外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2018年7月24日(火)

外交・安保カレンダー(7月23-29日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


今週は、このコラムにしては珍しく、中国内政に関する「噂話」を真正面から取り上げる。理由は、ゴシップの中身もさることながら、この程度のことを大々的に報じるいい加減な中国関連記事が日本は勿論、世界にも少なくないからだ。最近はトランプ氏、金正恩氏、プーチン氏による田舎芝居の影で中国の出番がなかったからだろうか。

まずは事実関係と噂の内容のみを可能な限り客観的に述べよう。

●7月4日朝、上海で若い女性が「習近平の独裁的専制的暴政に反対する」などと述べながら、市内の看板上の習近平の顔に墨汁をかけ、その後拘束された。
●7月9日と15日付人民日報の一面に「習近平」の文字がなかった。12日には北京の警察が「習近平の写真・画像やポスターおよび宣伝品」を撤去するよう通知した。
●最近、党内序列五位の王滬寧政治局常務委員・党中央書記処常務書記の動静が確認できなくなり、失脚が噂されている。 
●香港メディアによれば、江沢民・胡錦濤・朱鎔基ら党長老が習近平への個人崇拝に不満を抱き、政治局拡大会議を開いて習近平を失脚させる動きがある。

他にもあるが、もう十分だろう。これだけの事実と噂話だけで中国専門家の一部は実に尤もらしい解説をやってのける。大したものだ。習近平氏の権力集中と個人崇拝に対する不満が、民主活動家だけでなく、党長老や国営メディア関係者の間にも高まりつつあり、習近平派の要人や習近平氏自身も失脚した可能性があるのだという。

本当かね?確か習近平氏は現在外遊中、帰国後は避暑地・北戴河で毎年恒例の共産党幹部非公式会議に臨むはずだ。よく考えてみたら、毎年「北戴河会議」の前後はこの種の面白可笑しい噂が氾濫する時期でもある。中国に限らないことだが、ある国の内政分析には公開情報をじっくりと読み込み努力が不可欠だと痛感する。

公開情報という点なら、今週は次の誇り高き男同士の(およそ大人気ない)公開舌戦も実に興味深かった。主役はトランプ氏とイランのロウハニ大統領。現在米国はイランに対する攻勢を強めており、22日にはポンペイオ国務長官が亡命イラン人の前で政治・経済面などで対イラン圧力を強化すると演説している。ここからが面白い。

同日、ロウハニ大統領は「米国は・・・イランとの戦争があらゆる戦争の母となることを知るべきだ。君らはイランの安全と利益に反してイラン国民を扇動する立場にはない。America should know that ...war with Iran is the mother of all wars. You are not in a position to incite the Iranian nation against Iran's security and interests」などと述べ、「虎の尾を踏むな」と米国を強く批判、ホルムズ海峡の封鎖まで示唆した。

これに対し、トランプ氏はこうツイートした。「イランのロウハニ大統領へ:努々(ゆめゆめ)米国を再び脅迫などするなよ。さもないと歴史上殆ど誰も被ったことのない結果になるぞ・・・。気を付けろ!(To Iranian President Rouhani: NEVER, EVER THREATEN THE UNITED STATES AGAIN OR YOU WILL SUFFER CONSEQUENCES THE LIKES OF WHICH FEW THROUGHOUT HISTORY HAVE EVER SUFFERED BEFORE......BE CAUTIOUS!)

実に品のない言葉の応酬だが、下品な米国人と誇り高きイラン人による「言葉のボクシング」、皆さんはどちらのパンチがより優れていると思われるだろうか。個人的に筆者はwar with Iran is the mother of all warsという表現が気に入っている。恐らくペルシャ語の慣用句なのだろう。流石はイラン、ではないだろうか。

〇欧州・ロシア
どうやら西欧は夏休みに入りつつあるようだ。目ぼしいところでは26日に仏大統領がスペインを訪問することと、同日にドイツで欧州各国中央銀行の会議が予定されていることぐらい。東欧もほぼ同様で、例外は28日から8月11日までロシア、中国、イランなどが主催する国際陸軍ゲーム大会、今年は27カ国が参加するという。

