外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2018年2月20日(火)

外交・安保カレンダー(2月19-25日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


平昌五輪が始まり、先週末は北朝鮮の「微笑外交」をどう見るかに世間の関心が集中した。今のところ状況は北朝鮮ペースとしか言いようがない。この種のチャーム・オフェンシヴはこれが初めてではなく、むしろ北朝鮮の常套手段。筆者は金正恩が果敢に動いた背景に4点あると見ている。

①経済制裁がある程度効いており、北は一時的戦術変更に迫られた、しかし、②北は核開発を放棄する意図など全くなく、うまくいけば米韓分断、制裁弱体化が視野に入って来る、③文大統領は確信犯であり、戦争回避とオリンピック成功にしか関心がない、④されば、今後も対話促進、首脳会談で韓国を揺さぶるのが最も賢い選択だ。

北の目的はあくまで「時間稼ぎ」。①核兵器開発の継続、②当座の経済的利益の獲得、③米韓、日米韓の連携に楔を打ち込むことで、④戦略的生き残りの道を探っている。これに対し、韓国は確信犯の「前のめり」だ。民族感情からすれば理解できなくはないが、外交安全保障政策よりも、国内政治上の利益の方が重要なのだろう。

今後、南北融和はどこまで進むのか。一定の融和に成功することまで反対はしないが、五輪と核開発は次元の異なる問題だから、いくら対話を行っても核問題で結果は出ないだろう。核開発は北朝鮮にとって戦略問題であり、北はあらゆる機会を通じて「時間稼ぎ」を追求するに違いない。

最大のエサは「南北首脳会談」で、6月とも8月ともいわれるが、万一これが実現すれば絶妙のタイミングとなる。米韓軍事同盟に楔を打ち、経済制裁を事実上骨抜きにするには絶好の口実だ。逆にいえば、南北首脳会談を許してしまえば、日米韓は後れを取り、北朝鮮は優位に立つということだ。

対話か、圧力かという質問もナンセンス。対話のための圧力というのは正しいが、対話だけでは何も生まれない。議論をして交渉した上で妥協しなければ結果は出ないからだ。核凍結ではなく、核断念のため交渉をするためには、これまでの圧力では到底不十分。経済制裁だけでは最終的解決には至らないだろう。

問題解決のカギは米朝ではなく、米中関係だ。国際社会(国連)の役割は限定的だろう。米中の戦略的妥協がない限り、北朝鮮核問題の解決はない。米中が北朝鮮を含む朝鮮半島の将来についてコンセンサスに至らない限り、進展は見込めない。その間も微笑外交が続けば、「北核保有」の黙認問題が現実味を帯びてくるだろう。


 
〇欧州・ロシア
EUでは19日から予算関連の会合が続く。予算はどの国でも大問題だが、EUともなれば決定に時間がかかる。20日にはドイツの社民党が大連立について党員投票を行う。結果が出るのは3月4日だが、これで本当に終止符を打つことができるのか。結果は他の欧州諸国にも影響が及ぶので要注意だ。

〇東アジア・大洋州
中国圏の春節は23日まで続き、ベトナムのテト休暇は20日に終わる。23日には米国とタイが主催する共同軍事演習コブラゴールドも終わる。平昌五輪は25日に終了するが、北朝鮮の核問題が解決しないまま、南北対話の議論だけが続くのだろう。このまま南北対話を進めて良いものか。日本が何かできることはないのか。
日本は「最大限の圧力が先」という今の立場を続けるしかない。米国の情報機関が「決断の時間は限られている」と述べたように、あまり時間は残されていない。今更、対話や交渉をやっても北朝鮮に時間を稼がれるだけ。ICBMが初歩的ながら完成すれば、それは米のホームランドセキュリティとなり、個別的自衛権行使の問題となる。

〇中東・アフリカ
今週の中東は静かだ。先週ミュンヘンで行われた安全保障会議で、イスラエルとイランが非難の応酬を行った。イスラエル首相は撃墜したイランのドローンの破片を手にイランを厳しく非難したが、イランはこれを事実上無視。だが、両者の対立がこの程度で終われば、イランとイスラエルのシリアでの交戦拡大は当面回避できそうだ。

〇南北アメリカ
司法省の特別検察官がロシア人13人を起訴した。これで直接ロシアゲート問題に悪影響が及ぶ訳ではないが、トランプ陣営が無罪放免になる訳でもない。トランプ政権に司法省とFBIの動きは止められないし、特別検察官を罷免でもしようものなら、事態は更に悪化するだろう。トランプ氏にとっては不愉快な日々が続くはずだ。
対北朝鮮戦略について米政権内は意見が割れている。全てのオプションがテーブルにあるということは、最終的に決めていないということ。良く言えば柔軟だが、悪く言えば決めかねているのだ。ホワイトハウスが軍事作戦の検討を求め、国防省は選択肢を考えながらも実は最もやりたくなく、国務省は十分機能していない。これが実態だ。

