キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年10月31日(火)
[ 2017年外交・安保カレンダー ]
先週24日、中国共産党党大会が終わった。今回のテーマは、「小康社会(ややゆとりある社会)の全面的完成の決戦に勝利し、新時代の中国の特色ある社会主義の偉大な勝利をかち取ろう」だったそうだ。このスローガンを見て、1960年代と70年代初頭、日本全国の大学で見られた「立て看板」の文句を思い出した。
党大会では、習近平総書記が「党の中心」であることを再確認し、党規約に「マルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、3つの代表、科学的発展観」に続く6番目の指導思想として「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が明記されたという。何か凄いことが起きたに違いない。
大変お目出度いことなのだろうが、浅学菲才の筆者にはこの6つの指導思想のうち辛うじて中身を知っているのはマルクス・レーニン主義だけ。申し訳ないが、毛沢東思想と鄧小平理論の具体的内容もうろ覚えだ。そもそも、これがなぜ現代中国の指導思想なのかすら見当も付かない。皆さんはご存知か。
この21世紀の時代に、中国共産党の英知を集めた党大会で採択された党規約が、1960-70年代の日本の大学で左翼学生が書いた陳腐なスローガンと同じくらい、不明瞭、難解かつ実社会から遊離しており、人々の心に殆ど響かない内容でしかないこと自体、やはり驚くべき、いや、憂うべきではないのか。
公式文書には、習総書記が唱えてきた一帯一路、中国の夢、人類運命共同体、四つの全面、四つの意識、党領導一切、「強国」「強軍」といったフレーズなども盛り込まれたそうだ。ところで中国の一般国民はこれらを一体どこまで正確に理解しているのだろう。いずれにせよ、筆者の想像を超えている。
仮に、日本の自民党総裁がかくも内容のない概念を羅列し、それを「安倍晋三による新時代の日本の特色ある自由民主主義思想」として学習するよう強制したらどうなるか。恐らく、自民党は勿論、霞が関の官僚からマスメディアの記者まで、ハチの巣をつついたような大騒ぎになるに違いない。
中国共産党の党員数は公表8900万人だが、5年前は8000万位だったと記憶する。ということは、誰だか知らないが、この5年で一千万人近く増えたということ。そのうち党大会に参加できるのは約2300人。彼らの投票で中央委員約200名が選ばれ、 更に、この中央委員の中から25名の政治局員が選ばれる。
その中から25日に7人の政治局常務委員が選ばれたが、英語ではこの7人を「チャイナセブン」とは呼ばない。筆者の知る限り、英語でChina Sevenという言い方はない。China Sevenでは意味が通らないからだ。チャイナセブンは日本語であり、恐らく英語があまり上手でない人が使い始めたに違いない。
今回筆者が最も注目するのが王滬寧だ。彼の専門は国際関係、内政や地方行政の実務経験は殆どない。過去外交専門家が常務委員に就任した例は記憶がない。それどころか、外交部長はもちろん、副首相級の国務委員ですら、従来は党内序列で二ランク下の中央委員に過ぎなかった。これは何を意味するのか。
〇欧州・ロシア
30日にドイツの新連立政府作りの議論が再開される。そういえば、選挙は終わったのに、まだ連立の基本的枠組ができていないらしい。例の右派政党AfDの取り扱いで揉めているのか。しかし、揉めて当然だろう。他の国ならともかく、あのドイツで反EU勢力が出て来れば、欧州は本当に変ってしまうだろうからだ。
〇東アジア・大洋州
31日から11月2日までにはロシア首相が訪中する。4日から始まるトランプ氏アジア歴訪の直前だから実に興味深い。しかし、同氏が12日も自宅を離れるのも珍しい。既に東アジア首脳会議には不参加という話はあるが、もしかしたら、訪問を更に早めに切り上げるかもしれない。これが不確実性というものか。
〇南北アメリカ
米国の特別検察官がトランプ陣営のP・マナフォード元選対本部長ら2人を起訴した。勿論、これで終わりではない。全てはこれから始まるのだ。1972年のウォーターゲート事件でも、最終的にニクソン大統領が辞任したのは74年の8月8日だった。恐らく、これから数カ月か一年程度は、スキャンダル報道が続くだろう。トランプ氏はこれに耐えられるのかがポイントだ。
〇中東・アフリカ
11月2日はユダヤ人にHomelandを認めたあの有名なバルフォア宣言の百周年記念日だ。パレスチナ自治政府は英国政府と世界中の英国大使館に対し抗議運動を計画しているという。そうか、あれからもう100年経ったのか。その1日前、ロシア大統領がイランを訪問し、イランとアゼルバイジャンの大統領に会う。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
