
19日 シンガポール首相、独立記念演説(ナショナルデー・ラリー)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問