キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2017年3月7日(火)
[ 2017年外交・安保カレンダー ]
北朝鮮が再び弾道ミサイルを発射。一方、マレーシアは在クアラルンプール北朝鮮大使を「ペルソナ・ノン・グラータ(PNG)」として国外追放した。おかげで本日は夜までメディアからの取材に忙殺された。幸い筆者はPNGとなった経験がない。久し振りに外交・領事関係に関するウィーン条約を読み直した。
マスコミの質問は様々だ。次は国交断絶なのか、北朝鮮大使が出国しなかったらどうなるのか、大使がいなくなったら大使館はどうなるのか、敷地内に隠れている二等書記官は逮捕できるのか、航空会社職員の逮捕はどうか、大使が国外退去期限ぎりぎりまで大使館にいたのはなぜか・・・。
国交といっても、外交関係を維持しながら臨時代理大使を置くことから、領事関係への格下げなど、様々な段階、態様があり得る。初めから「大使国外退去」か、「国交断絶」かの二者択一ではない。人と人との関係と同様、国と国の関係も様々な段階があるのだ。まあ、こんなこと知らなくても良いことだが。
更に、外交特権が派遣国と接受国との合意の産物であることも意外に知られていない。だから、接受国はPNGをいつでも一方的に、理由を明示せずに発動できる。PNG通告を受けた場合、ウィーン条約上、派遣国は「本国へ召還又は外交官任務終了」を行う義務がある。今回北朝鮮もこれに従ったのだろう。
派遣国がこの義務履行を拒否した場合、または「相当な期間内」にこれを行わなかった場合、接受国は対象者がもう「外交特権」を持たないと看做すことができる。その場合、違法行為などがあれば、一般の外国人と同様、接受国当局はその「元外交官」の身柄拘束などが可能となるはずだ。
ちなみに、PNGは「名誉」にも、「恥」にもなり得る。例えば、日本人の外交官が近隣の独裁主義国家でPNGとなった場合、マスコミは「恥ずかしいこと」と書くかもしれないが、筆者はそれを「勲章」と考える。その人物は相手が嫌がるほどの情報収集活動を行った立派な外交官だからだ。
さて、今回の北朝鮮外交官の場合はどうだろう。他人事ながら、実に心配だ。
〇欧州・ロシア
EU関係では今週は国際会議が目白押しだ。6日は外交理事会、7日は一般理事会、9日には欧州中銀理事会がそれぞれ開かれるのだが、筆者が関心を持ったのは9日の英連邦貿易相会合だ。イギリスはEU離脱後に英連邦加盟国との経済関係強化を図るのだろう。当たり前だが、英国のEU離脱は本気である。
〇東アジア・大洋州
7-8日にジャカルタで環インド洋連合首脳会議が開かれ、豪首相が参加する。オーストラリアがインド洋国家であることは例のマレーシア航空機消失事件で分かっていたが、実際に豪州はこの枠組みに積極的に参加していることが良く分かる。インド洋は重要であり、日本からは岸外務副大臣が参加する。
7日に中国の商務部長がフィリピンを訪問する。40もの共同プロジェクトに署名するという。比大統領の戦略は、今の中国とは戦わずに、経済的利益を取れるだけ取るというものだが、果たしてうまくいくのか。台湾も似たようなやり方で中国経済に取り込まれていったが、フィリピンは大丈夫か。心配だ。
〇中東・アフリカ
6日にインド・オマーンが共同軍事訓練を実施する。場所は不明だが、恐らくインド洋だろう。ここでもインドのインド洋に対する拘りが感じられる。一方、12日にはトルコ大統領がロシアを訪問する。最近のトルコの対露傾斜は顕著であり、中東地域での力のバランスを微妙に変える可能性がある。要注意だ。
〇南北アメリカ
先週火曜日に格調高い対議会演説を成功させたトランプ氏だが、土曜日には再び暴発した。何と「大統領選前に、オバマ大統領の指示でトランプタワーの電話が盗聴された」とツイートしたのだ。根拠は不明だが、米国大統領にはそのような権限はないという。やはり、トランプ氏は変わりそうもない。
〇インド亜大陸
6-8日にニューデリーで第19回「アジア安全保障会議」が開かれる。インドが主催する有名な国際会議だが、実は「アジア安全保障会議」はもう一つある。英シンクタンクIISSがシンガポールで開催する会議で、通常は「シャングリラ会議」と呼んで両者を区別している。今週はこのくらいにしておこう。
3月6日 EU外相理事会(ベルギー・ブリュッセル)
6日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
6日 仏、西、独、伊の首脳がベルサイユで会合(フランス)
6日 NATOのストルテンベルグ事務総長がスウェーデンの防衛相と会合(ブリュッセル)
6-9日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6-10日 国際原子力機関理事会(オーストリア・ウィーン)
6-15日 JENESYS2016 モンゴル訪日団が日本を訪問
7日 ブラジル第4四半期GDP発表
7日 ユーロスタット、第4四半期実質GDP成長率発表
7日 EU一般問題理事会(ブリュッセル)
7日 米国1月貿易統計発表
7日 オーストラリア連邦準備銀行理事会
7日 ミクロネシア連邦議会選挙
7日 南アフリカ共和国2016年第4四半期GDP発表
7日 岸外務副大臣が環インド洋連合首脳会合への出席のため、ジャカルタを訪問(インドネシア)
7日か9日 ロシア2月CPI発表
7-8日 エストニアのカリユライド大統領がフィンランドを訪問
7-9日 メキシコ総合食品見本市「Expo ANTAD 2017」(グアダラハラ)
7-14日 JENESYS2016 中国大学生訪日団が日本を訪問(テーマ:経済・経営,医学,法学)
7-14日 JENESYS2016 招へいプログラム(対象国:インド、シンガポール、東ティモール、ベトナム、ミャンマー、ラオス、第16陣)
7-19日 ジュネーブ国際自動車ショー(報道向けは7-8日、一般公開は9-19日)(ジュネーブ)
8日 中国2月貿易統計発表
8日 ブラジル1月鉱工業生産指数発表
8日、10日 WTO、日本に関する貿易政策レビュー(ジュネーブ)
9日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(ドイツ・フランクフルト)
9日 メキシコ2月CPI発表
9日 中国2月CPI発表
9-10日 欧州理事会(ブリュッセル)
9-10日 第15回「気候変動に対する更なる行動」に関する非公式会合(東京)
9-10日 トルコのエルドアン大統領がロシアのプーチン大統領と会合(ロシア・モスクワ)
9-23日 第329回ILO理事会(スイス・ジュネーブ)
10日 米国2月雇用統計発表
10日 ブラジル2月IPCA発表
10日 インド1月鉱工業生産指数発表
10日 ノルウェーのソニア王妃がフランスを訪問
12日 ホンジュラス大統領・国会議員・市長予備選挙
12-15日 サルマン・サウジアラビア王国国王陛下が日本を訪問
12-11月5日 米国で夏時間に移行
【来週の予定】
3月13-16日 欧州議会本会議(フランス・ストラスブール)
13-16日 アジア最大規模の映像コンテンツ見本市「香港フィルマート」
14日 メキシコ1月鉱工業生産指数発表
14日 中国2月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
14-15日 米国FOMC
15日 オランダ下院選挙
15日 米国2月CPI、小売売上高統計発表
16日 ユーロスタット、2月CPI発表
16日か17日 ロシア1~2月鉱工業生産指数発表
17-18日 G20財務相・中央銀行総裁会議(ドイツ・バーデン・バーデン)
19-20日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(雇用・社会政策・健康相理事会非公式会合)(マルタ・バレッタ)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問