キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年4月3日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
今週はリトアニアの首都ヴィリニュスで原稿を書いている。先週の大事件は金正恩の「電撃」北京非公式訪問だったが、この点については後で詳しく触れたい。その前に、まずはこのバルト海三国の南端にある人口300万の美しい小国について書こう。あの「命のビザ」で有名な杉原千畝が赴任していた国といえばピンと来るだろうか。
Wikipediaには「ポーランド、ラトビア、ベラルーシと国境を接し」とあるが、実のところリトアニアは、ポーランドの北でバルト海に面したロシアの飛地領「カリーニングラード」とも国境を接している。この飛び地、元はプロイセンの首都があった所だが、戦後ソ連がちゃっかり占領し、現在に至っている。流石はソ連・ロシアだと感心する。
ちなみに1992年、当時のエリツィン大統領は「ヤルタ会議で議論した通り、この地はポーランドに譲渡されるべし」と述べたそうだが、96年にポーランドがNATO加盟を求めた途端、同発言は撤回された。ヴィリニュスは旧市街の美しい町だが、ベラルーシとの国境までは車で半時間程度、ロシアが入ってきたら彼らは本気で戦うのだろうか。
ウクライナの次はバルト三国だという向きもあるが、いずれにせよ、ロシアの凄いところは、一度軍事介入を決めたら、徹底的に実行すること。これに対し、トランプ政権はティラーソン国務長官、マクマスター補佐官を解任し、対外強硬派のポンペイオCIA長官とボルトン元国連大使を指名したが、新体制の戦略的方向性は見えてこない。
中朝、南北、米朝首脳会談につき、日本では「東京は蚊帳の外」で「外されている」などの自虐的評論が多い。だが、米国では既にボルトン式「予防攻撃」の功罪が議論されていることの方が気になる。北朝鮮の核施設などに対する予防攻撃が吉と出るか、凶と出るか、凶ならばどの程度の損害まで耐えられるかといった恐ろしい議論だ。
推進派は、攻撃を受けた北朝鮮は反撃できず、事実上核開発を中断する、その後の交渉では、核開発の断念を含む、米国に有利な形での解決も可能、と主張する。これに対し反対派は、予防攻撃は必ず北朝鮮側の報復を招き、第二次朝鮮戦争が始まって、朝鮮半島は壊滅的打撃を受けると反論する。
もう一つ、日本であまり議論されないのがイランとの関係だ。ボルトン氏は中途半端だとしてイラン核合意にも反対しているが、このまま米朝首脳会談が開かれ「中途半端な」合意が結ばれたら、ボルトン氏はどう説明するのか。詰めていけば、イランも、北朝鮮と同様、武力行使による「体制変更」しかないとの結論に至る恐れすらある。
〇欧州・ロシア
4日からロシア国防省主催の第7回国際安全保障会議に参加する。中東、欧州、アジアの安全保障状況を議論するらしいが、どうなることやら。かなり大規模な会議らしく、筆者自身どの程度発言できるか分からない。しかし、ロシアの考え方を理解する上では良い機会だと割り切ることにした。議論の内容は来週ご報告する。
7-12日、オーストリアの大統領と首相が揃って訪中する。中国にとっては利用し甲斐のある国だから、大歓迎するのだろう。国内政治日程も、国会も気にする必要のない中国だからこそできる外交だ。これに対し、日本では首相が国会に張り付き、集中質疑を受けなければならない。日本に大国の外交ができない理由の一つがこれだ。
〇東アジア・大洋州
金正恩の電撃訪中については「いずれ行われると思ったが、少し早まった」と考える。中国側発表で、習近平が今回の訪中を「戦略的な選択」「唯一の正確な選択」と表現し、金正恩も朝鮮の「戦略的選択」と応じていたのが印象的だった。要するに北朝鮮は中国に依存するしかない、これ以外の戦略的選択はないと中国は言っているのだ。
更に、習近平は両国関係が「一時的な理由で変わることがあってはならない」、新情勢下で両国は「日常的な連絡を保ちたい」と述べた。筆者が深読みすれば、これは「一時的な理由で中国を外すな」「もっと日常的に連絡をしてこい」という厳しい対北朝鮮メッセージであるように思える。両国間の不信感は相当深いと再確認した。
〇中東・アフリカ
ガザで遂に死者が出た。3月30日、対イスラエル境界沿いで「帰還の行進」と呼ばれる抗議デモが行われ、イスラエル軍との衝突で少なくとも17人が死亡、1400人超が負傷したという。トランプ政権によるエルサレム首都認定に対する動きだが、デモは5月15日まで、6週間にわたり続くという。それでもイスラエルは対応を変えない。
〇南北アメリカ
最近、ジャヴァンカ(イバンカ夫妻のこと)がメディアに出てこない。権限を失い、昔のような影響力を失ったのか、それとも多くの批判を受けて「死んだふり」をしているのかは分からない。常識的に考えれば、彼らの動きが見えなくなっただけで、実質的な影響力は今も維持していると見るべきではなかろうか。
