キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2016年10月4日(火)
[ 2016年外交・安保カレンダー ]
先週末の10月2日、ハンガリーで難民受け入れに関する国民投票が行われた。前回本欄では、「結果は今から見えている」と書いたが、グッドニュースは、ハンガリー人たちが同国民主主義の良識を示したことだろう。不思議なことに有効投票は40%に止まり、国民投票が成立しなかったからだ。欧州の良識派にとっては救いだろう。
他方、バッドニュースは、実際に投票した有権者の98%が反対したことだ。前回も述べた通り、質問内容は、「あなたはEUがハンガリー国会の承認なしに、非ハンガリー人のハンガリーへの強制的移住を定めることができることを望むか」だったから、答えは反対に決まっている。国民投票が成立しなかったのは不幸中の幸いという訳だ。
いずれにせよ、日本人の今週の関心は「誰がノーベル賞を取るか」であり、今頃は在スウェーデン日本大使館も大忙しのことと思う。そうこうしている内に、また一人、日本人が医学生理学賞を獲得したそうだ。それにしても、日本は何と平和な国なのか、日本にこそ、「ノーテンキ平和賞」を授与すべきではないかと思うほどだ。
〇欧州・ロシア
2-5日に英国保守党が党大会を開く。報道によれば、同党大会でメイ英首相は2日、欧州連合(EU)離脱プロセスを2017年第1四半期中に開始する方針を明らかにしたという。企業や投資家の不透明感を払拭するため、EU離脱完了日に現行の全てのEU法を英国法に転換する法案を議会に来年提出するとも述べたと報じられた。
筆者はこの新首相、なんだかんだ言いながらEUへの英国離脱通報を先延ばしするのかと勘ぐったこともある。だが、今回同首相は「EU離脱を国民が選択した以上、あまりに長く先延ばしすべきではない」と明言した。これにより、英国は2019年までに2年間のEU離脱交渉を完了させなければならなくなるのだが・・・。
さて、果たしてそう上手く事は進むだろうか。大いに疑問だ。この点についてはメイ首相は、「我々が望むのは英国にとって最良の形での離脱であり、最も迅速な離脱ではない。タイムスケールを設定するつもりはない」と述べたという。「悪魔は詳細に宿る」という英語の格言がそのまま当てはまるような政治状況である。
〇東アジア・大洋州
3-21日にアラスカで米韓空軍合同演習が、4-12日にはフィリピンで米比の上陸作戦が行われる。米韓合同演習では北朝鮮の核施設を制圧する演習が含まれ、後者では実弾演習もあるそうだ。それにしても、比新大統領はこうした米比合同演習を今後中止することが中国に如何なるメッセージを送るか、本当に分かっているのだろうか。
〇中東・アフリカ
「アラブの春」に失敗した感のあるアラブ地域で今週選挙が行われる。7日にはモロッコで議会選挙が、8日にはパレスチナ自治区で地方選挙が、それぞれ実施されるのだ。一方、イラク議会では現職外相の汚職容疑について審議が行われる。このような不完全な民主主義でも、アラブなら良しとすべきなのだろうか。難しいところだ。
〇アメリカ両大陸
トランプは相変わらず女性と少数派を敵に回しているのだが、彼が第二回TV討論に絡め、ヒラリー候補の夫であるクリントン元大統領のSEXスキャンダルを取り上げるという噂が飛び交っている。泥仕合とは正にこのことだが、仮にビル・クリントンの新スキャンダルが出ても、反ヒラリー票が大幅に増えることはないと思うのだが・・・。
〇インド亜大陸
6-7日に第四回中印戦略・商務対話がニューデリーで開かれる。インド外交は強かだが、その本質は「非同盟2.0」であり、近い将来、西側に擦り寄ってくるようなことはないだろう。この点につき過剰な期待は禁物である。今週はこのくらいにしておこう。
10月3日 ヒジュラ暦(イスラム暦)新年
3日 国際原子力機関理事会(オーストリア・ウィーン)
3日 ブラジルのテメル大統領がパラグアイを訪問
3日 ロシアのプーチン大統領がオレンブルク地域を訪問
3日か4日 ロシア第2四半期需要項目別GDP統計(速報値)発表
3-4日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(スロバキア・ブラチスラバ)
3-4日 WTO一般理事会(スイス・ジュネーブ)
3-4日 EU Arab World Summit(ギリシャ・アテネ)
3-7日 欧州議会本会議(フランス・ストラスブール)
3-7日 欧州議会委員会会議(ストラスブール)
3-7日 第66回UNHCR執行委員会(スイス・ジュネーブ)
3-10日 第24回ウガンダ国際見本市(ウガンダ・カンパラ)
3日-11月11日 第71回国連総会第6委員会(米国・ニューヨーク)
3日-11月23日 第71回国連総会第2委員会(ニューヨーク)
