キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年7月17日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
今週は内容を急遽変更したため掲載が遅れてしまった。心からお詫び申し上げたい。理由は簡単、昨晩というか、今朝未明にあった米露首脳会談の共同記者会見を見て考えを変え、全文を書き直したためである。先週はポンペイオ米国務長官の話を取り上げたが、今週はそれより酷い話を取り上げざるを得ないだろう。ちなみに今週は札幌行き全日空便から送っている。便利になったものだ。
昨夜から今朝未明に至るCNNの報道は常軌を逸していた。トランプ氏のパーフォーマンスはdisastrous、史上最悪、disgraceful、米大統領プーチンの軍門に下る、などといった煽情的報道ばかり。トランプ氏が2016年の大統領選挙でロシアが介入したとの米情報機関の判断を無視し、プーチンに強く抗議しなかったというのが理由だ。
今回のトランプ氏の言動は信じ難いものが少なくなかった。ブラッセルでNATO年次首脳会議直前にNATOの要であるドイツ首相を辱め、イギリスでは反トランプデモの嵐が吹き荒れるロンドンを意図的に回避し、フィンランドで米露首脳会談で多くの欧州同盟国首脳を立腹させたのは、他ならぬトランプ氏自身だったのだから。
確かに、今回ほど米国の現職大統領がお粗末に見えたことはちょっと記憶にない。昔日本にも「宇宙から来た」内閣総理大臣がおられたが、彼を100倍悪くして米国大統領にしたのがトランプ氏だといえば、米国エリート層の何ともやり切れない気持ちがご理解いただけるかもしれない。
とにかく今回明らかになったことは、今更ではあるが、トランプ氏が少なくとも北米・欧州同盟の機能維持に殆ど関心を有していないという事実だ。トランプ氏の米国はこれまで欧州主要国の指導者が慣れ親しんできた、「アロガントだが、普遍的価値については妥協しない、頼もしい」米国ではない。彼らの恐れは今回的中したのである。
トランプ氏の米国は最早、現状維持勢力ではない。現状破壊者とまではいわないが、これまで欧米のエリート層が育て守ってきた「自由で開かれた国際・国内秩序」(トランプ陣営ではこれを『ディープステート』と呼ぶ)を忌み嫌い、これに常に反発するという意味では、むしろ中露の発想に近いのかもしれない。
筆者が最も残念に思うことは、トランプ政権の外交安全保障チームの惨状だ。先週はポンペイオ氏を「本来保守強硬派ながら、北朝鮮の理不尽な態度に席を立つことも出来ない哀れな国務長官」などと失礼なことを書いたが、今週はトランプ氏の「殿ご乱心」を諫め修正すべき彼ら全員に、「君たちは一体何をしているのか」と言いたい。
これまで多くの前任者が正論を吐いて更迭されてきたことは事実だ。しかし、今彼ら、すなわちポンペイオ国務長官、ボルトンNSC補佐官、マティス国防長官以下、が声を上げなかったら、米国外交は間違いなく誤った方向に動き始め、後戻りが出来なくなる恐れがある。心ある識者であれば十分ご理解いただけるだろう。
もちろん、彼らからすれば、「そんなことは判っている」のだが、それを言ってしまえば、「いずれ更迭される」という恐ろしいジレンマがある。さて、読者の皆さんがポンペイオ、ボルトン、マティス各氏だったら、如何に振舞うだろうか。そもそも、こんな仕事を受けたのが間違いだったのではないか。やはり筆者はまっぴらご免である。
今週はこのくらいにしておこう。
2-27日 自由権規約人権委員会 第123回会合(ジュネーブ)
10-19日 対日理解促進交流プログラム・韓国青年訪日団(第1団)が訪日
11-17日 岡本外務大臣政務官が米国訪問
15-17日 中根外務副大臣がウズベキスタンを訪問
16日 EU外相理事会(ブリュッセル)
16日 米露首脳会談(ヘルシンキ)
16日 米国6月小売売上高統計発表
16日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
16日 中国第2四半期経済指標(GDP、CPI、固定資産投資、社会小売品販売総額など)発表
16日か17日 ロシア上半期鉱工業生産指数発表
16-17日 EU競争担当相理事会 非公式会合
16-17日 オバマ元大統領がケニアを訪問
16-19日 国連経済社会理事会(ECOSOC)実質会期(ニューヨーク)
16-20日 国連人権理事会 ワーキンググループ(ニューヨーク)
17日 安倍首相とEUユンケル欧州委員長が会談し、日本とEUの経済連携協定(EPA)署名式(東京)
17日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
17-18日 EUユンケル欧州委員長が来日
17-27日 第23回東アジア地域包括的経済連鎖(RCEP)交渉会合の開催
18日 EU6月CPI発表
18日 ベージュブック(FRB)
18-20日 ハンガリー・オールバン首相がイスラエルを訪問
18-21日 第11回ベトナム国際電気技術・設備展(VIETNAM ETE 2018)
19日 長征3A(航法測位衛星第二世代北斗Ⅰ7)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
19-20日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会 雇用・社会政策担当相非公式会合(ウィーン)
20日 EU一般問題理事会(Art.50)(ブリュッセル)
21-22日 G20財務相・中央銀行総裁会合(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
22日 ファルコン9(Telstar 19V)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
【来週の予定】
23日か24日 ロシア1-5月貿易統計発表
23-26日 APECビジネス諮問委員会(マレーシア・クアラルンプール)
23-27日 国連人権理事会 ワーキンググループ(ニューヨーク)
24日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
24-25日 国連経済社会理事会(ECOSOC)実質会期(ニューヨーク)
24-26日 我が国主催PSI海上阻止訓練「Pacific Shield18」の実施
25日 パキスタン総選挙
25日 メキシコ5月小売・卸売販売指数発表
25日 ファルコン9(イリジウム・ネクスト10機)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
25日 アリアン5(航法測位衛星ガリレオシリーズ4機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
25日か26日 ロシア6月雇用統計発表
25-27日 BRICS首脳会議(南アフリカ共和国・ヨハネスブルク)
26日 国連経済社会理事会(ECOSOC)組織会期(ニューヨーク)
26日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策、フランクフルト)
26日 メキシコ6月雇用統計発表
26-27日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
26-29日 ニュージーランド・フードショ―「Food Show」
27日 メキシコ6月貿易統計発表
27日 ロシア中央銀行理事会
27日 米国第2四半期GDP(速報値)発表
27日 朝鮮戦争休戦協定締結65周年
27-28日 G20農業相会合(ブエノスアイレス)
27-30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29日 カンボジア国政選挙
29日 マリ大統領選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問