キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年7月31日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
今週は那覇でこの原稿を書いている。今年沖縄に来るのは3月以来二度目、今回は地元経済団体の集まりで話す機会を頂いたのだ。これまでは普天間や名護といった在沖米軍関係施設やリゾート施設を訪れる機会が多かったが、今回は那覇市内で沖縄経済界トップから直接話を聞くことができた。
沖縄経済は好調だ。成長率は高く、人口も140万に増えている。東京、大阪、名古屋といった大都市圏以外ではダントツだ。最近九州のある銀行が沖縄に支店を二つも作ったそうだ。本土の地方で人口が減少する中、沖縄で優良な顧客を集めようとしているという。実に象徴的な話ではないか。
理由は幾つかある。知りたければ那覇市中心部の国際通りを歩けばよい。筆者が外務省を辞めた13年前、当時の那覇は日米安保条約課長だった20年前とあまり変わらなかったが、今や沖縄は外国人旅行者で溢れている。昔県庁は外国人旅行者10万人誘致を計画したそうだが、今は一年に300万人来るそうだ。
確かに空港から市内に入る際、港に大型客船が停泊しているのが見えた。過去5年ほどはこうした客船と格安航空便と円安が追い風となり、県内では観光を中心にサービス産業が活況を呈している。しかも、沖縄ではIT産業も成長している。そういえば、那覇中心部の地価上昇率が日本一という話を思い出した。
沖縄に思い入れの強い筆者にはこれほど嬉しいことはない。講演では今日の沖縄経済の発展は沖縄県民の努力に加え、日本を取り巻く経済情勢、中国経済の発展、地域の安保バランスなど全ての環境が安定するからこそ実現したものであり、今後も安定した環境を維持することが沖縄の「大戦略」だと述べた。
今週は欧米諸国が夏休みに入ったのか、あまり大きなイベントがないので、久しぶりに日本外交に焦点を当てたい。7月30日から8月8日までの10日間、河野太郎外相が長期出張するという。訪問先はモスクワ、シンガポール、ミャンマーのネーピードー、バングラデシュのダッカだそうだ。ご苦労様である。
モスクワでは目玉は日露外務・防衛閣僚協議(「2+2」)、シンガポールでは日・ASEAN外相会議、ASEAN+3(日中韓)外相会議、東アジア首脳会議(EAS)参加国外相会議、ASEAN地域フォーラム(ARF)閣僚会合に出席する。ミャンマーではスー・チー国家最高顧問兼外相と、ダッカではバングラ外相と会談する。
河野外相といえば、外遊用に「外相専用機」を「おねだり」したなどと揶揄されたが、筆者は同情的だ。G7など主要国の外相なら専用機を持っても決して不思議ではない。しかも日本のように閣僚を「安売りする」国では、外相の外国出張に使える時間が極端に少なくなる。専用機を考えるのは当然だろう。
確かにカネはかかる。それが駄目というなら、総理大臣以下閣僚の「働き方」改革が必要だ。そもそも、今の国会審議は何だ。50年前とちっとも変っていない。予算委員会の総括(的)質疑では質問の有無にかかわらず全閣僚が出席を強いられる。こんな「田舎議会」の風習を改めない国会こそ改革が必要だ。
〇欧州・ロシア
どうやら西欧は本格的夏休みに入ったようだ。特記すべき事項はない。
〇中東・アフリカ
欧州方面ではロシアだけが仕事をしている。今週ソチでイランとトルコの代表を集め会談を行うらしい。当然議題はシリアだ。同国をめぐるイスラエルとイランとの対立が更にエスカレートしており、協議が必要になったのかもしれない。これに比べると米国の動きには戦略性が感じられない。まあ、トランプ政権では無理なのだろうが。
〇東アジア・大洋州
今週は日露2+2がモスクワで、ASEAN外相関係の一連の会議がシンガポールでそれぞれ開かれるのが目玉だ。これ以外では、31日に朝鮮半島で南北軍当局が将軍レベルの会合を行うという。先週23日の南北朝鮮卓球・射撃競技会閉幕、24日の南北鉄道線路共同検査に続き、南北接触だけが続いている。不思議な世界だ。
〇南北アメリカ
先週もトランプ氏の元個人弁護士がCNNなど「フェイクニュース」の話題を独占している。先々週この弁護士はトランプ氏との会話の録音テープの内容を暴露したが、先週は更に、トランプ氏が「2016年6月のトランプタワーでの息子や義理の息子のロシア人弁護士との会合の内容を事前に承知・承認していた」と言い出したのだ。
この話が本当だとすれば、トランプ氏が繰り返し「ロシアとの共謀はない」と主張してきた根拠が根底から崩れることになる。トランプ氏にとっては大きな痛手となる可能性が高い。当然、トランプ陣営は全面否定だが、元個人弁護士はモラー特別検察官に証言するとまで言っている。ますますウォーターゲート事件に似てきた気がするが・・・。
〇インド亜大陸
パキスタンの総選挙で野党第2党だったパキスタン正義運動(PTI)が115議席を獲得し第1党となった。与党パキスタン・イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)が64議席だから大勝利だ。今後連立工作を急ぎ早期の政権発足をめざすという。今週はこのくらいにしておこう。
24-31日 対日理解促進交流プログラム・米国の高校生96人が訪日
27-30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29-8月2日 マルタ共和国・ムスカット首相が訪日
29-8月2日 対日理解促進交流プログラム・第25回日韓高校生交流キャンプで韓国の高校生が来日(広島)
30日 米・イタリア首脳会談(ワシントン)
30日 英・ハント外相が訪中
30日 ジンバブエ大統領及び総選挙
30日 コモロ国民投票
30日- 「国連アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト 第6回訓練開始」
30-8月8日 河野外務大臣がロシア、シンガポール、ミャンマー及びバングラデシュ訪問
30-9月14日 ジュネーブ軍縮会議 第3部(ジュネーブ)
31日 日露外相会談及び日露外務・防衛閣僚協議(「2+2」)
31日 米6月個人消費支出(PCE)発表
31日 EU第2四半期GDP発表、6月失業率発表
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日 ブラジル中銀、Copom
31日 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)・中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)「地域における平和・安全」首脳会議(トーゴ)
31-8月1日 米国FOMC
31-8月2日 自民党二階派夏期研修会をソウルで開催
8月1日 ブラジル中銀、Copom
2日 日・ASEAN外相会議(シンガポール)
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日 米国連邦議会予備選挙(テネシー)
3日 日・メコン外相会議(シンガポール)
3日 米国6月貿易統計、7月雇用統計発表
4日 ASEAN+日中韓外相会議、東アジアサミット外相会議及びARF閣僚会合(シンガポール)
4日 南北、離散家族再会行事の参加者リスト交換
4日 ファルコン9(インドネシアの通信衛星Merah)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
【来週の予定】
6日か7日 ロシア7月CPI発表
7日 米国連邦議会予備選挙(カンザス、ミシガン、ミズーリ、ワシントン)
7日 コロンビア新大統領就任
8日 中国7月貿易統計発表
8日 ブラジル7月IPCA発表
9日 中国7月CPI、PPI発表
9日 メキシコ7月CPI発表
10日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
10日 ブラジル6月月間小売り調査発表
10日 インド6月鉱工業生産指数発表
10日 米国7月CPI発表
10日 日韓文化・人的交流推進に向けた有識者会合の開催(外務省)
11日 米国連邦議会予備選挙(ハワイ)
11日 デルタVIヘビー(太陽観測衛星パーカー・ソーラー・プローブ)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
12日 第5回カスピ海沿岸諸国首脳会議(カザフスタン・アクタウ)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問