キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年6月20日(火)
[ 2017年外交・安保カレンダー ]
日曜午後に米国から帰国した。トランプ政権発足からもう4回目のワシントン出張だ。キヤノングローバル戦略研究所とスティムソン・センター共催のシンポジウムでも喋ってきた。日米研究者が「日米関係以外の問題」を議論するこのシリーズは今回が3回目。これには筆者のちょっとした思い入れがある。
なぜ「日米関係以外」に拘るのかって?昔から「日米関係者の、日米関係者による、日米関係者のための会合」にはあまり関心がなかった。ワシントンのシンクタンクと議論する以上、ジェネラリスト米国人研究者の関心事と話が噛み合わなければ、議論する意味はないと思うからだ。
それでも、今の米国の国内分裂は悲劇的だ。こんな中で米新政権は対欧州・中東・アジアで戦略的、地政学的な外交政策をしっかり立案・実施できるのか。米滞在中、保守系FOXニュースが「Deep Stateが報復、トランプ政権崩壊を望む」といった煽情的ニュースを終日流していたのには正直耳を疑った。
ディープ・ステートとは「闇の国家」、政府内機関・組織が政治指導者の文民統制に従わず、勝手な行動をとる状況だ。「元FBI長官も司法省副長官や特別検察官も全て闇の国家の一員で、大統領に対するクーデターを企んでいる」のだという。ばかな!詳細は今週の産経新聞コラムを読んでほしい。
米国滞在中、日本時間の17日未明、米海軍イージス艦とコンテナ船が衝突した。いつも思うことは、この種の事故では日本人に犠牲者が出れば大騒ぎとなるが、米国人が犠牲になっても日本の新聞は何も言わない。今回犠牲になった水兵7人を含め、彼らは日本防衛のために働いているのに、である。何かがおかしい。
〇欧州・ロシア
19日から英国のEU離脱交渉が始まる。第二期メイ政権がどうなるのかも決まらないまま、EU側との話が再開される。これではEUも譲歩などできるはずがないだろう。そんな中、ロンドンでは高層アパートで大火があり、英仏で再びテロ事件が起きた。メイ首相にとっては大きな試練、果たして彼女はこれを乗り越えられるだろうか。
〇東アジア・大洋州
米国では安倍首相への評価が非常に高かった。第二期政権発足当時はあれほど安倍政権を批判していた一部米国アジア専門家たちも、今では何も言わない。その一方、日本では安倍政権の支持率は急落している。どうも米国での日本関連情報には相当のタイムラグがあるようだ。
〇中東・アフリカ
カタル対サウジ・エジプト等他のアラブ諸国の対立は当分続きそうだが、米国の専門家が「最大の理由はカタルが過激派を極度に恐れているからだ」と断言していた。中東の経験が長い米国の友人の話だが、言われてみればその通り。下手に金があるので、何でもできることが、逆にカタル外交を出口のないものにしている。
実際には、カタルはテロ組織を支援している意識はない。カタルの動機は単純、ただ単に「テロ組織に嫌われない」ため、怖い相手に財政支援しているだけだ。日本ではこれを「みかじめ料」と呼ぶが、アラビア語にその同意語があるだろうか。随分忘れてしまったが、恐らくないだろう。
〇南北アメリカ
今回の日米共催シンポジウムで最も興味深かったのは、我々パネリストも聴衆も、トランプ氏やトランプ政権に対するコメントや質問がほぼゼロだったことだ。前回(本年1月)にはあれだけ批判が飛び交ったのに。恐らくワシントンの住人はトランプ政権の本質を、諦めとともに理解しているのだろうか。どこか異様な雰囲気が感じられた。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
【6月19-25日】
13-19日 スポーツ・フォー・トゥモロー(ネパールサッカー指導者の招へい)
18-19日 APEC持続可能な観光に関するハイレベル政策円卓会議と関連シンポジウム(ベトナム・ハロン)
19日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
19日 EU環境相理事会(ルクセンブルク)
19日 米パナマ首脳会談(米・ワシントン)
19日 メキシコ農業相がNAFTA再交渉に関して話し合うため米国を訪問 (米・ジョージア)
19日 英・EU離脱交渉開始
19日 長征3B(通信衛星)打ち上げ(四川省・西昌衛星発射センター)
19-20日 米・ティラーソン国務長官がメキシコを訪問
19-22日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
19-22日 ギニアのコンデ大統領が訪日
19-23日 キルギス大統領がロシアを訪問(モスクワ)
20日 EU一般問題理事会(ルクセンブルク)
20日 1-3月期の米経常収支(米・商務省)
20-21日 ブラジルのテメル大統領がロシアを訪問
21日 米中外交・安全保障対話(米・ワシントン)
21日 5月の訪日外国人数(日本政府観光局)
21-22日 G7運輸相会合(イタリア・カリャリ)
21日か22日 ロシア1~4月貿易統計発表
21-23日 経済社会理事会(ECOSOC)本会期(人道問題分野)(ジュネーヴ)
22日 欧州中央銀行(ECB)一般理事会(独・フランクフルト)
22-23日 EU首脳会議(ブリュッセル)
22-23日 欧州理事会(ブリュッセル)
23日 沖縄慰霊の日
23日 独・ユーロ圏製造業PMI速報値(6月)
23日 メキシコ4月小売・卸売販売指数発表
23日か26日 ロシア5月雇用統計発表
24日 パプアニューギニア国会議員選挙
24-27日 インドのモディ首相がポルトガル、米国、オランダを訪問
25-27日 セーフティートレードショー2017(ニュージーランド・オークランド)
【来週の予定】
26日 米印首脳会談
26日 メキシコ5月雇用統計発表
26日 モンゴル大統領選挙
26日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ルクセンブルク)
26日 ファルコン9 打ち上げ(米・ヴァンデンバーグ空軍基地)
26-29日 欧州議員委員会会議(ブリュッセル)
27日 メキシコ5月貿易統計発表
27-28日 国連ウィメン執行理事会年次総会(ニューヨーク)
27-29日 第45回国連工業開発機構・工業開発理事会(ウィーン)
28日 PSLV-XL(地球観測衛星)の打ち上げ(インド・サティシュ・ダワン宇宙センター)
28日-7月1日 韓国の文大統領が初訪米
28-30日 第68回軍縮諮問委員会(米・ニューヨーク)
29日 米国第1四半期GDP(確定値)発表(米・商務省)
30日 米韓首脳会談(米・ワシントン)
30日 ブラジル5月全国家計サンプル調査発表
7月1日 エストニアがEU議長国に就任(12月末まで)
1日 ハンガリーが「ビシェグラード4」(チェコ、スロバキア、ポーランドとの協力枠組み)の議長国に就任(2018年6月末まで)
2日 チリ・大統領および国会議員の予備選挙(政党・政党連合が実施を決定した場合)
2日 セネガル国民議会議員選挙
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問