外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2017年4月4日(火)

外交・安保カレンダー(4月3-9日)

[ 2017年外交・安保カレンダー ]


今週のハイライトは6-7日の米中首脳会談だと書こうとしたら、ロシアの地下鉄で悲惨なテロ事件が起きたという臨時ニュースが飛び込んできた。それにもかかわらず、不思議にも日本のメディアの関心は、今回の米中首脳会談で「北朝鮮問題」がどの程度話し合われるか、にほぼ集中しているようだ。

トランプ氏はFT紙のインタビューで、「中国が北朝鮮に圧力を掛けたら米軍の朝鮮半島撤退を保証する大取引を考えるか」と問われ、"Well if China is not going to solve North Korea, we will. That is all I am telling you."「中国が北朝鮮問題を解決しないなら、我々がやる。言えるのはそれだけだ」と述べたそうだ。

日本の一部夕刊タブロイド紙はトランプ氏が対北朝鮮武力攻撃を検討中などと大々的に報じたが、筆者の見立てはちょっと違う。トランプ氏の発言通り、今回米国は「中国がやらなければ、米国単独でもやる」覚悟を示したということ。現時点ではそれ以上でも、それ以下でもない。

要するに、今は「情報戦」の段階で、直ちに攻撃が始まる訳ではない。メディアは盛んに「斬首作戦、特殊部隊による暗殺」というが、そもそも、そのような攻撃を国際法上如何に正当化するのか。確かに、トランプ氏は大統領就任直後、60日以内に対北朝鮮措置の検討を命ずる大統領令に署名した。

北朝鮮北西部の弾道ミサイル発射基地などへのミサイルや有人・無人の航空機などによる限定的な爆撃が検討されているとも報じられた。だが、予防攻撃だろうが、何だろうが、そもそも成功するのか。更には、そうした行為が1953年の朝鮮戦争休戦協定違反とはならないのか。この点も忘れてはならない。

米国防総省の官僚組織は、各種の具体的攻撃方法だけでなく、それぞれの法的側面まで同時にしっかり検討している。そんなに簡単に攻撃が可能だとは到底思えない。トランプ政権は米側の軍事攻撃が必ずしも全面戦争にはつながらないという認識を強め始めたとも報じられた。しかし、根拠は一体何なのか。

現状はあまりに不確実性が高く、今米国が単独行動を取る可能性は低い。それよりも米国にとり今最も大事なことは、米中首脳会談の直前に、「米国が本気で、第二次朝鮮戦争勃発も覚悟の上で、強制力を伴う外交を始めた」と中朝指導者に確信させること。その上で中朝の動きを見るのが米国の目論見だろう。

THAADが取引材料になる可能性は低い。そんなバーゲンをすれば、米国は日韓の信頼を失う。これはノンスターターだ。南シナ海問題も中国に対するバーターとはならない。南シナ海は朝鮮半島とは別の地政学的、戦略的重要問題であり、普通の政権であれば、北朝鮮問題と同列に扱うという発想にはならない。

尤もトランプ政権は「普通ではない」から、これ以上推測しても意味はないかもしれない。4月中に北朝鮮が新型ミサイル発射や核実験を強行する可能性は高いが、そのタイミングはあくまで核開発計画のスケジュール次第であって、米中首脳会談か、故金日成主席生誕105周年かといってもあまり意味はない。

問題は中国側の反応だが、北朝鮮をバッファ(緩衝地帯)として維持する政策は変わっていない。米中首脳会談では、北朝鮮以外にも、貿易、南シナ海、サイバー、宇宙戦問題、人権など多くの問題が議論されるはず。筆者が習近平国家主席なら、これらを絡めて北朝鮮に対する圧力を最小限にする努力を払う。

〇欧州・ロシア
ロシアのサンクトペテルブルク地下鉄車内で3日に爆発が起きた。現時点でロシア政府は少なくとも10人が死亡、50人近くが負傷したと発表したが、プーチン大統領はテロの可能性に言及した。これは決して偶然ではなかろう。やはり、ロシアの対シリア軍事介入のコストは高くついたということだ。

〇東アジア・大洋州
3-5日に日本とEUが経済連携協定(EPA)交渉会合を都内で開く。習近平国家主席は5日にフィンランドを公式訪問する。既に述べた通り、6-7日には米中首脳会談がフロリダで行われる。中国の要人の話は概して長いが、果たしてトランプ氏は我慢できるだろうか。彼は正直だから、ちょっとした見物である。

