外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2017年4月11日(火)

外交・安保カレンダー(4月10-16日)

[ 2017年外交・安保カレンダー ]


先週は久し振りに中東と東アジアで危機が同時に発生した。6-7日の米中首脳会談二日前にアサド政権が化学兵器を使用。トランプ政権は直ちにこれをレッドライン越えと断じ、フロリダでの米中首脳会談夕食会直後に、トマホークによるシリア空軍基地攻撃が発表された。評論家冥利に尽きるとはこのことだ。

それにしても、中国の国家主席は運が悪いとしか言いようがない。詳しくは今週の産経新聞コラムと来週の週刊新潮コラムをお読み頂きたいが、習主席が世界の指導者としてトランプ氏と堂々と渡り合う、こんな姿を世界に印象付ける絶好のチャンスが対シリア攻撃決断で台無しになったのだから。

中国側は在米大使がトランプ氏の娘婿を通じ、「新型大国関係」、「一帯一路」、台湾を含む中国の「核心的利益」について何とか米国の同意・了解を得ようと必死で根回しを行っていた。正直なところ、筆者も一時は「トランプ政権が中国側の攻勢に屈するかもしれない」と心配したこともあった。

ところが蓋を開けてみたら、今回米側は完全ゼロ回答。それどころか、夕食の際トランプ氏は、「長時間議論を交わしたが今のところ成果は全くなし」と述べた。こんな失礼な話は聞いたことがない。習氏もただ笑っているように見えた。勿論、あの場面が中国のテレビで報じられることは決してないだろうが。

トランプ氏の短気とお説教嫌いは有名であり、独首相が難民問題でトランプ氏と話した後、トランプ氏は報道陣から促されても独首相との握手を拒否し続けたというエピソードがある。似たような話だが、中国の要人は話が長い。「壊れた蓄音機」と同じ。一度スイッチが入れば10-15分は話が止まらない。

こんな長話をトランプ氏が我慢できるとは思えない。「長時間議論し成果ゼロ」とは実に正直なコメントだったのではないか。しかも、その直後にトランプ氏は習氏に対シリア空軍基地攻撃を内々伝え、夕食後にこれを正式に発表した。中国人だったらやはりメンツを潰されたと思うのではないだろうか。

〇欧州・ロシア
10-11日にイタリアでG7外相会議がある。ロシアが参加してG8になった途端、G7/8は機能しなくなり、逆に一時はG20が注目を浴びるようになった。しかし、これだけ中露が悪さをするようになると、G7の重要性が再び認識されるようになったのは実に皮肉である。
米国務長官はこの後、11-12日にロシアを訪問する。一時はトランプ政権との蜜月も噂されたプーチン政権だが、シリアの化学兵器使用後、対米関係は冷戦終了後最悪の状態に陥っている。露大統領と近いと言われる米国務長官はこうした状況をどう立て直すのか。要注目であろう。

〇東アジア・大洋州
10-14日に中国の北朝鮮核問題特使が韓国を訪問し、北の核計画とTHAAD問題を議論するという。11日は北朝鮮の最高人民会議が開かれる。米海軍の空母打撃群は南シナ海から北上し北朝鮮に向かう。米国の典型的な「show of force」政策復活か。それともトランプ氏の衝動的気紛れか。北は必ず何かやるだろう。
15-25日に米副大統領が韓国、日本、インドネシア、豪州を訪問した後、ハワイに立ち寄るそうだ。ペンス副大統領は知日派だそうだが、アジアをもっと良く知ってもらった方が良い。これからトランプ氏に何が起こるか分からないだけに、この種の副大統領外遊は極めて重要である。

〇中東・アフリカ
米国の大統領がレッドラインを越えたと言ったら、強制行動を行う必要がある。それをしなければ、米国はもはや大国ではなくなるからだ。その意味でシリアの「化学兵器使用にトマホーク59発」は米国内では概ね高く評価されている。今見ているCNNではこの攻撃の合法性に関する議論が続いている。
驚くのは、米国の弁護士や元検察官が合衆国憲法の解釈や連邦議会の宣戦布告権限の話を、あーでもない、こーでもないと議論するのだが、誰一人として国連憲章や国際法の話はしないことだ。こんな基本的な議論が完全に抜けているのに、誰もそのことを指摘しない。これが米国の真髄なのだろうか。

