キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年11月21日(火)
[ 2017年外交・安保カレンダー ]
今週は中国が北朝鮮に派遣した「特使」をめぐる報道が乱れ飛んでいる。中国共産党・習近平総書記の特使として訪朝したのは宋濤・党対外連絡部長。17日には崔竜海・朝鮮労働党副委員長と、18日には李洙墉・同党副委員長と会談したが、20日現在、金正恩委員長との面会は報じられていない。
気の早い向きは、「金正恩委員長との面会次第では、早ければ今月末にも米朝の接触が行われる可能性も出てきている」といった飛ばし記事まで書いている。それにしても、金正恩との面会すら実現する見込みが少ないのに、一体何の根拠があって米朝接触の話が出てくるのか。もっと冷静に考えてほしいものだ。
トランプ氏訪中の際、米側はより強く北朝鮮に圧力をかけるよう中国に対し求めたに違いない。だが、そもそも北朝鮮が中国の圧力で譲歩する可能性は低い。そのことを中国は承知の上で「特使」を送った。ということは、今回中国は米国に対し、努力を行っている「アリバイ」を証明したいのだろう。
そう考える理由は何かって?第一に、この「特使」が党中央委員・中連部長という低ランクの人物だったこと。5年前平壌に派遣された「特使」は政治局員だった。政治局員は25名しかいないが、中央委員は204名もいる。金正恩が中国共産党の204分の一でしかない格下の「特使」と会う可能性は低いだろう。
第二は、「特使」派遣が鳴り物入りで大きく報じられたことだ。これでは静かな交渉など期待できない。北朝鮮だって、欲しいものが得られるなら、非公式に交渉することも吝かではない。しかし、今回中国はそこまで踏み込んだ話をする気などなかったのだろう。これでは上手く行く筈がない。
今週筆者が注目するのは、最近サウジアラビアで起きている一連の混乱だ。11人の王子を含む200人近い王族、官僚、実業家が汚職容疑で拘束されたというが、見当外れの報道も少なくない。「宮廷粛清が始まった」「皇太子への権力集中」「汚職口実に政敵排除」といった見出しではサウジの実態を理解できない。
詳しくは今週の産経新聞のコラムを読んで頂きたいが、筆者の見立てでは、今回の拘束は単なる権力集中のためではなく、腐敗撲滅のためでもなく、国家収入増を意図したものでもなく、勿論、単なる権力闘争ではない。そもそも今のサウジにそんなことをやっている余裕などないはずだ。
ムハンマド皇太子の目的は、権力集中による荒治療で、サウジを世界に開き、国内の政治経済システムを改革し、原油代金で潤ってきた補助金漬け王国が近代的王制の下で生き残ることだ。その点では権力を集中して党の生き残りを賭ける習近平総書記と手法が似ているかもしれない。
〇欧州・ロシア
今週はロシア大統領が忙しい。20日にはソチでチェコ大統領と会談し、22日にはイラン大統領とトルコ大統領との三者会談が予定されている。こうやってプーチン大統領が中東問題につき着々と布石を打っている時に、米大統領は一体何をやっているのか。中東という大事な地域を娘婿に任せておいて良いのだろうか。とても心配だ。
〇東アジア・大洋州
20-21日にミャンマーでASEM(アジア欧州)外相会議が開かれる。22日にASEAN諸国のタイ湾での合同海軍演習が終了する。26日には空母ロナルド・レーガンが沖縄沖で日本と韓国との合同訓練を終える。北朝鮮は9月以来静かにしているのは、技術的理由か、それとも米国の抑止が効いているのか。
〇南北アメリカ
トランプ氏は相変わらずだ。19日には、中国で万引容疑で拘束されたUCLAバスケットボールチームの選手の父親が、釈放のためにトランプ氏が果たした役割を評価しなかったと強く非難したそうだ。しかし、米国市民の生命と財産を守るのは大統領の仕事ではないのか。実に器の小さい大統領である。
〇中東・アフリカ
21日にパレスチナのファタハとハマスがカイロで統一交渉を行う。報道によれば、ハマスも昔のような勢いがなくなったらしく、もしかしたらパレスチナ側の分裂状態がある程度改善するかもしれない。ハマスが強力である限り、イスラエルは横になるので、和平プロセスが進展しない悪循環が続く。
〇インド亜大陸
パキスタンが中国と両国間の「経済回廊」の特別経済区について話し合う。中国のパキスタンに対する影響力は圧倒的だが、逆に中国にしか頼ることができないパキスタンも悲劇である。今週はこのくらいにしておこう。
10月23-11月22日 第14期第4回ベトナム国会
11月14-21日 対日理解促進交流プログラム・ベトナム及びガンボジアの学生らが来日
14-27日 インド国際見本市「India International Trade Fair」(ニューデリー)
15-20日 北方四島周辺水域における日本漁船の操業に関する協定に基づく政府間協議及び民間交渉を開催
16-20日 グランディ国連難民高等弁務官が外務省の招へいにより訪日
16-20日 アーシム・モルディブ共和国外務大臣が訪日
17-21日 NAFTA再交渉第5回会合開幕(メキシコ市)
