キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年7月19日(水)
[ 今週の朝鮮半島 ]
日本各地で暑い日が続くが、朝鮮半島も夏の暑さが本格化している。去る6月23日付韓国・聯合ニュースは、「(北朝鮮)国内で干ばつが深刻化している」との北朝鮮・労働新聞の報道を引用していた。韓国気象庁ホームページの「北韓予報」を見ると、北でも連日晴天が続き最高気温は北東部の咸鏡道を除き30度を超えている。その後、北の干ばつに関する続報はないが、この夏の天候次第では、秋の収穫期へ向け北の食糧事情が大いに気になるところだ。
猛暑と言えば、増えるのは電力消費。先月19日に文在寅大統領は「新規の原発建設計画を全面的に白紙化し、寿命を超えた原子炉は運転しない」と「脱原発」を宣言した。早速6月27日には、有言実行とばかり、新規建設中の原発建設中止を決定した。読者の中には覚えている方もいると思うが、韓国は2011年9月15日に全国的な大規模停電(ブラックアウト)を経験している。今夏も電力需要が伸びることが予想されており、韓国では脱原発による電力供給能力の低下を心配する声も出始めている。
安保関連ニュースでは、在韓米軍の主力部隊である米陸軍第8軍が7月11日に京畿道・平澤市のキャンプ・ハンフリーズ(Camp Humphreys)に作られた新庁舎の開館式を行った。ソウル市龍山からキャンプ・ハンフリーズへの移転作業は終盤を迎え、第8軍司令部が来月までに、在韓米軍司令部が本年11月に、それぞれ移転を完了する予定だ(注:戦時作戦統制権の移管延期により、米韓連合司令部は引き続き龍山に残る)。韓国メディアは、返還は米軍駐留から「64年ぶり」、いや日本統治時代から「113年ぶり」などと報じていたが、今後の課題は米軍基地の跡地利用問題だろう。ソウル市内中心部の跡地を公園として造成するというが、作業には紆余曲折が予想される。
この問題、実は既に昨年4月の段階で国土交通部が各省庁に公募をかけ、一旦は、公園の敷地内に警察庁管轄の警察博物館、文化体育観光部のこどもアートセンター、女性家族部の女性史博物館等を作ると発表したのだが、同計画はソウル市や環境団体の反対で白紙化された経緯がある。ちなみに、この女性史博物館には慰安婦関連の展示が予定されていたという。
折しも、女性家族部長官に就任したばかりの鄭鉉栢(チョン・ヒョンベク)成均館大学元教授は、10日に、就任後初の視察先として元慰安婦らが共同生活する「ナヌムの家」を訪問した。そこで同長官は慰安婦博物館建設を推進し、韓国の民間団体が推進する慰安婦関連資料のユネスコ記憶遺産への登録に予算支援すると明らかにした。焦点の博物館建設に関しては、当初計画の女性史博物館を活用するか、別途に慰安婦博物館を作る計画だという。この発言に対し、菅官房長官や岸田外務大臣が抗議したことは報道の通りだ。鄭長官は、韓国の代表的市民団体「女性連合」と「参与連帯」代表を6年ずつ務め、特に、女性連合代表時代は韓国挺身隊問題対策協議会(挺対協)を支援してきたといわれる。今後は、彼女の言動がどこまで影響力を持つのか、日韓関係の火種となり得るのか、要注目となりつつある。
<7月第2週 朝鮮半島関連の主な動き>
8日
●米空軍B-1B(2機)が韓国空軍機とともに、江原道(カンウォンド)の空対地射撃場で「北朝鮮の核心施設を精密爆撃する」という想定で共同訓練を実施。グアムへの帰途において航空自衛隊のF-2との共同訓練も実施。
9日
●北朝鮮がICBMと主張する「火星14」の発射実験の成功を記念する公演が平壌で開催され、金正恩朝鮮労働党委員長も観覧。
11日
●日米韓の6か国協議代表がシンガポールで会合。
●韓国情報機関の国家情報院は、国会情報委員会において、「北朝鮮北東部の豊渓里で核実験が可能な状態だが、差し迫っているようには見えない」と報告。
12日
●日米韓の防衛当局がテレビ会議を実施。北のICBM発射を受けて対応を協議。
●統一部報道官は定例会見で、北朝鮮・金剛山観光再開には韓国人観光客の安全が保障され、北朝鮮核問題が進展する必要があるとの立場を示す。
●米国・通商代表部(USTR)のロバート・ライトハイザー代表は声明で「米国は韓米FTAにともなう特別共同委員会の招集を韓国政府に正式要請した」と発表。
13日
●文在寅大統領は国防部長官候補に指名した宋永武(ソン・ヨンム)元海軍参謀総長の任命を強行。
14日
●北朝鮮外務省報道官は、「国連安全保障理事会が新たな対北朝鮮制裁決議を採択すれば、それに対抗する措置を取る」と言及。
伊藤 弘太郎 キヤノングローバル戦略研究所主任研究員