外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2017年7月11日(火)

外交・安保カレンダー(7月10-16日)

[ 2017年外交・安保カレンダー ]


先週7月7日にようやく米露首脳会談が開かれたが、結果は散々だったようだ。G20首脳会議の際、ハンブルグで2時間以上会談したというが、露大統領は8日の記者会見で、「米側は露による米大統領選挙介入問題を何度も提起したが、露側は否定し、米大統領も露側の主張を受け入れ同意したと思う」と述べた。

勿論、ホワイトハウスはこれを強く否定。更に、9日早朝に米大統領はツイッター投稿で、露大統領とサイバーセキュリティー対策の組織創設に向け議論したと述べた。さすがにこれには共和党内から批判が相次ぎ、米大統領は投稿から数時間後に「同組織の実現は不可能」と再ツイートしたそうだ。

まだある。米大統領の実の息子が、昨年の大統領選挙中に、ヒラリー・クリントン候補に不利な情報を約束され、露政府とつながりのあるロシア人弁護士と会談していたという。トランプ氏の息子は会談は認めたものの、大統領選とは無関係だったとコメントしたそうだ。

それにしても、トランプ氏の頭の中は、一体どうなっているのだろう。こうして事実関係を纏めているだけで吐き気がしてくる。やはり「終わりの始まり」を感じざるを得ないのだが、本人は気にしていないのか、それとも、何も打つ手がなく手詰まりなのか、どちらかだろう。先が思いやられる。

〇欧州・ロシア
先週は中国国家主席の一連の欧州訪問後、7-8日にG20会合があったが、そこで大向こうを唸らせるような成果があった訳ではない。それでは失敗だったかというと、とんでもない。中国の外交は一貫している。米国と対抗するためならロシアとも組む。米EU関係を分断するため欧州、特にドイツを重視する。
中国の国家主席にロシア大統領やドイツ首相のような国際感覚があるとは到底思えないが、中国には民主主義と自由なメディアがない分、リアル・ポリティックスに集中できる政治環境がある。ここが、現代日本との最大の違いだ。日本の国会では今も●●学園の話ばかり。時間が惜しい気もしないではない。

〇東アジア・大洋州
10日から、日米印3カ国による合同海上軍事演習「マラバール」がインド洋ベンガル湾で実施される。日本からは護衛艦「いずも」が参加する予定で、日米印の連携を示し、中国を牽制する狙いがあると報じられた。10日から湾内訓練、14日からはインド東方海域で対潜水艦戦訓練などを行う。
インド洋で日米印がこの種の活動を始めて久しく、戦略的な意味合いも大きい。しかし、インドは亜大陸国家、日米のような海洋国家ではない。彼らはインド洋で中国艦船がうろつき回ることは断固拒否するだろうが、ニューデリーが対中牽制に使われることも拒否する。これがインドの非同盟主義なのだ。

〇中東・アフリカ 
イラクのアバディ首相がイラク北部モースルに順調に進んでいることをアピールしたいのだろう。イスラム国の侵入から三年、当時は米軍の最新装備で武装したイラク正規軍があろうことか敵前逃亡し、モースルは大量の軍事物資とともにイスラム国の手に落ちた。ようやく帰ってきたということだ。
しかし、これで全てが元へ戻る訳ではない。内政上気になるのは、モースル「解放軍」がスンニー主体の正規軍、イランが支援するシーア派ミリシアとクルド・ペシュメルガの混成部隊であることだ。モースルにクルド部隊とシーア派ミリシアが同時に入るのは歴史上なかったこと。むしろ今後の方が心配だ。

〇南北アメリカ
今週、米国務長官がトルコとクウェートを訪問するが、大変結構なことだ。今の中東湾地域でややこしいのはカタルの動き。だが、カタル人は誇り高い人々だから、一筋縄ではいかないだろう。このカタルと同様、独自の動きをしているのがトルコであり、ある意味でクウェートだ。国務長官は湾岸の微妙な国際関係を理解する必要がある。

〇インド亜大陸
日米印海軍合同演習については既に触れた。今週はこのくらいにしておこう。

7-10日 UAE経済大臣がロシアを訪問
9-10日 NATO事務総長がウクライナを訪問
9-10日 ティラーソン米国務長官がトルコを訪問(イスタンブール)
9-13日 小田原外務大臣政務官がシンガポール、ネパール及びラオス訪問
9-15日 薗浦外務副大臣が米国、ベルギー、クウェート及びチュニジア訪問
10-12日 安倍総理がデンマーク、フィンランド及びエストニアを訪問
10日 ティラーソン米国務長官がクウェート訪問
10日 中国6月CPI発表(国家統計局)
10日 ユーログループ(ブリュッセル)
10日 第157回国連食糧農業機関(FAO)理事会(ローマ)
10-13日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル・欧州議会)
10-13日 香港ファッション・ウィーク(春/夏)
10-13日 産業総合博覧会「イノプロム」開催(ロシア・エカテリンブルク)
10-14日 国連人権理事会(ジュネーヴ)
10-17日 日米印合同海上軍事演習(インド洋ベンガル湾)
10-19日 持続可能な開発に関するハイレベル政治フォーラム(ニューヨーク)
10-21日 第85回国際化学物質安全性カード(ICSC)(ウィーン)
11日 ロシア第2四半期国際収支統計発表
11日 EU経済・財務省(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
12日 インド5月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル5月月間小売り調査発表
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12-15日 ハーニ・アル=ムルキー・ヨルダン首相が訪日
13日 6月米財政収支(財務省)
13日 中国第2四半期貿易統計発表(中国税関総署)
13-14日 外務省と宮崎県共催の駐日各国外交団宮崎県視察ツアー実施
13-15日 シリセーナ・スリランカ大統領がバングラデシュを訪問
14日 トランプ・米大統領がフランス革命記念日のパレードに出席(パリ)
14日 米国6月消費者物価指数(CPI)及び小売売上高統計発表
14日 ソユーズ2.1a(Kanopus-V-IK他)の打ち上げ(カザフスタン・バイコヌール宇宙基地)
14-15日「将来の課題のための日・オーストラリア委員会」第21回会合の開催
14-16日 国際ヘルスケア展(コロンボ)
15日 長征3B(航法則位衛星第三世代北斗2機)の打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
16日 米中「100日計画」最終日

【来週の予定】
17日 インド大統領選挙
17日 中国第2四半期マクロ経済統計(GDP、CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
17日 EU外相理事会(ブリュッセル)
17日 EU6月CPI発表(EU統計局)
17日か18日 ロシア上半期鉱工業生産指数発表
17-18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
17、19日 WTO、ブラジルに関する貿易政策レビュー(ジュネーブ)
17-20日 経済社会理事会(ECOSOC)本会期(ニューヨーク)
18日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
20日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策、フランクフルト)
21日 メキシコ6月雇用統計発表
21日か24日 ロシア1-5月貿易統計発表
22日 アスタナ国際博「ジャパンデー」(カザフスタン)
22日 EU、改正特定有害物質使用制限(RoHS)指令で「産業用の監視・制御機器」への適用開始
23-28日 APECビジネス諮問委員会(カナダ・トロント)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問