キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2016年8月9日(火)
[ 2016年外交・安保カレンダー ]
先週末から、ようやくリオ・オリンピックが始まった。国際的には政治休戦に入ったようだ。唯一、東アジアでは韓国へのTHAAD配備をめぐり、韓国内だけでなく、中韓間でも混乱が生じている。日本は今回の韓国の決断を高く評価すべきだと思うが、同システムが配備される予定の星州では地元住民の反対運動が続いているという。
先日、朴槿恵大統領は「先祖の墓がある星州にTHAADを配備したのは一種のノブレス・オブリージュだ」と述べたそうだ。あまり説得力のある説明とは思えない。中国を刺激するTHAAD配備について多くの国民を納得させるのは容易ではない。案の定、中国側はこれに激怒し、韓国に対する厳しい報復措置を始めたようだ。
中韓人物交流の縮小、韓国企業関係者の商用ビザ発給要件強化、韓国製化粧品輸入や「韓流」イベントのキャンセルだけではない。人民日報は「韓国最高指導者」が「慎重に問題を処理し、小貪大失で自国を最悪の状態に陥ること」を避けなければ「韓国が最初に打撃目標になる」と警告し、韓国側に大きな衝撃を与えたという。
対する韓国は中国の主張を「本末転倒」と反論した。朴槿恵政権下で中韓関係が悪化すると一体誰が予想できただろう。韓国のある識者は今回の中国側の傲慢な態度が「五百年前に朝鮮王が中国の使者に跪いた際の中国側の嘲笑と嘲弄」を思い出させると述べた。中国と陸の国境で接する国の苦労は昔から変わらないようだ。
〇欧州・ロシア
西欧は夏季休暇の真っ最中らしく、中央銀行関係者以外は仕事していないように見える。これに対し、ロシア方面では8日にバクーでイラン、ロシア、アゼルバイジャン三国の首脳会議が、9日にトルコとロシアの首脳会談が、10日にはロシア・アルメニア首脳会議がそれぞれ開かれる。どうやら独裁者たちの方がずっと仕事中毒のようだ。
〇東アジア・大洋州
9日に韓国与党が党大会を開き次期指導者を選出する。12日にはフィリピンの新大統領が反政府のモロ民族解放戦線の指導者と会談するという。結果を出すためなら、モロ戦線とも手を握るということか。フィリピンは民主主義の国のようだが、そのリーダーについては、どうも「当たり外れ」があるようだ。
〇中東・アフリカ
今週の中東は静かなものだ。8日には大統領を選ぶためレバノン議会が招集されることになっている。それにしても、この国の大統領は一体何時になったら決まるのだろう。アラブ諸国の自己統治能力のなさには、ただただ驚くしかない。テロが続発しないだけ、レバノンはシリアやイラクよりまし、ということか。
〇アメリカ両大陸
7日から国連事務総長がアルゼンチンを訪問する。同国がIMFやOECDと協力するよう働き掛けるそうだが、11日には公務員のレイオフに抗議する24時間ストライキが予定されている。果たしてうまく行くのだろうか。一方、オリンピック開催中のブラジル議会では9日に大統領弾劾につき投票がある。大したもんだぜ、ブラジルという国は。
〇インド亜大陸
中国の外交部長が12日から訪印する。やはり独裁国家の指導者・閣僚は簡単には休ませてもらえないのだろうか。今週はこのくらいにしておこう。
8月8日 中国7月貿易統計発表
8日 ロシア・アゼルバイジャン・イラン3カ国首脳会議(アゼルバイジャン・バクー)
8-12日 人権理事会諮問委員会第17セッション(ジュネーヴ)
9日 中国7月CPI発表
9日 ブラジル6月月間小売り調査発表
9日 メキシコ7月CPI発表
9日 トルコのエルドアン大統領がロシアを訪問
10日 ブラジル7月IPCA発表
10-13日 ASEAN高級実務者会合(SOM)(ビエンチャン)
11日 中国7月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
11日 ザンビア大統領選、下院選、国民投票
11日 メキシコ6月鉱工業生産指数発表
11-15日 国際総合食品見本市「Food Expo 2016」(香港)
11-21日 ガイキンド・インドネシア・インターナショナル・オート・ショー(タンゲラン)
12日 米国7月小売売上高統計発表
12日 香港第2四半期マクロ経済統計発表
12-14日 プロフーズ・プロパック(Pro Foods Pro Pack)2016(スリランカ・コロンボ)
【来週の予定】
8月15日 韓国光復節
15日 米国のケリー国務長官がトルコを訪問
15日か16日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
16日 ドミニカ共和国大統領就任式典に北村誠吾特派大使が出席(サントドミンゴ)
16日 インド6月鉱工業生産指数発表
16日 米国7月CPI発表
18日 南ア6月自動車製造・販売統計発表
18日 ユーロスタット、7月CPI発表
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問