キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年12月12日(火)
[ 2017年外交・安保カレンダー ]
先週はトランプ氏がエルサレムをイスラエルの首都として公式に認めたことで大騒ぎとなった。関連報道や噂は聞いていたが、まさか本当に実行するとは思わなかったので、文字通り言葉を失った。要するに、米国の伝統的外交政策主流派の敗北である。
エルサレムの帰属については様々な意見がある。例えば、アラブ社会主義者なら、「米英帝国主義の手先であるイスラエルがパレスチナに植民し、アラブから強奪した土地の一部」と言うだろうが、シオニストであれば、「紀元前からユダヤ民族の都であり、今はイスラエルの不可分の首都だ」と切り捨てるはずだ。
筆者の見立てはどちらでもない。今のエルサレム問題は1967年の第三次中東戦争中イスラエルが東エルサレムを含む西岸・ガザを占領したことで生じたと見る。この歴史的経緯は正確に理解される必要がある。という訳で、今回は少し長くなるが、中東近代史のおさらいから始めよう。
1967年当時、国連安保理は「最近の紛争で占領された領土からのイスラエル軍の撤退」を求めた決議242を採択する。以来、東部分を含むエルサレムの帰属は未解決というのが国際法の理解だ。1973年の第四次中東戦争後、パレスチナ問題は米国などの仲介により、78年のキャンプ・デービッド合意、93年のオスロ合意などを経て交渉による解決が模索された。この間、米国を含む国際社会は一貫して「エルサレムの帰属は未決」との立場を堅持してきた。
エルサレムの帰属が未解決である以上、米国を含む各国が大使館をテルアビブからエルサレムに移転させることはなかった。多くの米国大統領候補が選挙戦中に大使館移転を公約したが、約束が履行されることはなかった。この問題は余りに機微で和平交渉の最終段階でしか解決出来ないと考えられたからだ。
〇欧州・ロシア
14日に欧州理事会が恐らく今年最後の会合を開く。議題は英国のEU離脱とEUROなど経済問題だそうだが、先週とは打って変わって、欧州はもうクリスマス休暇モードではないのか。その唯一の例外がドイツで、15日に社会民主党が会合を開く。メルケル首相のCDUとの大連立をどうするか、そろそろ決める時なのだろう。
しかし、これで大連立となれば、今まで連立しないと言ってきた連中はどう説明するのか。連立政権では弱いパートナーの方が埋没する。日本の例を見ても、それは明らかだろう。だが、そんなこと初めから分かっているはず。今回の連立の行方はドイツの内政を大きく左右しかねないので、年末まで要注目だ。
また、14日は恒例のプーチン大統領による記者会見がある。もう、次期大統領選への出馬を発表しているから、今回は事実上選挙戦の始まりといっても過言ではない。それにしても、こんな選挙に対抗馬として一体誰が出馬するのだろう。勝ち目はないし、下手に健闘すれば、命すら危ない。ロシアとは誠に不思議な国である。
〇東アジア・大洋州
13日から韓国大統領が訪中する。同日ミャンマー大統領が訪日する。15日に国連安保理が北朝鮮問題で閣僚級会合を開く。議長国は日本で、河野外相が仕切るのだろう。恐らくこんな仕事ができるのは河野外相ぐらいだろう。パーフォーマンスとはいえ、やるとやらないとでは雲泥の差だ。
〇南北アメリカ
トランプ政権は今回の首都認定決定でもエルサレムの帰属は未決のままと主張するが、パレスチナ、アラブ、イスラム教徒にとっては米国の裏切りとしか映らない。この決定は米国外交上の大失敗であるだけでなく、中東地域の混乱と米国という国家のクレディビリティ(信用)失墜に拍車をかけるだろう。
トランプ氏ほど、米国外交上の国益より国内支持者への公約実現を優先した大統領はいなかった。現在米国内で進行しつつある「ロシア・ゲート」関連捜査との関係もあるのだろう。いずれにせよ、この決定が米国の国際的指導力に与える悪影響は計り知れない。今頃高笑いしているのは、ロシアと中国とイランの指導者ではなかろうか。
〇中東・アフリカ
中東では既に多くの抗議運動が発生しているが、今のところ、予想されたほど激しくはないようだ。これが「嵐の前の静けさ」なのか、このまま「不発」に終わるのかは、現時点では分からない。今言えることは、欧州などでテロが再発しかねないこと、穏健アラブ諸国で混乱が起きかねないことぐらいだろう。
〇インド亜大陸
インド外交が絶妙なバランス感覚を発揮している。11日にはニューデリーで露中印外相会談が、12日には日印豪の外相が、それぞれ開かれるのだ。今週はこのくらいにしておこう。
3-12日 JENESYS2017・キリバス、ナウル、バヌアツ、フィジー、マーシャル及びミクロネシアの大学生らが訪日
5-12日 対日理解促進交流プログラム「カケハシ・プロジェクト」によりカナダ大学生が訪日
5-12日 JENESYS2017・カンボジア、ミヤンマーの大学生ら及びタイの高校生が訪日
5-13日 対日理解促進交流プログラム・中国高校生訪日団第4陣が訪日
6-11日 中根外務副大臣がオーストリア、スロバキア及びシンガポールを訪問
6-13日 外務省推進MIRAIプログラム・欧州各国から大学生・大学院生を招へい
8-17日 河野外務大臣が中東、欧州及び米国を訪問