〇南北アメリカ
対シリア攻撃決定の際、バノン首席戦略官は反対したという。彼はNSCの常任メンバーから外れ、影響力が低下したと報じられた。他方、トランプ氏は今回の攻撃に賛成した娘婿のクシュナーとバノンに対し、仲直りを命じたともいわれる。
筆者の見立ては、トランプが引き続き選挙モードと統治モードの間を「行ったり来たりする」というものだ。そうであれば、今回はNSCが統治モードを強めただけで、トランプ政権全体では、引き続き選挙モードの頭目であるバノン氏を切れないと思う。今後ともホワイトハウスの人事には目が離せない。

〇インド亜大陸
9-12日に豪州の首相がインドを訪問中だ。今週はこのくらいにしておこう。

4月6-11日 ミャンマー・ティン=チョウ大統領が中国を訪問
8-11日 滝沢外務大臣政務官がイタリア・ローマを訪問
9-10日 G7エネルギー相会合(ローマ)
9-12日 岸田外務大臣がG7外相会合のためイタリア・ルッカを訪問
10日 IMFの世界経済見通し発表(午前9時)
10-11日 G7外相会合(イタリア・ルッカ)
10-11日 第120回国際農業開発基金(IFAD)理事会 (ローマ)
10-12日 欧州議会委員会会議(ベルギー・ブリュッセル)
10-13日 第12回日中韓自由貿易協定(FTA)交渉会合開催 (東京)
10-16日 スリランカ・ウィクラマシンハ首相が訪日
11日 2025年国際博覧会(万博)の大阪誘致を閣議了解(日本)
11日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
11日 北朝鮮最高人民会議(平壌)
11-12日 ブラジル中央銀行、金融政策委員会(Copom)
12日 米・ティラーソン国務長官がロシアを訪問
12日 ブラジル2月月間小売り調査発表
12日 北大西洋条約機構(NATO)事務総長と米大統領が会談(ホワイトハウス) 
12日 インド2月鉱工業生産指数発表(インド)
12日 中国3月消費者物価指数(CPI)発表(中国)
12日 中国3月生産者物価指数(PPI)発表
13日 米国3月生産者物価指数(PPI)発表
13日 中国第1四半期貿易統計発表(中国)
13-16日 インターナショナルICT(情報通信技術)EXPO(香港)
13-17日 皇太子さまが外交樹立60周年でマレーシアを訪問
14日 聖金曜日による米国の株式・債権市場休場
14日 米国3月消費者物価指数(CPI)、小売売上高統計発表
14日 アフガニスタンに関する国際平和会議が開催(ロシア)
15日 北朝鮮の故金日成主席生誕 105周年
16日 熊本地震本震から1年
16日 トルコ大統領の権限強化に向けた憲法改正めぐり国民投票(トルコ)
16日 米・ペンス副大統領が韓国を訪問
16日 韓国の客船「セウォル号」沈没から3年

【来週の予定】
17日 ネパール・バンダリ大統領がインドを訪問
17日か18日 ロシア第1四半期鉱工業生産指数発表
18日 文部科学省の全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)(日本)
18-19日 米・ペンス副大統領が訪日
19日 アトラス(オービタル社商用補給機)打ち上げ(米・ケープカナベラル空軍基地)
19-21日 国際連合経済社会理事会実質会期 (ニューヨーク)
19-28日 上海モーターショーが開幕(一般公開は21日から)
19-5月3日 第201回ユネスコ執行委員会 (パリ)
20日 ソユーズFG(Soyuz-FG)の打ち上げ(午後4時13分、カザフスタン・バイコヌール宇宙基地)
20日 中国・習近平国家主席がパキスタンを訪問
20日か21日 ロシア1~2月貿易統計発表
20-21日 G20財務省・中央銀行総裁会議(米・ワシントン)
20-22日 クラスノヤルスク経済フォーラム(ロシア)
21日 メキシコ3月雇用統計発表
21-23日 IMF・世界銀行春季総会(ワシントン)
23日 名古屋市長選挙投票(日本・名古屋)
23日 フランス大統領第1回投票 (フランス)
23日 長征7(CZ-7)の打ち上げ(中国海南省・文昌衛星発射センター)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問