〇中東・アフリカ
シリアをめぐりイスラエルとイランとの対立が顕在化しつつあるが、24日には国連安保理でパレスチナ問題の公開討論が行われる。但し、中東現地では、冒頭ご紹介したイランと米国間の舌戦以外にあまり大きなニュースがない。一方、アフリカでは、今週韓国首相のタンザニア訪問とインド首相のルワンダ、ウガンダ訪問が予定され、25-27日にはBRICS首脳会議が南アフリカのヨハネスブルクで開催される。

〇東アジア・大洋州
23日に南北朝鮮の卓球・射撃競技会が閉幕し、24日には南北で鉄道線路の共同検査を行うという。北朝鮮が非核化問題で全く動きを見せない中で、南北だけが動いているのは異様に見えるのだが、ご本人たちはそう思っていないようだ。27日に本来なら北朝鮮が米兵の遺体を返還する予定だったが、一体どうなるのだろう。

〇南北アメリカ
今米国でちょっとした騒ぎになっているのはトランプ氏の元個人弁護士の動きだ。この弁護士はトランプ氏と例のポルノ女優や元プレイメイトとの情事に関する口止め料支払いを仕切った男だ。3月初頭に事務所が家宅捜索されたのだが、何とそこでトランプ氏との電話会話の録音テープが出てきたのだという。これは面白い。
ウォーターゲート事件とは異なり、これまでトランプ氏のスキャンダルでは録音テープがなかったので、ようやく出てきたかという感じだ。トランプ氏は「彼が録音するとは思いもしなかった」と述べたそうだが、筆者だったら必ず録音するだろう。トランプ氏の朝令暮改は有名だから、録音でもしておかないと大火傷しかねないからだ。

〇インド亜大陸
25日にパキスタンで総選挙がある。内容次第では来週取り上げよう。今週はこのくらいにしておこう。

2-27日 自由権規約人権委員会 第123回会合(ジュネーブ)
17-27日 第23回東アジア地域包括的経済連鎖(RCEP)交渉会合の開催
21-27日 中根外務副大臣が英国、キプロス、ギリシャ及びフランス訪問
22-29日 岡本外務大臣政務官がメキシコ及びグレナダ訪問
23日か24日 ロシア1-5月貿易統計発表
23-25日 伊達参院議長がロシアを訪問
23-26日 APECビジネス諮問委員会(マレーシア・クアラルンプール)
23-27日 国連人権理事会 ワーキンググループ(ニューヨーク)
23-27日 大島衆院議長が中国を訪問
24日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
24-25日 国連経済社会理事会(ECOSOC)実質会期(ニューヨーク)
24-26日 我が国主催PSI海上阻止訓練「Pacific Shield18」の実施
25日 パキスタン総選挙
25日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
25日 ODAに関する有識者懇談会の開催・第1回会合
25日 ファルコン9(イリジウム・ネクスト10機)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
25日 アリアン5(航法測位衛星ガリレオシリーズ4機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
25日か26日 ロシア6月雇用統計発表
25-27日 BRICS首脳会議(南アフリカ共和国・ヨハネスブルク)
26日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策、フランクフルト)
26日 国連経済社会理事会(ECOSOC)組織会期(ニューヨーク)
26日 メキシコ6月雇用統計発表
26-27日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
27日 メキシコ6月貿易統計発表
27日 ロシア中央銀行理事会
27日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
27日 朝鮮戦争休戦協定締結65周年
27-28日 G20農業相会合(ブエノスアイレス)
27-30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29日 カンボジア国政選挙
29日 マリ大統領選挙
29日 和歌山市長選挙

【来週の予定】
30日 ジンバブエ大統領及び総選挙
30日 コモロ国民投票
30日- 「国連アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト 第6回訓練開始」
30-9月14日 ジュネーブ軍縮会議 第3部(ジュネーブ)
31日 西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)・中部アフリカ諸国経済共同体(ECCAS)「地域における平和・安全」首脳会議(トーゴ)
31日 米6月個人消費支出(PCE)発表
31日 EU第2四半期GDP発表
31日 EU6月失業率発表
31日 ブラジル6月全国家計サンプル調査発表
31日 ブラジル中銀、Copom
31日-8月1日 米国FOMC
1日 ブラジル中銀、Copom
2日 ブラジル6月鉱工業生産指数発表
2日 米国連邦議会予備選挙(テネシー)
2日 ファルコン9(インドネシアの通信衛星Merah)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
3日 米国6月貿易統計、7月雇用統計発表


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問