キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年6月19日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
6月12日に行われた米朝首脳会談から一週間経った。今も各国メディアはあの異様ともいえる余韻の中で侃々諤々の議論を報じ続けている。確かに個々の短期的結果は重要だろうが、筆者はあの米朝首脳会談が持つ中長期的インパクトにより関心がある。特に注目すべきは65年前の朝鮮戦争休戦協定ではないか。
朝鮮国連軍、朝鮮人民軍、中国義勇軍の司令官が署名したこの合意は朝鮮半島分断を固定化しつつも、東アジアに一定の安定をもたらした。その安定が日本の戦後復興、韓国の漢江の奇跡、中国の改革開放を可能にした。筆者が1953年体制と呼ぶこの安定の枠組は、今日までこの地域の平和と安定を支えてきたのである。
米朝首脳会談はこの1953年体制なる安定要素に如何なる影響を及ぼすのだろうか。これについて論じたのが今週木曜日の産経新聞コラムだ。詳しくは同コラムに譲るが、トランプ氏がそのことをどこまで理解した上で交渉を行っているのか、実に疑わしい。恐らく何も考えていないのではないか。
この調子でトランプ氏が衝動的外交政策決定を繰り返せば、恐らく、①米国の国際的影響力や指導力は地に落ち、②それを見て中露が狂喜乱舞し、③北朝鮮は核兵器開発を予定通り秘密裏に進め、④中東のテロリストたちは新たな作戦の準備を開始するだろう。
その時、⑤欧州、アジア、中東の同盟国は米国なき自由陣営を如何にグローバルレベルで維持するかについて最終的に合意できず、右往左往するだろうことは目に見えている。それでも共和党が大幅に議席を失う兆候はない。トランプ氏の支持率は下がるどころか、上昇すらしているという。
2020年にトランプ氏が再選されれば、こうした現状が更に4年続くことになる。米国の統治機構は既に確実に壊れ始めているが、トランプ氏の再選で米国が統治能力と政治指導力を不可逆的に喪失する可能性が一層高まるだろう。1953年体制が変質すれば日本の安全保障政策の見直しは必至だが、そうなっては最早手遅れなのだ。
〇欧州・ロシア
18日に英国議会上院がEU離脱法案を採決する。19日には仏独首脳が会合しEU改革案を話し合う。21日にはユーロ圏諸国がギリシャ債務問題を議論する。・・・要するに欧州は変わらないということか。それとも、ワールドカップの最中でそれどころではないということか。21日に韓国大統領が訪露する。文在寅大統領は必死だ。
〇中東・アフリカ
ラマダンは明けたが、イラク内政は混乱が続いている。5月の総選挙後の連立政権発足に向けた交渉が纏まらないのだ。アバディ前首相の「勝利連合(ナスル)」は第三党に後退し、代わってシーア派の非妥協的法学者ムクタダ・サドルの政党連合が第一党に躍進したのだから仕方がない。
昔からサドルは妥協を嫌う難しい政治家だったが、彼が第一党の代表となれば、政治が混乱するのも当然だ。新政権の課題が経済改革の推進や非効率補助金の廃止、腐敗利権ネットワークの解体という点でもイラクは全く変わっていない。いつになったらイラクに安定した新政権ができるのか。このままでは未来永劫難しいだろう。
〇東アジア・大洋州
今週も朝鮮半島では南北会合が目白押しだ。18日にはスポーツ交流について、22日には赤十字関連会合が開かれる。こうした会合が続く限り戦争にはならないが、同時に核兵器の開発も中止されないだろう。本当にこんなことを繰り返して成果が出るのだろうか。今は誰もこの正論を吐く勇気を持ち合わせていないようだ。
〇南北アメリカ
米中だけでなくトランプ政権の対外貿易戦争は今後も欧州や北アメリカで続きそうだ。6月22日には自動車関税に関するパブリック・コメントが締め切られる。最悪の場合、輸入普通車・トラックに高関税が課される可能性がある。
続いて30日には米財務省が投資制限の対象となる中国企業のリストを公表する予定だ。中国人に対するビザの制限、中国企業によるテクノロジー関連投資の制限などが検討されているという。
7月に入ると1日にカナダの対米国製品報復関税が発効し、同日にはメキシコ大統領選がある。その後もEUによる報復関税が発効しそうなので要注意だ。19、20日には通商拡大法232条に基づく自動車輸入に関する公聴会が開かれる。すべては中間選挙のためということだが、本当にそれだけで良いのだろうか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
11-29日 国際民間航空機関(ICAO)Council Phase 第214回会合(モントリオール)
18日か19日 ロシア第1四半期経済活動別GDP速報値及び1-5月鉱工業生産指数発表
18日 中国端午節(中国休日)
18日 韓国と北朝鮮がスポーツ協力で会談(板門店・平和の家)
18日 NATO加盟国国会議員会議代表団訪日の歓迎レセプション(飯倉公館)
18日 ソユーズ2.1b(ロシア測位衛星Glonass 756)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
18-19日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
