キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年5月7日(月)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
南北首脳会談はAnother Korean Kabuki PlayだとJapan Timesの英語コラムに書く予定だ。失礼があればお許し頂きたい。古い台本と大袈裟な仕草という伝統と外連味が売りだが、内容的には新味のないextravaganza。英語の「カブキ」に過ぎないという視点なのだが、正直なところ、現在の北朝鮮の意図を読むのは意外に難しい。
ここで視点の持ち方を間違えると全体が見えなくなる。歴史の大きな流れを見る直観に頼るか、それとも、これまでの経験に頼るかの選択だ。愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ。強いて言えば、我々は今、1989年の「ベルリンの壁崩壊」を見ているのか、それとも2011年の「エジプト革命」を見ているのか、のどちらなのか。
1989年の際は社会主義が終焉していくことをある程度確信できた。これに対しエジプトの場合は、あの種の革命は失敗するという直感が働いた。現在の北朝鮮はどちらなのだろう。東独の政権は弱体化し壁の崩壊を阻止できなかったが、エジプトの国軍は国民を敵に回さず、ムスリム同胞団の弱体化を待って反革命に成功した。
結論から言えば、今の北朝鮮はそのどちらでもない。これまでの経験からすれば、北朝鮮が核兵器を放棄するとは思えない。祖父の時代から、危機の際はいつもの「欺瞞」で乗り切ろうと考えると見るのが常道だ。だが、もし金正恩が若いゴルバチョフだったらどうか。しかし、彼が本当にゴルバチョフであれば、実は答えは簡単である。
もし金正恩が本当に生き残りを望み、北朝鮮型の「改革開放」を主導して苦境を切り抜けようとするなら、彼が本当に核開発計画を放棄する可能性がある。そうであれば、逆に北朝鮮には最大の圧力をかけ続けるべきだ。金正恩が本気なら、如何なる犠牲を払っても、最後は核兵器計画の放棄を選択する以外、彼に方途はないからだ。
南北の合意を調べていたら、最も古い例で1972年7月4日というのがあった。その次は1991年12月。これらの南北合意がニクソン訪中の5カ月後と、ソ連解体の13日前に当たっているのは決して偶然ではなかろう。過去の南北首脳会談は北朝鮮主導というより、韓国のリベラル派による確信犯的政策変更が多かったが、今回はどうか。
いずれにせよ、4週間以内にも開かれる米朝首脳会談での金正恩の発言が今後の朝鮮半島を決める。韓国大統領に続いてトランプ氏までが「前のめり」にならないよう気を付けて欲しいと思うが、万一、金正恩が予想に反して「本気」である場合のことも考えておく必要がありそうだ。この場合、日本の対アジア政策は根本的再検討となる。
〇欧州・ロシア
米国の鉄鋼・アルミ関税の対EU適応除外は暫定的なもので、5月1日には期限が切れる。フランスの四大労働組合は3日に政府が進める鉄道改革に抗議するという。あの国は今も労組が強い。あのようなやり方で良く国を統治できるものだと感心する。イタリアでは3日に連立政権協議が行われるという。あれ、まだ決まっていないのか。
〇東アジア・大洋州
毎年GWは日本の閣僚の外遊ラッシュだ。26日-5月4日に二階自民党幹事長がロシア、トルコ訪問、27日-5月1日に河野外務大臣がヨルダン訪問、29日-5月3日に安倍首相がUAE、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ訪問、同じく29日-5月5日に薗浦内閣総理大臣補佐官がフランス、コートジボワール、ガーナ及び英国訪問が予定される。
一方、中国では29日-5月1日にメーデー(労働節)がある。5月に入ると、1-8日に佐藤外務副大臣がチャド、カメルーン及び中央アフリカを訪問、4-7日には 小野寺防衛相がエストニア、フィンランドを訪問する予定だ。当然ながら、主要国の在外公館は大忙しになる。国会議員のアテンドをしなくても良い最近のGWは最高である。
〇中東・アフリカ
米国がイラン核合意から離脱するかが長らく問題だったが、そろそろ期限が来る。5月12日のトランプ政権の決断次第では中東が再び不安定化するかもしれない。それにしても、よりによって、ボルトンとポンペイオという二人の強硬派が政権入りしたので、とても心配だ。筆者はイラン核合意は失敗だったと思うが、今更破棄はできない。
〇南北アメリカ
先週もトランプ氏は遊説を続けており、完全に選挙モードに戻ってしまったのか。米国内政はトランプ氏にとって相変わらずのごたごただが、トランプ氏はそれを楽しんでいるかのようだ。実力のない人が慣れと自信を持つことがいかに恐ろしいか、これから徐々に明らかになるだろう。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
23-5月2日 国際人権理事会 第115回強制的・非自発的失踪に関する作業部会(ジュネーブ)