19-22日 中根外務副大臣がアジア欧州会合に出席するためミヤンマーを訪問
19-23日 堀井外務大臣政務官がマーシャル諸島共和国を訪問
19-25日 パラオ・オイロー副大統領兼司法大臣が訪日
19-20日 河野外相がバングラデシュを訪問
20-21日 EU教育・青少年・文化・スポーツ担当相理事会(ブリュッセル)
20-21日 アジア欧州会議(ASEM)外相会合(ミャンマー)
20-22日 国際原子力機関(IAEA)理事会・技術支援協力委員会(TACC)(ウィーン)
20-22日 外務省・自治体との共催で駐日各国外交団の伊勢志摩地域視察ツアー
20-23日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
20-24日 国連人権理事会第21回アフリカ系子孫に関する国連専門家作業部会(ジュネーブ)
20-24日 国連人権理事会第80回恣意的拘禁に関する作業部会(ジュネーブ)
20-28日 対日理解促進交流プログラム・韓国高校生・校長等が訪日
20-12月1日 外務省主催・韓国若手外交官のための日韓外交官交流プログラムを実施
21日 原子力エネルギーに関する日仏委員会第7回会合が開催(東京)
21日 長征6(地球観測衛星 吉林一号3機)打ち上げ(山西省太原衛星発射センター)
21-29日 JENESYS2017等招へいでアジア15カ国・地域から文化芸術交流をテーマに訪日
22日 ロシア・トルコ・イラン首脳会談(ロシア・ソチ)
22日 英国秋季予算案発表
22日か23日 FOMC議事要旨発表
22日か23日 ロシア1-9月貿易統計発表
23日 米・感謝祭(外為、債権、株式、商品市場が休場)
23日 メキシコ9月小売・卸売販売指数発表
23日 米国市場が感謝祭で休場
23日か24日 ロシア10月雇用統計発表
23-24日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ウィーン)
24日 EU東方パートナーシップ首脳会議(ブリュッセル)
24日 メキシコ第3四半期GDP発表
25日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)打ち上げ(四川省西昌衛星発射センター)
26日 ネパール新憲法下で初の議会選挙
26日 ホンジュラス大統領・国会議員・中米議会議員・市長選挙
26日 外務省が「第3回ユース非核特使フォーラム」を開催(広島市)
26日 自動車F1アブダビGP決勝(アブダビ)
【来週の予定】
27日 スイス国民議会議長及び全州議会議長選挙
27日 メキシコ10月貿易統計発表
27日 EU外相理事会(ブリュッセル)
27-28日 核軍縮賢人会議の初会合を開催(広島市)
27-29日 国連人権理事会・第6回ビジネスと人権に関するフォーラム(ジュネーブ)
27-30日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
27-12月1日 国際海事機関(IMO)第30回総会(ロンドン)
27-12月1日 国際連合工業開発機関(UNIDO)第17回総会(ウィーン)
27日-12月2日 フランシスコ教皇がミャンマーとバングラデシュを訪問
28日 国際開発機構(UNDP)国連人口基金(UNFPA)国連プロジェクトサービス機関(UNOPS)執行理事会 special session(ニューヨーク)
28日 メキシコ10月雇用統計発表
28日 OECD経済見通し発表
28日 ソユーズ2.1b(気象衛星Meteor-M N2-1など)(ロシア・ボストチヌイ基地)
28-30日 Global Entrepreneurship Summit 2017 開催(インド)
28-12月5日 対日理解促進交流プログラム・「日メコン5カ国産業交流」をテーマに5カ国から社会人が訪日
29日 米国7-9月期GDP(改定値)発表(商務省)
29日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)(FRB)
29日 日本・イスラエル・イノベーション・ネットワーク(JIIN)総会(東京)
29-30日 欧州議会本会議(ブリュッセル)
29-30日 第5回EU・アフリカ首脳会議(コートジボワール・アビジャン)
29-30日 第27回国連軍縮会議が開催(広島)
30日 ユーロスタットが10月失業率発表
30日 G20鉄鋼の過剰生産能力に関するグローバル・フォーラム、閣僚級会合
30日 石油輸出国機構(OPEC)定例総会(ウィーン)
30日 インド7-9月期GDP発表
30日 ブラジル10月全国家計サンプル調査発表
30-12月1日 EU競争力担当相理事会(ブリュッセル)
1日 ブラジル第3四半期GDP発表
1日 サッカー2018W杯ロシア大会組み合わせ抽選会(モスクワ)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問