仮にそうであれば、彼らが北朝鮮問題で何をトランプ氏に囁いているかが大いに気になる。ボルトン・ポンペイオ的強硬論とマティス型慎重論の間で、ジャヴァンカは一体何を考えているのだろう。振り返れば、シリア化学兵器使用の際にトマホーク攻撃を進言したのはイヴァンカだった。このことを忘れてはならない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
31-4月4日 薗浦内閣総理大臣補佐官の米国、ミクロネシア及びパラオ訪問
2日 日露さけ・ます漁業交渉の開催(東京)
2-4日 スイス・カシス外相が中国を訪問
2-6日 アミン国際再生可能エネルギー機関(IRENA)事務局長が訪日
2-7日 ジンバブエ・ムナンガグワ大統領が中国を訪問
2-20日 国連軍縮委員会 年次総会(ニューヨーク)
3日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
3日 米・バルト3国首脳会談(ワシントン)
3日 オーストラリア準備銀行理事会
3日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン14号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
3日か4日 ロシア2017年経済活動・需要項目別GDP発表
3-6日 ASEAN財務相・中央銀行総裁会合
4日 国連経済社会理事会 パートナーシップ・フォーラム(ニューヨーク)
4日 欧州統計局(ユーロスタット)、2月失業率発表
4日 南北首脳会談に関する実務会談(板門店)
4日 ロシア・トルコ・イラン首脳会談(イスタンブール)
4-5日 中国・王外相がロシアを訪問
4-7日 マレーシア国際ハラールショーケース「MIHAS2018」(クアラルンプール)
4-15日 第204回ユネスコ執行委員会(パリ)
5日 米国2月貿易統計発表(商務省)
5日 ファルコン9(バングラデシュの通信衛星)打ち上げ(ケネディ宇宙センター)
5-7日 中国清明節休暇
6日 米国3月雇用統計発表
6日 パウエルFRB議長が講演「経済見通し」(シカゴ)
6日 CIS外相会議(ベラルーシ・ミンスク)
6日 韓国朴前大統領の賄賂事件で判決
6日 アリアン5ECA(通信衛星Superbird8等)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
6-8日 ネパール・オリ首相がインドを訪問
6日か9日 ロシア3月CPI発表
8日 ハンガリー議会選挙
8日 京都府知事選挙
8-11日 ボアオ・アジアファーラム2018年年次総会(中国・海南省)
【来週の予定】
9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
9日 メキシコ3月CPI発表
9日 アルメン・サルキシャン氏が新大統領に就任(アルメニア)
10日 ブラジル3月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
10-11日 EU環境相理事会 非公式会合(ソフィア)
11日 米国3月消費者物価指数(CPI)発表
11日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
11日 中国3月CPI発表
11日 北朝鮮最高人民会議第13期第6回会議
11日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(フランクフルト)
11日 アゼルバイジャン大統領選挙
11-14日 第28回ベトナム国際貿易展「VIETNAM EXPO 2018」(ハノイ)
11-14日 ベトナム繊維・衣装産業展「Vietnam Textile & Garment Industry Expo」(ホーチミン)
12日 ブラジル2月月間小売り調査発表
12日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
12日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
12日 PSLV-XL(IRNSS11)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
13日 中国第1四半期貿易統計発表
13-14日 第8回米州首脳会議「Octava Cumbre de las Américas」(ペルー・リマ)
15日 モンテネグロ大統領選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問