キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2016年7月12日(火)
[ 2016年外交・安保カレンダー ]
今週の焦点はやはり12日に予定される、中国の南シナ海の主権的権利に関する常設仲裁裁判所の判断ではなかろうか。この問題は意外に複雑だ。フィリピンが提起した問題は全部で15項目あるのだが、これまでに同裁判所が管轄権を認めたものは、いわゆる「主権的問題」などの機微な問題を含まない、7項目だけだからだ。
つまり、仲裁裁判所側も慎重に審理を行い、有名な「九断線」問題など、主権が絡むややこしい問題の判断は事実上先送りしたのだろう。そうだとすれば、中国が今回裁判所の判断で法的に致命的ダメージを受ける可能性は低い。それでも、中国は徹底抗戦の構えだ。政治的には中国の「国家としての面子」が潰れるからだろう。
先週末の日本参議院議員選挙の結果は概ね想定内だったが、主要邦字紙では一面トップで「改憲勢力で三分の二」という見出しが躍った。よく考えてみてほしい。「カイケンセイリョク」って、一体何のことなのか。彼らには改憲という言葉以外、共通点は少ない。もしかしたら、「護憲勢力」が勝手に貼ったレッテルではないのか。
ワシントンのアジア村の住人の一人が、「日本が直ちに憲法9条の改正に進めば、周辺国は懸念を深める」といった趣旨のコメントをした。そりゃそうだろうが、今憲法9条を本気で弄ろうとする政党が日本にあるとは思えない。米国人専門家だって判っているはずだ。されば、邦字新聞の「思い込み」記事なのだろうか。困ったことだ。
〇欧州・ロシア
12日にはEU経済財政理事会がスペインとポルトガルの過剰な債務に対する制裁に関する手続きを開始するらしいが、何と優雅なことか。EUは過剰債務が市場原理ではなく、話し合いで解決されることの異常さに気付くべきだ。一方、14日にはイングランド銀行が国民投票以来初めて金融政策会合を開く。英国は一体どうするのか。
〇東アジア・大洋州
11日は中朝軍事協定締結55周年だという。中国が誰を平壌に派遣するかが気になるところだ。その中国は11日に南シナ海での軍事演習を終える。12日の仲裁裁判所判断に圧力を掛けるつもりだとしたら、お笑いだ。軍事演習を行って一体何の意味があるのか。中国が国際法を順守する立場を示す方が遥かに効果的だと思うのだが。
〇中東・アフリカ
残念ながら中東で大きな動きはない。15日にはイエメン問題に関する和平会議がクウェートで再開されるが、これで物事に進展があるとは誰も思うまい。シリアもイラクも、リビアもイエメンも、要するに動かない。アラブ諸国の当事者意識のなさには、ほとほと呆れるばかりである。
〇アメリカ両大陸
共和党の党大会は7月18-21日、オハイオ州のクリーブランドで開かれるが、共和党首脳部とトランプ候補との取引が進んでいるようには見えない。「テレプロンプターを読む(良い子の)トランプ」と「アドリブで過激発言を繰り返す(困った)トランプ」が共存する二重人格の大統領候補が生まれそうだ。これで本選に勝てる訳はないのだが。
〇インド亜大陸
11日に印首相がアフリカ諸国歴訪から帰国する。12-13日には、インド国有銀行の5支店が合併する問題で同銀行職員が全国でストライキを行うという。非同盟で元社会主義のインドには色々な問題があるようだ。今週はこのくらいにしておこう。
7月11日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
11-12日 カナダのトルドー首相がウクライナを訪問
11-13日 G20労働相会合(北京)
11-15日 欧州議会委員会会議
12日 メキシコ5月鉱工業生産指数発表
12日 ブラジル5月月間小売り調査発表
12日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
12-13日 EU中国サミット(中国・北京)
13日 中国第2四半期貿易統計発表
14日 南ア5月自動車製造・販売統計発表
14日 日米韓次官協議(米国ホノルル)
15日 ユーロスタット、6月CPI発表
15日 中国第2四半期マクロ経済統計(GDP、固定資産投資、社会消費品小売総額など)発表
15日 米国6月小売売上高統計、6月CPI発表
15日か18日 ロシア上半期鉱工業生産指数発表
15-16日 第11回アジア欧州会合(ASEM)首脳会合(モンゴル・ウランバートル)
16日 インド5月鉱工業生産指数発表
17日 サントメ・プリンシペ民主共和国大統領選挙
17-22日 第14回国連貿易開発会議(UNCTAD)(ケニア・ナイロビ)
【来週の予定】
7月18日 EU外相理事会(ブリュッセル)
18日 EU農水相理事会(ブリュッセル)
18-21日 米国共和党代議員大会(オハイオ州クリーブランド)
19-20日 ブラジル中銀、Copom
19-22日 ASEAN高級経済実務者会合(SEOM)
20日 南ア6月CPI発表
20、22日 WTO、中国に関する貿易政策レビュー(ジュネーブ)
21日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
21日か22日 ロシア1~5月貿易統計発表
21-26日 第49回ASEAN外相会合(AMM)、ASEAN地域フォーラム(ARF)(ビエンチャン)
22日か25日 ロシア6月雇用統計発表
22日 CLMV(カンボジア、ラオス、ミャンマー、ベトナム)ASEAN高級経済実務者会合(ラオス・ビエンチャン)
23-24日 G20財務相・中央銀行総裁会合(中国・成都)
24日 韓国・ASEAN外相会議(ラオス)
24-25日 ロシアASEAN外相会議(ラオス・ビエンチャン)
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問