〇インド亜大陸
23日、トルクメニスタン、アフガニスタン、パキスタン、インド(TAPI)パイプラインのアフガン部分の竣工式がようやくトルクメン・アフガン国境で開催される。今週はこのくらいにしておこう。

9-25日 第23回平昌冬季オリンピック(韓国・平昌)
12-3月9日 平和維持活動に関する特別委員会及びグループワーキング実質会期(ニューヨーク)
13-19日 堀井外務大臣政務官がスウェーデン、アルメニア及びコソボ訪問
13-19日 佐藤外務副大臣のクウェート及びキューバ訪問
15-21日 中国春節休暇
15-25日 第68回ベルリン国際映画祭
17-23日 カナダ・トルドー首相がインドを訪問
17-25日 対日理解促進交流プログラム・カナダ大学生らが訪日
18-24日 外務省の戦略的実務者招へい事業・平成29年度中央アジア実務者招へい(観光分野)
19日 ユーログループ(ブリュッセル)
19日 大統領の日(ワシントン誕生日)で米市場休場
19日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
19日 外務大臣及び高知県知事共催レセプション・飯倉公館活用対外発信事業(飯倉公館)
19-21日 平成29年度エネルギー・鉱物資源に関する在外公館戦略会議の開催(外務本省)
19-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
19-22日 クマール・インド・ビハール州首相の訪日
19-23日 国連人権理事会諮問委員会第20回会合(ジュネーブ)
19-3月9日 女子に対する差別撤廃委員会第69回会合(ジュネーブ)
20日 EU経済・財務相理事会(ブリュッセル)
20日 国連環境計画(UNEP)常駐代表委員会 第141回会合(ナイロビ)
21日 FOMC議事要旨(1月30-31日分)(FRB)
21日 外務省と台東区の共催・駐日各国外交団の浅草視察ツアー
21-22日 ロシア外相がセルビアを訪問
21-23日 国連独立監査諮問委員会第41回会合(ナイロビ)
22日 「竹島の日」記念式典(島根県)
22日 ファルコン9(通信衛星Hispasat 30W-6)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
22-23日 OECD中小企業担当相会合(メキシコ・メキシコ市)
22-23日 第16回「気候変動に対する更なる行動」に関する非公式会合の開催(東京)
23日 米豪首脳会談(ワシントン)
23日 メキシコ第4四半期GDP発表
23日 EU統計局(ユーロスタット)が1月CPI発表
23日 ジブチ国会議会選挙
23日 国連非政府組織委員会 定例会合(ニューヨーク)
23日 皇太子さま誕生日(58歳)
24日 第68回ベルリン国際映画祭授賞式(ベルリン)
24-25日 社民党大会(東京・星陵会館)
25日 カンボジア上院選
25日 H-IIAロケット38号機(情報収集衛星光学6号機)打ち上げ(種子島宇宙センター)
25日 ファルコン9(通信衛星Hispasat 30W-6)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)

【来週の予定】
26日 メキシコ12月小売・卸売販売指数発表
26日 EU外相理事会(ブリュッセル)
26日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ブリュッセル)
26日-3月1日 携帯端末国際見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)」(バルセロナ)
26日か27日 ロシア1月雇用統計発表
26-27日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
26-3月2日 国連世界食糧計画(WFP)執行理事会 第一定例会合(ローマ)
26-3月16日 国際民間航空機関(ICAO)Council phase 第213回会合(モントリオール)
26-3月23日 国連人権理事会 第37回会合(ジュネーブ)
27日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
27日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
27日 メキシコ1月貿易統計、雇用統計発表
27日か28日 ロシア2017年貿易統計発表
27日-3月1日 国連経済社会理事会(ECOSOC)実質会期(operational activities for development segment)(ニューヨーク)
28日 米国2017年第4四半期および年間GDP(改定値)発表
28日 ブラジル1月全国家計サンプル調査発表
28-3月1日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
3月1日 ブラジル第4四半期GDP発表
1日 ユーロスタット、1月失業率発表
1日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
1日 アトラスV(気象観測衛星GOES-S)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
2日 CIS経済理事会(ロシア・モスクワ)
3日 中国第13期全国人民政治協商会議第1回全体会議(北京)
4日 イタリア議会選挙
4日 第90回米アカデミー賞授賞式(米ロサンゼルス)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問