キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年5月29日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
たった一週間でこれほど首脳会談の日程が二転三転した例は記憶にない。北朝鮮が「首脳会談を受け入れるべきか再考せざるを得なくなる」と述べたのは5月16日。22日には米韓首脳会談冒頭取材でトランプ氏が「米朝首脳会談が実現しなくても構わない」とまで文大統領の目前で言い切った。これで文氏の面子は丸潰れだろう。
二日後の24日、トランプ氏は首脳会談中止を通告しつつも会談開催の可能性も排除しないという実に奇妙な書簡に署名した。金正恩氏は26日に南北首脳会談開催を求め、南北首脳が再び板門店で会談した。トランプ氏の発言も再び前向きとなり、現時点では6月12日に米朝首脳会談が開かれる可能性が再び浮上している。
それにしても、トランプ政権の意思決定過程は一体どうなっているのだろう。同政権の外交安保チームは本当に機能しているのだろうか。ポンペイオ国務長官、ボルトン安保担当補佐官、マティス国防長官の間で温度差があり、現時点ではホワイトハウスにいるボルトンが主導権を握っていると報じられるが、果たして本当にそうなのか。
朝鮮半島の専門家は内心当惑していることだろう。一体何が起きているかについては、トランプ政権の高官ですら100%フォローできていないのだから。それでも、限られた情報の中でコメントしなければならない。こういう時は、誰が読み誤った、いや誰が反撃したなどという奇を衒ったトンデモ分析が乱れ飛ぶことも少なくない。
まずはトランプ外交の評価から。24日の会談中止を伝えるトランプ書簡の英語は「小学生レベル」だと筆者の帰国中の娘婿が嘆いていた。同感だが、文書にするだけまだ良い。内容は現在のトランプ政権外交安保チームの最大公約数なのか。首脳会談に最も前向きなのは、実はトランプ氏自身であることも忘れてはならない。
金正恩は外交上手という分析があるが、果たしてそうか?朝鮮半島の外交は伝統的に「全方位外交」という名の「冊封・朝貢外交」だった期間が長い。考えてみれば、現在の北朝鮮外交も様々な勢力の間で巧みにバランスを取っている。外交巧者というよりは、外交的失敗を犯さないよう必死に立ち回っているように見えるのだが。
続いて中国だが、22日の米韓首脳会談冒頭でトランプ氏は「(5月8日の)第二回中朝首脳会談の後、金正恩の態度は微妙に変わった」「中国については気に入らない」などと述べている。これってまさか諜報機関からのブリーフィング内容ではないだろうな。それを喋るとすれば、とんでもない大統領だ。そうでないことを祈るしかない。
そもそもメディア上の通説は、北朝鮮が「中国の後ろ盾を得てより大胆」になったことで米朝首脳会談開催が危うくなったというものだが、これも本当にそうなのか。金正恩の基本的政策は当初柔軟だったが、中国と話しただけで「態度が変わった」とでも言うのか。根拠は何だろう。金正恩とその知恵袋を過小評価するのは危険だ。
過去数週間の間に、米朝首脳会談を題材とした政策シミュレーションを何度か実施してきたが、そこから推測できることは、米朝間の妥協や相互理解の可能性など決して容易でないということ。ボクシングに例えれば、今は第三ラウンドだが、このところ試合の展開が極めて速く、ラウンドの長さも増々短くなっている印象がある。
しかも、独裁的な指導者が事実上の担当官となって外交を動かしている点では米朝とも似たり寄ったり。どうやらこの試合、最終の十ラウンドまでドタバタが続くのではなかろうか。そうした懸念は日本だけでなく、韓国や中国も同様に感じているはずだ。恐ろしい程の予測不能性の中で行われる多国間外交は実に久し振りではないか。
〇中東・アフリカ
イランはEUに対し、いわゆるイラン核合意(JCPOA)の将来に関する新たな計画を5月末までに提示するよう求めているそうだ。しかし、コンセンサスがないと動けないEUがそんなに早く結論を出せるとは到底思えない。やはり、JCPOAは風前の灯なのだろうか。
〇欧州・ロシア
ようやくイタリアで新政府が決まったかと思ったら、やれ空中分解だ、年内に新たな選挙実施だなどと言っている。ローマは相変わらずだ。フランスでは鉄道改革問題でまた抗議運動が燃え盛っている。5月30日、ギリシャでは相変わらず緊縮財政問題でストライキがある。米国の鉄鋼アルミ関税のEUに対する免除は6月1日に失効する。
〇東アジア・大洋州
5月31日にロシア外相が訪朝するという。ついにロシアも動き始めたか。29日からインド首相がインドネシアとシンガポールを、ベトナム国家主席が訪日を、それぞれ予定している。6月1日から恒例のシャングリラ国際安保会議がシンガポールで開かれ、2日からは米商務長官が訪中する。
〇南北アメリカ
今週一週間はブラジルでトラック運転手がストライキを予定している。6月1日には米国が正式に鉄鋼アルミに対する追加関税を発動する。更に、トランプ政権は自動車に対しても安全保障上の理由で新たな関税を考えているらしい。これで米国の国内産業が強くなることはないのに。トランプ氏の政策は増々悪循環に陥り始めたようだ。
〇インド亜大陸
パキスタンで7月の総選挙に向けた準備が始まった以外に特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
14-6月29日 ジュネーブ軍縮会議(CD)第二部(ジュネーブ)