〇中東・アフリカ
3日に米エジプト首脳会談がワシントンで開かれる。トランプ政権はオバマ政権とは大きく異なり、エジプト大統領を歓迎し、支持するようだ。米国の中東政策は間違いなく、オバマ時代の前に戻りつつあるのか。それではオバマ大統領の中東政策は一体何だったのか。疑問は尽きない。
ところで、イラクのモスル、シリアのラッカ、これらは一体どうなったのか。一般市民を人質にできる都市に拠点を置いたイスラム国の掃討作戦は予想以上に難しい。というか、民主主義国には難しいだけで、人質もろとも皆殺しにする中東の独裁国家だったら、もっと簡単なのかもしれないが・・・。

〇南北アメリカ
米中首脳会談については冒頭書いた通り。それ以外のトランプ政権をめぐる状況は相変わらずだ。支離滅裂というべきか、良く維持しているものだと感心すべきか。筆者は後者である。今のホワイトハウスを批判しても、状況は変わらない。彼らは素人っぽいが、その能力を決して過小評価すべきではない。

〇インド亜大陸
9日に豪州の首相がインドを訪問する。オーストラリアは環インド洋地域の国でもあるのだ。今週はこのくらいにしておこう。

4月2-4日 中国清明節休暇(中国)
3日 3月の日銀短観(日銀)
3日 日露共同経済活動推進室の設置(欧州局ロシア課)
3日 EU外相理事会(ルクセンブルク)
3日 EU農業・漁業理事会(ルクセンブルク)
3日 EU統計局(ユーロスタット)、2月失業率発表
3日 米エジプト首脳会談(ワシントン)
3日 監査監督機関国際フォーラム(IFIAR)開所式(都内)
3日か4日 ロシア2016年経済活動別・需要項目別GDP統計発表
3-5日 日・欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)交渉会合(都内)
3-6日 欧州議会委員会会議(フランス・ストラスブール)
3-6日 欧州議会本会議(ストラスブール)
4日 米国2月貿易統計発表(商務省)
4日 ブラジル2月鉱工業生産指数発表
4日 ダライ・ラマが中国との国境紛争地帯・アルナーチャル・プラデーシュ州を訪問(インド)
4-6日 薗浦外務副大臣の英国及びベルギー訪問
4-7日 フェリペ6世スペイン国王夫妻が国賓として来日
5日 米連邦公開市場委(FOMC)議事要旨(午後2時、連邦準備制度理事会=FRB)
5日 中・フィンランド首脳会談(フィンランド)
5日か6日 ロシア3月CPI発表
5-6日 アフガニスタン大統領がインドネシアを初訪問
5-7日 ラテンアメリカ世界経済フォーラム「WEF on Latin America」(アルゼンチン・ブエノスアイレス)
5-7日 WTO、メキシコに関する貿易政策レビュー(スイス・ジュネーブ)
6日 WTO物品貿易理事会(ジュネーブ)
6日 ザンビア国会議員選挙(ザンビア)
6-7日 米中首脳会談(フロリダ州パームビーチ)
6-7日 G20デジタル化担当相会合(ドイツ・デュッセルドルフ)
7日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(マルタ)
7日 米国3月雇用統計発表(午前8時半、労働省)
7日 ブラジル3月拡大消費者物価指数(IPCA)発表
7日 メキシコ3月CPI発表
9日 秋田県知事選投開票
9日 秋田市長選投開票
9-10日 G7エネルギー相会合(ローマ)

【来週の予定】
10-11日 G7外相会合(イタリア・ルッカ)
10-11日 第120回国際農業開発機構(IFAD)理事会(ローマ)
10-12日 欧州議会委員会会議(ベルギー・ブリュッセル)
11日 メキシコ2月鉱工業生産指数発表
11-12日 ブラジル中央銀行、金融政策委員会(Copom)
12日 ブラジル2月月間小売り調査発表
12日 北大西洋条約機構(NATO)事務総長と米大統領が会談(ホワイトハウス)
12日 インド2月鉱工業生産指数発表(インド)
12日 中国3月CPI発表(中国)
13日 中国第1四半期貿易統計発表(中国)
13-16日 インターナショナルICT(情報通信技術)エキスポ(香港)
14日 米国3月消費者物価指数(CPI)、小売売上高統計発表
16日 トルコ大統領の権限強化に向けた憲法改正めぐり国民投票(トルコ)
16日 韓国の客船「セウォル号」沈没から3年


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問