キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年5月30日(火)
[ 2017年外交・安保カレンダー ]
先週もトランプ氏は我々の期待を裏切らなかった。5月12日21時26分のTwitterで彼はこう呟いた。「James Comey better hope that there are no "tapes" of our conversations before he starts leaking to the press!」それにしても、なぜトランプ氏は頼まれもしないのに録音テープの存在を暗示したのだろう。
先日更迭したJ・コーミー元FBI長官の対メディア情報リークを牽制するためだったとしたら、彼は驚くべき「政治音痴」だ。ホワイトハウスでの録音テープといえば、誰だって1972年のウォーターゲート事件を思い出すだろう。1974年の夏にニクソンが辞任した時、偶然にも筆者は米国旅行中だった。
ある米共和党識者が、「あの録音テープがなかったら、ニクソンは辞任しなくても済んだかもしれない」とCNNで述べていた。当時の雰囲気を知る筆者もその通りだと思う。そんな微妙な情報が存在する可能性にトランプ氏はなぜ敢えて言及したのか。トランプ氏の側近は心の休まる暇がないのではないか。
今週のもう一つの注目点は北朝鮮の新型ミサイルらしき飛翔体の発射だ。高度2000キロを超える「ロフテド」軌道というから、二つの意味で興味深い。第一は、「ロフテド」軌道のミサイルは迎撃が難しくなること。第二は、高高度からの大気圏再突入で、北朝鮮がICBM完成にまた一歩近づいた可能性だ。
タイミングも最悪だ。中国では「一帯一路」首脳会議の初日に当たり、韓国では文在寅新大統領が始動したばかり。明らかに北朝鮮は中韓をあざ笑うが如く、核ミサイル開発を進めているようだ。我々は北朝鮮の開発能力を過小評価しているのではないのか。
確かに、北朝鮮のミサイルは資金的にも技術的にも限界がある。だが、中国やイランがA2/AD技術開発の一環としてこの種のミサイル実験を行っている可能性は高い。されば、北朝鮮が「空母キラー」型ミサイル攻撃能力を手に入れるのも時間の問題だろう。いずれにせよ、あまり良いニュースではなさそうだ。
〇欧州・ロシア
14日にマクロンが仏大統領に正式に就任する。世論調査によれば、マクロンに投票した有権者の半分以上はユーロ圏離脱、保護貿易主義、移民流入阻止などの政策を主張したルペンの当選を阻止するために投票したと答えたそうだ。逆に言えば、マクロンに対する支持は未知数ということか。これでは先が思いやられる。
〇東アジア・大洋州
14-15日に北京で「一帯一路」首脳会議があり、ロシア、インドネシア、イタリア、フィリピンなど29カ国の首脳が参加したそうだ。だが、日本のメディアも、中国が力を入れている割には「一帯一路の投資は盛り上がらない」と報じている。ようやく、一帯一路政策の問題点が見えてきたようだ。
一帯一路は収益率が低い割りにリスクが高い。民間企業は二の足を踏み、大半は国有企業による投資だ。中国経済の構造矛盾は深まり、先行きが不安だ。更に、途上国インフラ投資で融資対象になり得る案件は非常に少ないというから、やや期待外れか。「一帯一路」政策は意外に早く萎むかもしれない。
〇中東・アフリカ
16日にシリア和平協議が再開されるが、事態が進展する見込みは全く立っていない。米国のトマホーク攻撃で事態が動くかと見る向きもあったようだが、結局は線香花火。トランプ政権が本気で地上軍を入れるなど軍事介入を強める兆候は見られない。どうやら、今年もシリアに和平は生まれそうにないということか。
〇南北アメリカ
コーミー元長官は大統領選でのトランプ陣営とロシア政府の接触・共謀疑惑につき、昨年7月に犯罪捜査に着手していたそうだ。トランプ氏は「どっちみち私はコーミーを更迭していた。彼は、目立ちたがり屋で、スタンドプレーヤーだ。FBIは混乱していた」と語ったそうだが、こうした説明はお粗末である。。
トランプ氏によれば、「コーミーは良い仕事をしなかった」から解任されたという。12日朝、彼は大統領選へのロシアの干渉に関する捜査を「魔女狩り」と呼んだ。同時に、トランプ氏は今後記者会見を取りやめる可能性にも言及している。こうした混乱はトランプ政権の「終わりの始まり」を意味するのか。
〇インド亜大陸
特記事項なし。今週はこのくらいにしておこう。
10-16日 フィリピンのドゥテルテ大統領がカンボジア、香港、中国を訪問
14-15日 ロシアのプーチン大統領が中国を訪問、首脳会談
14-15日 シルクロード経済圏構想「一帯一路」の国際首脳会議(北京)
14-16日 ウクライナのグロイスマン首相がイスラエル訪問
14-28日 大相撲夏場所初日(東京・両国国技館)
15日 沖縄本土復帰45周年
15日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
15日 フランス・マクロン大統領がドイツを訪問、首脳会談
15日 中国4月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
15-18日 欧州議会本会議(ストラスブール)
15-18日 ロベルト・アゼベド世界貿易機関(WTO)事務局長が訪日
15-19日 河井内閣総理大臣補佐官が米国を訪問(ワシントンD.C.)