26-5月4日 二階自民党幹事長がロシア、トルコ訪問へ出発
25-5月4日 北京モーターショー(一般公開は27日から)
27-5月1日 河野外務大臣がヨルダン訪問
28-5月8日 第22回東アジア地域包括的経済連携(RCEP)第22回交渉会合(シンガポール)
29-5月1日 中国メーデー(労働節)
29-5月3日 安倍首相がUAE、ヨルダン、イスラエル、パレスチナ訪問
29-5月5日 薗浦内閣総理大臣補佐官がフランス、コートジボワール、ガーナ及び英国訪問
30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
30日 米・ナイジェリア首脳会談(ワシントン)
30日 米・3月個人消費支出(PCE)物価指数(商務省)
30日 パレスチナ民族評議会会合(パレスチナ自治区ラマラ)
1日 米・EU及び韓国など6カ国の鉄鋼とアルミニウム輸入制限除外最終日
1-2日 米国連邦公開市場委員会(FOMC)
1-3日 国連経済社会理事会 実質会期・統合セグメント
1-3日 フランス・マクロン大統領がオーストラリアを訪問
1-4日 ソウル国際食品産業展(SEOUL FOOD 2018)(韓国・京畿道)
1-8日 佐藤外務副大臣がチャド、カメルーン及び中央アフリカを訪問
1-14日 第40回国連広報委員会(ニューヨーク)
1-6月1日 国連総会 第5回委員会・再開会合の第二部(4週)(ニューヨーク)
2日 EU3月失業率発表(EU統計局)
2日 1-3月期ユーロ域内GDP速報値(EU統計局)
2日 長征4B(大気観測衛星)打ち上げ(山西省・太原衛星発射センター)
2-3日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
2-5日 ポルトガル・コスタ首相がカナダを訪問
3日 欧州委員会春季経済予測発表
3日 米国3月貿易統計発表
3日 ブラジル3月鉱工業生産指数発表
3-4日 日・アフリカ官民経済フォーラム(南ア・ヨハネスブルク)
3-6日 ADB年次総会(マニラ)
4日 米国4月雇用統計発表
4日か7日 ロシア4月CPI発表
4-5日 EU外相理事会 非公式会合(ソフィア)
4-7日 小野寺防衛相がエストニア、フィンランドを訪問
5日 ファルコン9(バングラデシュの通信衛星)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
5日 アトラスV(火星探査機)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
6日 レバノン国民議会議員選挙
6日 フランス領ポリネシア議会選挙
6日 長征3B(亜太6C)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
【来週の予定】
7日 ロシアでプーチン大統領による新任期がスタート(2024年まで)
7-10日 国連西アジア経済社会委員会(ESCWA)第30回ministerial session(ベイルート)
7-10日 ルワンダトランスフォームアフリカサミット2018(ルワンダ・キガリ)
7-11日 国際原子力機関(IAEA)計画・予算委員会(ウィーン)
7-11日 国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)第53回作業部会V(破産法)
7-18日 国連人権理事会 第30回普遍的・定期的レビュー会合(ジュネーブ)
7-18日 国際麻薬統制委員会(INCB)第122回会合(ウィーン)
8日 米国連邦議会予備選挙(インディアナ州ほか3州)
8日 アルバラード・コスタリカ大統領就任式典(サンホセ)
8日 中国4月貿易統計発表
8日 次期スリランカ国会開会
8-9日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
9日 メキシコ4月CPI発表
9日 マレーシア総選挙(連邦議会下院、サラクワ州を除く州議会)
9-11日 第10回国際環境およびエネルギーテクノロジー展「Entech Vietnam 2018」(ホーチミン)
10日 中国4月CPI発表
10日 ブラジル4月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
10日 米国4月消費者物価指数(CPI)発表
10日 韓国文大統領就任1年
10-12日 第16回エネルギー産業国際展示会「POGEE」(カラチ)
11日 ブラジル3月月間小売り調査発表
11日 メキシコ3月鉱工業生産指数発表
11-12日 インド・モディ首相がネパールを訪問
12日 東ティモール国民議会選挙
12日 イラク総選挙
13-15日 OECD社会政策担当相会合(カナダ・モントリオール)
13-16日 トゥイラエパ・サモア独立国首相兼外務貿易大臣が訪日
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問