16-11月10日 第121回自由権規約人権委員会(ジュネーブ)
23日-11月22日 第14期第4回ベトナム国会
24-31日 対日理解促進交流プログラム・インドの大学生が訪日
26-11月9日 第331回国際労働機関(ILO)理事会及びその委員会(ジュネーブ)
27-11月3日 対日理解促進交流プログラム・「日韓クリエーター交流プロジェクトⅡ」
29-30日 堀井巌外務大臣政務官がOECD開発援助委員会ハイレベル会合に出席するためフランスを訪問
29-31日 フィリピン・ドゥテルテ大統領が訪日
29-31日 APEC林業担当相会合(ソウル)
29-11月1日 ストルテンベルグ北大西洋条約機構事務総長が訪日
29-11月4日 パッテン紛争化の性的暴力担当国連事務総長特別代表が訪日
30日 米の9月個人所得・支出
30-31日 外務省と大分県が共催で駐日各国大使の大分県の地方視察を実施
30日-11月3日 第35回ハバナ国際見本市「FIHAV 2017」(ジェトロがジャパンパビリオンを設置)
30日-11月14日 第39回ユネスコ(UNESCO)総会(パリ)
30日-11月17日 第212回国際民間航空機関(ICAO)理事会(モントリオール)
31日 EU9月失業率発表(EU統計局)
31日 EU7-9月期のGDP速報値の発表(EU統計局)
31日 10月の中国製造業購買担当者景況指数(PMI)発表(国家統計局)
31日 ブラジル9月全国家計サンプル調査発表
31日 ファルコン9(通信衛星Koreasat 5A)の打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
31日 ミノタウロスC(スカイサット6機)の打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
31日 国連環境計画(UNEP)常駐代表委員会第140回会議(ナイロビ)
31-11月1日 米国連邦公開市場委員会(FOMC)
31-11月7日 対日理解促進交流プログラム・タイ、ラオス及びミヤンマーから訪日
31-11月17日 第120回国際麻薬統制委員会(ウィーン)
10月中 米国半期為替報告書発表
10月下旬 第8期第4回ラオス国民議会
11月1日 第4次安倍内閣発足
1日 ブラジル9月鉱工業生産指数発表
1-3日 国際女性会議WAW!(WAWの2017!)開催(東京)
3日 米9月貿易収支、10月雇用統計発表
3日 CIS首相会議(ロシア・カザン)
3日 長征3B(航法測位衛星第三世代北斗2機)の打ち上げ(西昌衛星発射センター)
3-5日 米・トランプ大統領がハワイ州を訪問
5-6日 G7保健相会合(ミラノ)
5-6日 APEC最終高級実務者会合(CSOM)(ダナン)
5-7日 米・トランプ大統領が初訪日
6日 日米首脳会談
5-7日 APEC第4回ビジネス諮問委員会(ABAC)(ダナン)
<11月6日-12>
6日 ユーロ圏財務相会合(ユーログループ)(ブリュッセル)
6-7日 欧州農業・漁業理事会(ブリュッセル)
6-9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6-17日 国連気候変動枠組み条約第23回締約国会議(COP23)(ドイツ・ボン)
7日 ロシア革命100周年
7日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
7日か8日 ロシア10月CPI発表
7-8日 米・トランプ大統領が訪韓
8-9日 APEC閣僚会合(ダナン)
8-9日 国連システム事務局調整委員会(CEB)second regular session(ニューヨーク)
8日 中国10月貿易統計発表
8日 ヴェガ(モロッコの地球観測衛星MN35-13)の打ち上げ(仏領ギアナ基地)
8-10日 米・トランプ大統領が中国を訪問
8-10日 ベトナム水技術展「VIETWATER」(ホーチミン)
8-15日 韓国・文大統領がインドネシア、ベトナム、フィリピンを訪問
9日 中国10月CPI発表
9日 WTO物品貿易理事会(ジュネーブ)
9日 メキシコ10月CPI発表
9日 EU司法・内務理事会(JHA)(ブリュッセル)
9-12日 エクスポ・パキスタン2017(カラチ)
10日 EU外相理事会(ブリュッセル)
10日 ブラジル10月IPCA発表
10日 メキシコ9月鉱工業生産指数発表
10日 デルタ2(米次世代気象観測衛星JPSS)の打ち上げ(ヴァンデンバーグ空軍基地)
10-11日 APEC首脳会議(ダナン)
10-12日 米・トランプ大統領がベトナムを訪問
10-14日 ベトナム・ハノイ建築展2017「VIETBUILD」(ハノイ)
10-14日 第31回ASEAN首脳会議(フィリピン・クラーク)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問