外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2018年1月4日(木)

外交・安保カレンダー(1月1-7日)

[ 2018年外交・安保カレンダー ]


宮家邦彦の外交・安保カレンダー 2018#01(2018年1月1-7日)
謹賀新年、今年も本コラムを宜しくお願い申し上げる。今年こそは希望に満ちた2018年となれば・・と思いたいところだが、どうなることやら?昨年は年初からトルコとイラクでテロ事件が起きたが、今年は昨年末から続くイランの反政府デモが全土40以上の都市に拡大、一部が暴徒化して、既に20名以上の死者が出ているそうだ。

一方、アジアでは元旦に北朝鮮の金正恩党委員長が新年の辞を発表した。年の初めの試しとて、今回はその全文を読んでみた。日本語で9800字ほどの長い演説だが、1月2日には北朝鮮当局公式サイトに日本語版が掲載された。余程、我々に読んでほしいのだろう。 金正恩など北朝鮮の指導者が今何を考えているか知りたい向きには、ちょっと退屈だが、一読をお勧めする。

情報分析の基本は公開情報の読み込みだ。メディアは、「去年の特出した成果は国家核武力完成の歴史的大事業を成就したこと」であり、「核のボタンは机の上にある」などと米国を牽制する一方、「平昌五輪に代表団を派遣する用意もある」とも述べたなどと報じたが、演説を読めば、金正恩の関心が国民の生活水準にもあることが分かる。

昨年は予測不能と思われたことが次々と起きた。予測が外れたら、その理由を詳細に分析し、将来に備えるのがプロの最低限の責任だとも書いた。されば、今年も引き続き、筆者の課題は如何に「Unthinkable」を事前に予測できるかだろう。改めて、これから一年、お付合いをお願い申し上げる。

〇欧州・ロシア
欧州ではまだクリスマス休みの余韻なのか、EU関係の会議は始まらない。しかも、いわゆる「正教会」系のキリスト教では1月7日がクリスマスだ。ちなみに、この日程はエジプトやエチオピア等のコプト系クリスチャンも同様。欧州が本格的に動き出すのは1月中旬以降だろう。
ロシア関係では今年、「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」が相互に開催される。ロシアでは「政治、経済、文化など多くの分野で日本を紹介する行事が行われ、日露関係の更なる発展に寄与することが期待」されるそうだが、露大統領選挙が終わるまで大きな動きは期待できないだろう。

〇東アジア・大洋州 
3日、ワシントン発共同が、米ニュースサイトの報じた中国共産党の「極秘文書」なるものの内容を報じている。同文書は「北朝鮮の6回目の核実験直後の2017年9月」に作成され、中国共産党が「北朝鮮がさらなる核実験の中止を約束すれば中国は経済、軍事支援を拡大し金正恩政権の体制を保証する」との方針を決めたとしている。
元ネタを書いたのはBill Gertzという名物記者。彼はCIAなど諜報機関系にかなり強いが、同時に眉唾記事も多いことでも有名な保守系ジャーナリストだ。件の極秘文書のコピーも添付されているが、真偽は不明である。

〇中東・アフリカ
イランのデモは昨年12月28日に北東部マシャドで始まったらしい。事実であれば、実に興味深い。2009年の際の騒動の主体は都市のインテリ層だったが、今回は地方の庶民が動いた可能性がある。発端は生活レベル低下への不満だったらしいが、非難の矛先が1979年以来続くイスラム共和制にも向いたとすれば、新しい事態だ。
1979年の革命以来、治安当局は一貫して異論を弾圧してきたが、今回参加者は「独裁者に死を」などと気勢を上げ、最高指導者ハメネイ師を糾弾したという。同師は「敵が銃や金によってもめ事をつくり出そうとしている」と述べたが、仮に今回の騒動を鎮圧出来たとしても、対イラン経済制裁が続く限り、この種の騒動は続くだろう。

〇南北アメリカ
トランプ氏のツイートが止まらない。特に気になるのはパキスタンに対する厳しい非難だ。しかし、パキスタンがアフガニスタンで勢力を回復しつつあるターリバーンを支援しているのは公然の秘密。今更けしからんといわれても、パキスタンは勿論、米国務省の関係者も皆困るはずだ。パキスタンの面子を潰してどうするつもりだろう。
ちなみに、ターリバーンとはアラビア語のターリブ(学生、イスラム法学生・神学生)のパシュトゥー語の複数形だから、彼らはコテコテのパキスタン系である。これまでも米国はパキスタンの二枚舌を承知で付き合ってきたのに、突然経済援助を止めるなどといったら、喜ぶのは中国ぐらいだろう。やはりトランプ外交には限界がある。

〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。

1日 元日(米国祝日=NY市場は全て休場)
1日 北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長、新年の辞
1日 ユーラシア経済連合(EEU)関税基本法発効
1日 ロシアがユーラシア経済連合(EEU)議長国に
1日 タジキスタンが独立国家共同体(CIS)の議長国に
1日 「ロシアにおける日本年」及び「日本におけるロシア年」開始
1日 「日本・スペイン外交樹立関係150周年推進委員会」を設立
3日 米FOMC議事要旨(FRB)
3日 米国第115議会第2会期開会
3-7日 河野外務大臣がパキスタン、スリランカ及びモルディブを訪問
5日 米国11月貿易統計及び12月雇用統計発表

【来週の予定】
8日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
8日 UNDP/UNFPA/UNOPS執行理事会Election of bureau(1meeting)(ニューヨーク)
9日 EU統計局が11月失業率発表
9日 長征2D(高景一号03/04)打ち上げ(甘粛省・酒泉衛星発射センター)
10日 ノルウェー・ソールベルグ首相が米国・トランプ大統領と会談(ワシントン)
10日 PSLV(Cartsat 2ER他)打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
10-18日 第2回ビエンチャンモーターショー
11日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
11日 日本政府がインド国民に対する短期滞在数次ビザの大幅緩和
12日 米国12月CPI、小売売上高統計発表
12日 インド11月鉱工業生産指数発表
12日 UN-WOMEN執行理事会 Election of Bureau(1meeting)(ニューヨーク)
12日 UNICEF執行理事会 Election of Bureau(1meeting)(ニューヨーク)
12日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
12-13日 チェコ大統領選挙
13-28日 北米国際オートショー(デトロイト)
14-16日 イスラエル・ネタニヤフ首相がインドを訪問


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問