4日 米副大統領候補者討論会(米国・バージニア州ファームビル)
4日 ブラジル8月鉱工業生産指数発表
4日 ロシア・カザフスタン・ビジネスフォーラム(カザフスタン・アスタナ)
4日 IMF、世界経済見通し発表
4日か5日 ロシア9月CPI発表
4-5日 アフガニスタンについてのブリュッセル会議(ベルギー・ブリュッセル)
4-6日 環境展示会(WETEX 2016)(ドバイ)
4-6日 APEC教育相会合(ペルー・リマ)
4日-11月23日 第71回国連総会第3委員会(ニューヨーク)
5日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(非金融政策)(ドイツ・フランクフルト)
5日 米国8月貿易統計発表
5日 EEUとベトナムのFTA発効
5日 エジプトのシーシ大統領とスーダンのバシール大統領が二国間交渉(エジプト・カイロ)
5-7日 第1回エチオピア国際農業・工業投資フォーラム(エチオピア・アディスアベバ)
5-8日 テヘラン国際産業見本市
5-8日 国際グリーンテック・エコプロダクト展示会(IGEM2016)(マレーシア・クアラルンプール)
5-18日 第200回国連教育科学文化機関執行委員会(フランス・パリ)
6日 G20財務相・中央銀行総裁ワーキングディナー(米国・ワシントン)
6日 欧州議会のマルティン・シュルツ議長がスロバキアのフィツォ首相と会合(ブラチスラバ)
6-8日 ベトナム工作機械・金属ソリューション(METALEX Vietnam 2016)(ベトナム・ホーチミン)
7日 モロッコ総選挙
7日 ブラジル9月IPCA発表
7日 メキシコ9月CPI発表
7日 米国9月雇用統計発表
7日 WTOサービス貿易理事会(ジュネーブ)
7-8日 チェコ上院選挙(第1回投票)
7-9日 IMF・世界銀行年次総会(ワシントン)
8日 ジョージア議会選挙
8日 ブラジルのテメル大統領が南米南部共同市場などについて話し合うためアルゼンチンを訪問(ブエノスアイレス)
9日 リトアニア議会選挙
9日 ハイチ大統領選挙
9日 米第2回大統領候補者討論会(米国・ミズーリ州セントルイス)
9-13日 世界エネルギー会議(トルコ・イスタンブール)
【来週の予定】
10月10日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ルクセンブルク)
10-11日 EU農水相理事会(ルクセンブルク)
10-12日 シンガポールのトニー・タン大統領がノルウェーを訪問
10-14日 World Culture Forum 2016(インドネシア・バリ)
11日 ベルギー王国のフィリップ国王陛下及び同王妃陛下が訪日
11日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ルクセンブルク)
11日 ケンブリッジ公爵夫人が社会問題について話し合うためオランダを訪問(ロッテルダム)
11-12日 イスラエル贖罪(しょくざい)の日(ヨム・キプール)
11、13日 WTO、韓国に関する貿易政策レビュー(ジュネーブ)
12日 メキシコ8月鉱工業生産指数発表
12-13日 世界輸出開発フォーラム(スリランカ・コロンボ)
12-14日 メディク西アフリカ(ヘルスケア関連展示会・学会)(ナイジェリア・ラゴス)
13日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ルクセンブルク)
13日 中国第3四半期貿易統計発表
13-14日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
13-15日 フランチャイジング&ライセンシング・アジア2016(シンガポール)
13-16日 香港エレクトロニクス・フェア(秋)(香港)
13-16日 エレクトロニック・アジア(electronicAsia)(香港)
14日 中国9月CPI発表
14日 米国9月小売売上高統計発表
14-15日 第23回APEC財務相会合(ペルー・リマ)
14-15日 チェコ上院選挙(決選投票)
15日 オーストラリア首都特別地域議会選挙
15日 アフガニスタン下院選挙
15-16日 BRICSサミット(インド・ゴア)
15-16日 EU一般問題理事会(ベルギー・ブリュッセル)
16日 モンテネグロ議会選挙
16日 インド8月鉱工業生産指数発表
16日 ISS第50次/第51次長期滞在ミッションのためソユーズMS-03を打ち上げ(カザフスタン・バイコヌール)
16日 新潟県知事選挙
16-20日 情報通信技術展示会(GITEX 2016)(ドバイ)
16-24日 イスラエル仮庵(かりいお)祭(スコット)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問