15-19日 第73回国連アジア太平洋経済社会委員会(バンコク)
15-19日 国連人権理事会(ワーキンググループ)(ジュネーブ)
15-25日 2017国際電気通信連合委員会(ジュネーブ)
15-26日 第119回国際麻薬統制委員会(ウィーン)
15-31日 パレスチナ自治政府のマフムード・アッバース大統領がインドを訪問
16日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
16日 シリア和平協議再開(ジュネーブ)
16日 ファルコン9(インマルサット5 F4)の打ち上げ(ケープカナベラル空軍基地)
16-17日 トルコのエルドアン大統領が米国を訪問、首脳会談(ワシントン)
16-18日 ニュージーランドのビル・イングリッシュ首相が訪日、首脳会談
16-23日 対日理解促進交流プログラムJENESYS2016招へいプログラムを実施(第9陣)
17日 ロシア第1四半期GDP(速報値)発表
17-29日 カンヌ映画祭
18日 米コロンビア首脳会談(ワシントン)
18日 米次期駐日大使の上院指名公聴会(ワシントン)
18日 EU司法・内務総局委員会(ルクセンブルク)
18日 ソユーズST-B(通信衛星SES-15)の打ち上げ(仏領ギアナ基地)
18日か19日 ロシア1~4月鉱工業生産指数発表
18-19日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
18-19日 G20労働相・環境相会合(ドイツ・バート・ノイエンアール)
18-19日 APEC財務高級実務者会合(SFOM)、関連シンポジウム(ベトナム・ニンビン)
18-20日 アルゼンチンのマウリシオ・マクリ大統領が訪日
19日 4月の訪日外国人数発表(日本政府観光局)
19日 イラン大統領選挙(イラン)
19-20日 G20保健相会合(ベルリン)
19-21日 アジア太平洋経済協力会議(APEC)貿易相会合(MRT)(ハノイ)
20日 東ティモールのフランシスコ・グテレス新大統領就任式
21日 黒海経済協力機構外相会合(イスタンブール)
【来週の予定】
22日 黒海経済協力機構25周年記念サミット(イスタンブール)
22日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
22日 ロシア2016年第4四半期外国直接投資統計発表
22日 メキシコ第1四半期GDP発表
22-23日 米トランプ大統領がイスラエルを訪問
22-26日 アフリカ開発銀行年次総会(インド・アーメダバード)
23日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
23日 メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
24日 エクアドルのレニン・モレノ新大統領就任式
24日 FOMC議事要旨(FRB)
24日 ケイマン立法議会選挙(ケイマン諸島)
25日 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議(ブリュッセル)
25日 石油輸出国機構(OPEC)定例総会(ウィーン)
25日 フィリピン・ドゥテルテ大統領がロシアを訪問
25日 メキシコ4月貿易統計発表
25日 PSLV-XL(地球観測衛星)の打ち上げ(サティシュ・ダワン宇宙センター)
25日か26日 ロシア4月雇用統計発表
25-27日 米のトランプ大統領がベルギーとイタリア、バチカンを訪問
26日 米国第1四半期GDP(改定値)発表
26日 CIS首相会議(ロシア)
26日 メキシコ4月雇用統計発表
26日か29日 ロシア第1四半期貿易統計発表
25日 OPEC定例総会(ウィーン)
26-27日 G7首脳会議(イタリア・タオルミーナ)
26日か27日 安倍首相とトランプ大統領が日米会談(イタリア・タオルミーナ)
27日 ラマダン(断食月)開始
28-30日 中国端午節休暇
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問