外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2018年5月15日(火)

外交・安保カレンダー(5月7-13日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


日本では米朝首脳会談、拉致問題とモリカケ、特に記憶喪失の元総理秘書官の話ばかりが注目されている。今週の筆者の関心は専ら、5月12日に予想されるイラン核合意(JCPOA)に対するトランプ政権の判断内容とその悪影響だ。内容次第では日本の対イラン貿易にも悪影響が及びかねない。欧州諸国の関心も恐らく同様だろう。

米国の対イラン制裁といっても、関連法令は複数の成文法や行政命令から成る。しかも制裁は二種類あり、U.S. person(米国人。但し、米国外の二重国籍者や米国法上の法人、米国企業の在外子会社も含む)が対象となる「一次制裁」と、non-U.S. person(非米国人)が対象となる「二次制裁」があるのだから、実にややこしい。

2016年1月にイランのJCPOA履行が宣言され、米国は5月から民間航空機のイラン向け輸出に関する一般許可や、特定の出版活動に関するガイダンス、農産物・医薬品・医療機器のイラン向け輸出の緩和などを実施している。一方、同年12月にはイラン制裁法が10年間延長されるなどイランに対する警戒は今も続いているようだ。

専門家によれば、イラン制裁関連法上の適用除外更新も、法律によって4カ月周期や6カ月周期があるなど、内容は非常に複雑だ。また、現時点でnon-U.S. personの米ドル使用は決済時にU.S. person(米国の銀行や邦銀の米国支店を含む)が関与しない限り制裁対象とはならないのだが、5月12日以降どうなるかは未知数だ。

先月、米財務長官は米下院歳出委員会公聴会で、仮にトランプ氏が「対イラン制裁の適用除外措置を解除したとしても、米国がJCPOAから離脱することを必ずしも意味しない」と述べつつ、「一次制裁、二次制裁の再開を意味する」としか語っていない。合意離脱にせよ、制裁強化にせよ、トランプ氏の決断でどの程度悪影響が出るかは予測不能なのである。

ちなみに、欧米の一部には米朝首脳会談とこの5月12日のトランプ政権の判断を関連付ける論調がある。トランプ氏もイラン核合意に関する決断は北朝鮮に「正しいメッセージ」を送ると述べたそうだが、筆者は懐疑的だ。金正恩がイラン問題の行方如何で従来の政策判断を変えるとは到底思えない。詳しくは今週木曜日の産経新聞のコラムをお読み頂きたい。

〇欧州・ロシア
先週に引き続き、イタリアでは7日に大統領による連立政権協議が行われる。勿論、新首相はまだ決まっていないのだが、11日にはイタリアの港湾労働者が24時間ストライキを行うという。一方、フランスでは7日に首相が労働法改革について労働組合と会合を持つ。同じく7日にはロシアでプーチン大統領の就任式がある。国内の反対派は厳しい弾圧を受けているというのに、だ。

〇東アジア・大洋州
中国の国務院総理が6-8日にインドネシアを、8-11日に日本をそれぞれ訪問する。9日には3年ぶりで日中韓首脳会合が東京で開かれる。李克強はNo.2なのになぜ首脳会議に参加するのかとよく聞かれるが、中国は国家主席と国務院総理は2-topでいずれも「首脳」扱いされ続けてきた。それなら、日本も副総理を首脳扱いしようではないか。

〇中東・アフリカ
12日にイラクで国民議会選挙がある。今回首相候補として有力なのはアバーディー現首相とマーリキー前首相だそうだ。二人ともシーア派ダアワ党出身でイランに近い。しかし、マーリキー前首相にせよ、アバーディー現首相にせよ、あの複雑なイラク内政を仕切るにはあまりに力不足なのか。それとも、イラクの内政があまりに複雑なために、誰が首相になっても十分な政治力を持てないのか。筆者がイラクにいたのは2004年前半だが、どうやらイラクは全く変わっていないようだ。

〇南北アメリカ
今週もトランプ氏は国内遊説を続けるらしい。この人の外交安全保障政策を見ているとなぜかとても悲しくなる。政策内容の優劣ではなく、トランプ氏を鋭く追及する正統派メディアに対し、トランプ氏はいつも奇を衒った言動で目先を変えつつ、あの手この手で様々な批判に反撃しようとする魂胆が見え見えだからかもしれない。
それでもトランプ氏は政権維持に自信を深めている。少なくとも筆者にはそうとしか思えない。事実、大統領は未だ政治的に行き詰ってなどいないのだから。嘘だと思うなら、FoxNewsを3分間だけでも見てほしい。ニューヨークタイムス、ワシントンポストやCNNが報ずるアメリカとは全く違う「外国人が知らない別のアメリカ」があることが分かるだろう。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

