キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2018年1月9日(火)
[ 2018年外交・安保カレンダー ]
今週のワシントンはトランプ政権の内情暴露本の話で持ち切りだ。詳しくは関連報道を読んで頂くとして(筆者も未だ全文を読んだ訳ではない)、今週は同書をめぐる米国政界の動きについて触れたい。尤も、渦中の人であるSバノン氏は今や、同書への対応をめぐり「後悔している」と表明したそうだ。意外に骨のない男なんだな、と思う。
それはともかく、事の起こりは1月3日の英紙Guardianの記事だった。毀誉褒貶相半ばする米国人ジャーナリスト・マイケル・ウルフ(Michael Wolff)の著書『Fire and Fury: Inside the Trump White House』の概要が報じられたのだ。ウルフは同書でトランプ氏の大統領としての資質につき実に辛辣に描いている。
中でも強烈だったのが元最側近のスティーブ・バノン氏のコメントだ。バノン氏は引用される形で、「(トランプ氏の娘婿であるクシュナー氏と息子であるドナルドJRを含む)トランプ陣営幹部3人が昨年6月、トランプタワーの25階で、弁護士の同席もなく、外国政府関係者と会ったことは反逆的か非愛国的な行為だ」とまで言い放った。
これでワシントンは大騒ぎ、同書は即日売り切れの大ベストセラー。リベラル系メディアは鬼の首でも取ったようにトランプ政権批判を垂れ流した。そのバノン氏が7日、一転してトランプ一族との関係修復に動いたようだが、内容的には事実上の降伏に近い。やはり2018年には何が起きてもおかしくない、と見るべきなのだろう。
〇欧州・ロシア
7日から12日までドイツのCDUとSPDの連立協議が再開される。「まだやっているのか」というのが率直な印象だ。今年前半のEU議長国はブルガリアとなるが、その就任式典が11日からソフィアで開かれる。12-13日にはチェコ大統領選挙の第一回投票が行われるが、同国では先月、少数与党政権が発足したばかり。どうなるのか。
安倍首相は12日から17日まで東欧6カ国を歴訪する。具体的にはエストニア、ラトビア、リトアニアのバルト3国とEU議長国のブルガリアにセルビア、ルーマニアだ。ようやく日本の首相がこの地域を訪問する。これも長期政権でなければあり得ない現象である。最近この地域では中国の影響力が拡大しており、必要不可欠の訪問だろう。
〇東アジア・大洋州
9日に朝鮮半島で南北対話が予定されている。内容的には五輪参加選手団の話が中心で、和平に繋がるとは思えない。韓国は何が何でも平昌五輪を成功させたいという思いなのだろう。仮にすべてが上手くいっても、オリンピックが終われば北朝鮮は実験を再開する。核問題進展には寄与しないだろうが、ないよりはマシということだ。
8日から11日まで仏大統領が訪中する。同じく8日からインドの対外担当相がタイ、インドネシア、シンガポールを訪問するのも興味深い。一方、ロシアの極東艦隊が8日、ウラジオストクに帰還した。今回の航行先はブルネイ、カンボジア、ミャンマー、インドネシア、タイと中国だ。久し振りで散歩に出た犬と電柱の関係なのだろうか。
〇中東・アフリカ
8日にエジプトで大統領選挙等の日程につき発表がある。結局は現職大統領の再選なのだろうが、これでは1980年代以降のエジプトに逆戻りだ。さすがはエジプト、悠久の国ではある。12日は米国が対イラン制裁の適用除外を更新する期限だ。米対イラン政策に変更があるのか、イラン国内の反政府活動もあり、注目される。
〇南北アメリカ
冒頭ご紹介したバノン氏の「後悔・謝罪」発言の詳細を以下にご紹介する。内容的には実にお粗末なのだが、長いので全部は翻訳せず、概要のみ和訳してある。ご了承願いたい。
https://www.axios.com/scoop-bannon-sends-regret-to-trump-1515329924-dbfe9439-59e0-4773-8d3d-079e5ee2b493.html
(トランプJRは愛国者で良い人物である)
Donald Trump, Jr. is both a patriot and a good man. He has been relentless in his advocacy for his father and the agenda that has helped turn our country around."
(トランプ氏とその考え方に対する自分の支持は変わらない)
"My support is also unwavering for the president and his agenda -- as I have shown daily in my national radio broadcasts, on the pages of Breitbart News and in speeches and appearances from Tokyo and Hong Kong to Arizona and Alabama."
(自分はトランプ主義を世界に広めようとしている唯一の人間だ)
"President Trump was the only candidate that could have taken on and defeated the Clinton apparatus. I am the only person to date to conduct a global effort to preach the message of Trump and Trumpism; and remain ready to stand in the breech for this president's efforts to make America great again."