21-6月18日 第14期第5回ベトナム国会開会
25-6月1日 岡本外務大臣政務官が中国及びフランス訪問
27-6月2日 APEC観光担当相会合(ポートモレスビー)
28日 EU外相理事会(ブリュッセル)
28日 メキシコ4月雇用統計発表
28日 アンゴラ大統領がフランスを訪問
28日 米・戦没将兵追悼記念日(為替、債券、株式、商品市場が休場)
28日か29日 ロシア第1四半期貿易統計発表
28-29日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
28-29日 世界保健機関(WHO)執行理事会 第143回会合(ジュネーブ)
28-31日 欧州議会本会議(ストラスブール)
28-6月1日 APEC観光担当相会合(ポートモレスビー)
28-6月8日 国際労働機関(ILO)国際労働総会 第107回会合(ジュネーブ)
28-6月8日 核兵器用核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)に関するハイレベル専門家準備グループ 第二回会合(ジュネーブ)
29日 ブラジル4月全国家計サンプル調査発表
29-30日 ブラジル投資フォーラム(サンパウロ)
29-6月2日 クアン・ベトナム社会主義共和国主席が訪日
30日 米・ペンス副大統領がブラジルを訪問
30日 ブラジル第1四半期GDP発表
30日 米国第1四半期GDP(改定値)発表
30日 ベージュブック(FRB)
30-31日 第25回カスピ海石油ガス国際会議(アゼルバイジャン・バクー)
31日 ユーロスタット、4月失業率発表
31日 米・4月個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
31日 インド第4四半期GDP発表
31日 ロシア外相が北朝鮮を訪問
31日 PSLV(地球観測衛星BlackSky Global1)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
31日 ファルコン9(通信衛星SES12)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
31-6月1日 長崎大主催の安全保障会合(モスクワ)
31-6月2日 G7財務・開発担当相・中央銀行総裁会合(カナダ・ウィスラー)
6月1日 米国5月雇用統計発表
1-3日 アジア安全保障会議(シャングリラ会合)(シンガポール)
2日 長征2D(高分六号と珞珈一号 01,02)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
3日 スロベニア議会選挙
3日 金井宣茂さんがロシア・ソユーズ宇宙船でカザフスタンの草原地帯に帰還
【来週の予定】
4日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
4-5日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
4-8日 UNDP/UNFPA/UNOPS 執行理事会 年次会合(ニューヨーク)
4-8日 国連食糧農業機関(FAO)理事会 第159回会合(ローマ)
4-8日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
4-12日 国連貿易開発会議(UNCTAD)貿易開発理事会 第65回会合 (ジュネーブ)
4-8日 台湾軍、民間人・企業初参加の実弾訓練
4-9日 秋篠宮ご夫婦が米・ハワイを訪問
4-8月24日 「国連アフリカ施設部隊早期展開プロジェクト」第5回訓練開始(ナイロビ)
5日 米国連邦議会予備選挙(カリフォルニア州ほか7州)
5日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
5日 オーストラリア準備銀行理事会
5日か6日 ロシア5月CPI発表
5-6日 WTO知的所有権の貿易関連の側面に関する協定(TRIPS)理事会(ジュネーブ)
5-6日 イノベーションビジネス商談会「Innovfest unbound 2018」(シンガポール)
6日 米国4月貿易統計(2017年の年間補正も)発表
6日 ソユーズFG(国際宇宙ステーション第56次および第57次長期滞在ミッション用ソユーズ)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
7日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
7日 メキシコ5月CPI発表
7日 ユーロスタット、第1四半期実質GDP成長率発表
7-8日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ルクセンブルク)
7-9日 ベトナム国際フィルム・テレビテクノロジー展「Telefilm-Vietnam International Exhibition」(ホーチミン)
8日 中国5月貿易統計発表
8日 ブラジル5月IPCA発表
8-9日 G7首脳会合(カナダ・シャルルボワ)
9日 中国5月CPI発表
10日 スイス国民投票
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問