28-5月8日 第22回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)第22回交渉会合(シンガポール)
1-8日 佐藤外務副大臣がチャド、カメルーン及び中央アフリカを訪問
1-14日 第40回国連広報委員会(ニューヨーク)
1-6月1日 国連総会 第5回委員会・再開会合の第二部(4週)(ニューヨーク)
2-12日 岡本外務大臣政務官が南アフリカ、米国及びメキシコを訪問
4-7日 小野寺防衛相がエストニア、フィンランドを訪問
7日 ロシアでプーチン大統領による新任期がスタート(2024年まで)
7-10日 国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)第30回ministerial session(ベイルート)
7-10日 ルワンダトランスフォームアフリカサミット2018(ルワンダ・キガリ)
7-11日 国際原子力機関(IAEA)計画・予算委員会(ウィーン)
7-11日 国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)第53回作業部会V(破産法)
7-18日 国連人権理事会 第30回普遍的・定期的レビュー会合(ジュネーブ) 
7-18日 国際麻薬統制委員会(INCB)第122回会合(ウィーン)
8日 米国連邦議会予備選挙(インディアナ州ほか3州)
8日 アルバラード・コスタリカ大統領就任式典(サンホセ)
8日 中国4月貿易統計発表
8日 次期スリランカ国会開会
8日 ファルコン9(バングラデシュの通信衛星)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
8-9日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
8-11日 李克強・中国国務院総理がサミット参加のために訪日
8-19日 第71回カンヌ国際映画祭(仏カンヌ)
9日 第7回日中韓サミットの開催(東京)
9日 メキシコ4月CPI発表
9日 第73回ロシア戦勝記念日
9日 イスラエル・ネタニヤフ首相がロシアを訪問
9日 マレーシア総選挙(連邦議会下院、サラクワ州を除く州議会)
9-11日 第10回国際環境およびエネルギーテクノロジー展「Entech Vietnam 2018」(ホーチミン)
10日 国連環境計画(UNEP)常任代表委員会第142回会議(ナイロビ)
10日 米国4月消費者物価指数(CPI)発表
10日 中国4月CPI、生産者物価指数(PPI)発表
10日 ブラジル4月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
10日 韓国文大統領就任1年
10-12日 第16回エネルギー産業国際展示会「POGEE」(カラチ)
11日 ブラジル3月月間小売り調査発表
11日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
11-12日 インド・モディ首相がネパールを訪問
12日 東ティモール国民議会選挙
12日 イラク総選挙
12日 米国によるイラン核合意離脱の是非判断の期限
13-15日 OECD社会政策担当相会合(カナダ・モントリオール)
13-16日 トゥイラエパ・サモア独立国首相兼外務貿易大臣が訪日

【来週の予定】
14日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
14日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
14日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
14日 イスラエル建国70周年
14-17日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
14-18日 国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)第74回会合(バンコク)
14-18日 核実験禁止条約機関準備委員会(CTBTO)諮問グループ・第50回会合(ウィーン)
14-18日 国際人権理事会 人権と多国籍企業等に関する作業部会・第20回会合(ジュネーブ)
14-6月29日 ジュネーブ軍縮会議(CD)第二部(ジュネーブ)
15日 米国4月小売売上高統計発表
15日 米国連邦議会予備選挙(アイダホ州ほか3州)
15日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15-16日 ブラジル中銀、Copom
15-16日 テック・イン・アジア・シンガポール 2018「Tech in Asia Singapore 2018」
16日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
16日 ユーロスタット、4月CPI発表
16日 ラマダン(断食月)開始
17日 ブルンジ、大統領の任期延長などを問う国民投票
18日 インド3月鉱工業生産指数発表
18日か21日 ロシア1-4月鉱工業生産指数発表
19日 英・ヘンリー王子挙式
20日 ベネズエラ大統領選
20日 ファルコン9(イリジウム・ネクスト5機等)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
20日 アンタレス(オービタルATK社商用補給機9号機)打ち上げ(米・ワロップス飛行施設)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問