18-21日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
18-21日 ベナン共和国・アベノンシ外務・協力大臣が訪日
18-22日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会 年次会合(ローマ)
18-7月6日 国連人権理事会 第38回会合(ジュネーブ)
19日 日・インド次官級2+2対話を開催
19-20日 ブラジル中央銀行・金融政策委員会(Copom)
19-20日 国連ウィメン執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
19-21日 国連経済社会理事会(ECOSOC)実質会期(ニューヨーク)
19-24日 ネパール・シャルマ・オリ首相が中国を訪問
20日 G20鉄鋼の過剰設備に関するグローバルフォーラム(フランス・パリ)
20日 米国・1-3月期(第1四半期)経常収支(商務省)
20日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗 2機)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
20-29日 世界気象機関(WMO)執行理事会 第70回会合(ジュネーブ)
21日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務省会合)(ルクセンブルク)
21日 黒海経済協力機構外相会合(アルメニア・エレバン)
21日 イングランド銀行(英中銀)金融政策委員会が金融政策と議事録を発表
21日 外務省主催・平成30年度第1回地域の魅力発信セミナーを開催(東京)
21か22日 ロシア1-4月貿易統計発表
21-22日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ルクセンブルク)
21-23日 韓国・文大統領がロシア訪問
22日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
22日 OPEC定例総会(オーストリア・ウィーン)
22日 南北赤十字会談(北朝鮮・金剛山)
23日 沖縄慰霊の日
24-7月4日 第42回ユネスコ・世界遺産委員会(バーレーン・マナーマ)
24日 トルコ大統領選及び総選挙
24-26日 ニュージーランド・ファインフードショー「Fine Food NZ 2018」(オークランド)
【来週の予定】
25日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
25日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
25日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)
25日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
25日 朝鮮戦争勃発から68年
25か26日 ロシア5月雇用統計発表
25-26日 アジアインフラ投資銀行(AIIB)年次会合
25-7月13日 国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)第51回会合(ニューヨーク)
26日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
26日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ルクセンブルク)
26日 米国連邦議会予備選挙(コロラド、メリーランド、ニューヨーク、オクラホマ、ユタ)
26日 小笠原諸島返還50周年
26日 メキシコ5月雇用統計発表
27日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
27日 メキシコ5月貿易統計発表
27-29日 軍縮問題諮問委員会 第70回会合(ニューヨーク)
28日 ECB一般理事会(フランクフルト)
28日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
28-29日 欧州理事会(ブリュッセル)
28日 米国第1四半期GDP(確定値)発表
28日 一帯一路サミット(香港)
28-29日 欧州理事会(ブリュッセル)
29日 米国5月個人所得・支出(商務省)
29日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
29日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン15号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
7月1日 オーストリアがEU議長国に就任
1日 米国大統領貿易促進権限(TPA)法による米大統領の通商権限期限(議会が承認した場合には2021年7月1日まで延長可)
1日 メキシコ大統領選及び連邦上院下院選
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問