9-16日 「Juntos!!中南米対日理解促進交流プログラム」としてブラジル連邦議員らが訪日
10-13日 第11回WTO閣僚会議(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
10-13日 ビーズリー国連世界食糧計画(WFP)事務局長が訪日
10-15日 岡本外務大臣政務官がアルゼンチン及びグアテマラを訪問
10-18日 JENESYS2017の一環及び日中国交正常化45周年記念事業で、香港・澳門
高校生が訪日
11日 EU外相理事会(ブリュッセル)
11日 ロシア・インド・中国(RIC)外相会議 (インド・デリー)
11日 長征3B(アルジェリアの通信衛星Alcomsat1)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
11-12日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
11-12日 リビア外相がロシアを訪問し、ロシア外相との会談
11-13日 佐藤外務副大臣が米国のグアムとサイパンを訪問
11-13日 ロシア・ゲラシモフ軍参謀総長が来日
11-14日 欧州議会本会議(ストラスブール)
11-14日 マッキー・サル・セネガル大統領が訪日
12日 メキシコ10月鉱工業生産指数発表
12日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
12日 EU基本条約第50条(加盟国の離脱)に関する一般問題理事会(ブリュッセル)
12日 気候変動サミット(パリ)
12日か13日 ロシア第3四半期経済活動別GDP(速報値)発表
12-13日 米国連邦公開市場委員会(FOMC)
13日 第4回日豪印次官協議の開催(インド・ニューデリー)
13日 米国11月消費者物価指数(CPI)発表
13日 ブラジル10月月間小売り調査発表
13日 アリアン5(航法測位衛星ガリレオシリーズ4機)打ち上げ(仏領ギアナ基地)
13日 ファルコン9(スペースX社商用補給機ドラゴン13号機)打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
13-14日 国際農業開発基金(IFAD)第122回理事会(ローマ)
13-14日 外務省、世界銀行、WHO、UNICEF等との共催でユニバーサル・ヘルス・カレッジ(UHC)フォーラム2017開催(東京プリンスホテル)
13-14日 グテーレス国連事務総長が訪日
13-17日 ミャンマー・ティン・チョウ大統領が訪日
13-14日 第3回日英外務・防衛担当閣僚会議(2プラス2)(ロンドン)
14日 日英外相会談(ロンドン)
14日 米国11月小売売上高統計発表
14日 中国11月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14日 欧州中央銀行(ECB)定例理事会(独フランクフルト)
14日 プーチン大統領プレス会見
14-15日 欧州理事会(ブリュッセル)
14-16日 キンタナ国連北朝鮮人権状況特別報告者が訪日
15日 ロシア中央銀行理事会
15日 黒海経済協力機構(BSEC)外相会合(ウクライナ・キエフ)
15日 北朝鮮核問題に関する国連安保理閣僚級会合(ニューヨーク)
15日か18日 ロシア1-11月鉱工業生産指数発表
16日 第52回西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)首脳会議(トーゴ)
16-20日 南ア与党アフリカ民族会議(ANC)党大会・総裁選
17日 チリ大統領選挙決選投票
17日 ソユーズFG(金井宣茂飛行士の搭乗)打ち上げ(バイコヌール宇宙基地)
【来週の予定】
18日 ユーロスタットが11月CPI発表
18日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ブリュッセル)
18日 山田ブラジル大使と高瀬メキシコ大使による任国治安情勢講演会の開催(東京)
18-19日 フランス・ルメール経済・財務相がロシアを訪問
19日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
19日 米・7-9月期経常収支(商務省)
20日 メキシコ10月小売・卸売販売指数発表
20日 ジャパン・ハウスロサンゼルスの一部を先行して開館
21日 スペイン・カタルーニャ州議会選
21日 米国第3四半期GDP(確定値)発表
21日か22日 ロシア1~10月貿易統計発表
22日 メキシコ11月雇用統計発表
22日か25日 ロシア11月雇用統計発表
23日 ファルコン9(イリジウム・ネクスト10機)打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
23日 H-IIAロケット37号機(気候変動観測衛星「しきさい」等)打ち上げ(種子島宇宙センター)
23日 長征2D(陸地探査衛星2号)打ち上げ(甘粛省酒泉衛星発射センター)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問