(ロシアゲートに関する自分のコメントは海軍時代の経験に基づくものだ)
"My comments about the meeting with Russian nationals came from my life experiences as a Naval officer stationed aboard a destroyer whose main mission was to hunt Soviet submarines to my time at the Pentagon during the Reagan years when our focus was the defeat of 'the evil empire' and to making films about Reagan's war against the Soviets and Hillary Clinton's involvement in selling uranium to them."
(自分の批判の対象はドナルドJRではなく、Pマナフォートに対するものだった)
"My comments were aimed at Paul Manafort, a seasoned campaign professional with experience and knowledge of how the Russians operate. He should have known they are duplicitous, cunning and not our friends. To reiterate, those comments were not aimed at Don Jr."
(トランプ政権にロシアとの「共謀」問題は存在しない)
"Everything I have to say about the ridiculous nature of the Russian 'collusion' investigation I said on my 60 Minutes interview. There was no collusion and the investigation is a witch hunt."
(ドナルドJRに対する不正確な報道への対応が遅れたことなどは遺憾に思う)
"I regret that my delay in responding to the inaccurate reporting regarding Don Jr has diverted attention from the president's historical accomplishments in the first year of his presidency."
敢えて長々と原文を引用したのは、他でもない。今もワシントンの住人がこの程度の低レベルコメントの応酬に一喜一憂していることを、読者の皆さんに知ってもらいたいからだ。バノンは本での発言自体を否定していない。トランプ陣営も和解の可能性については沈黙している。これで米国政治がまともに機能するはずはない。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
1-31日 ダッカ国際見本市2018
7-14日 対日理解促進交流プログラム・ユダヤ系米国人一行が訪日(東京・京都)
8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
8日 金杉アジア大洋州局長がソウルで韓国外交部東北アジア局長らなどと意見交換
8日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会Election of bureau(1meeting)(ニューヨーク)
8日 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長誕生日
8-10日 仏・マクロン大統領が訪中
8-14日 佐藤外務副大臣がエクアドル及びメキシコを訪問
9日 南北高官級会談(板門店)
9日 EU統計局が11月失業率発表
9日 第1回目気候変動に関する有職者会合を開催(外務省)
9日 長征2D(高景一号03/04)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
9-12日 米家電・IT見本市「CES」開幕(ラスベガス)
9-15日 対日理解促進交流プログラム・米国の若手研究者らを招へい(東京・熊本)
9-16日 対日理解促進交流プログラム・米国及びカナダ大学生などを招へい
9-18日 対日理解促進交流プログラム・韓国水原市大学生らが訪問(静岡県)
10日 韓国大統領が年頭記者会見
10日 ノルウェー・ソールベルグ首相がトランプ大統領と会談(ホワイトハウス)
10日 中国・17年12月消費者物価指数(CPI)
10日か11日 ロシア12月消費者物価指数(CPI)発表
10-18日 対日理解促進交流プログラム・ソロモン、パプアニューギニア、フィジーの大学生らが訪日
10-18日 第2回ビエンチャンモーターショー(ミャンマー)
11日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
11日 日本政府がインド国民に対する短期滞在数次ビザの大幅緩和
12日 米国12月CPI、小売売上高統計発表
12日 インド11月鉱工業生産指数発表
12日 中国・17年通年と12月貿易統計(税関総署)
12日 UN-WOMEN執行理事会 Election of Bureau(1meeting)(ニューヨーク)
12日 UNICEF執行理事会 Election of Bureau(1meeting)(ニューヨーク)
12日 PSLV(Cartsat 2ER他)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
12-13日 チェコ大統領選挙
12-17日 安倍首相が東欧6カ国歴訪に出発
13日 国連ウィメン執行理事会第1回定期会合(ニューヨーク)
13日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
13-14日 大学入試センター試験
13-28日 北米国際オートショー(デトロイト)
14日 サウジ・日本ビジネスフォーラム2018(サウジアラビア・リヤド)
14-15日 国際農業開発基金(IFAD)総務会第41回会合(ローマ)
14-16日 イスラエル・ネタニヤフ首相がインドを訪問
【来週の予定】
15日 キング牧師生誕記念日で米市場休場
15-16日 アジア金融フォーラム(香港)
15-18日 フランシスコ法王がチリを訪問
15-18日 欧州議会本会議(ストラスブルグ)
15-18日 香港ファッション・ウィーク(秋/冬)(香港)
16日 北朝鮮核問題に関する外相級会合(カナダ・バンクーバー)
16-23日 対日理解促進交流・日本文化交流及び若手産業関係者交流をテーマにカンボジア及びベトナムの大学生等が訪日
17日 ユーロスタット、12月消費者物価指数(CPI)発表
17日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
17日 イプシロンロケット3号機(高性能小型レーダ衛星)打ち上げ(内之浦宇宙空間観測所)
18-21日 フランシスコ法王がペルーを訪問
19日 長征11(吉林一号2機など)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
20日 米・トランプ政権発足から1年
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問