2016年5月17日（火）

外交・安保カレンダー（5月16-22日）

[ 2016年外交・安保カレンダー ]

先週は中国関係で興味深いニュースが二つあった。一つ目はロンドン発の笑うに笑えない話。5月10日、エリザベス女王が習近平国家主席訪英の際の中国側対応を「無礼」と切り捨てたのだ。場所はバッキンガム宮殿での園遊会、女王は英側警備責任者に対し中国側は「非常に無礼だった」と述べたという。

報道によれば、女王の発言は4回。件の警備責任者に「運が悪かったわね」、「話は聞いています」、「中国側は（在北京英）大使に非常に無礼でした」、（中国側が訪問中止を仄めかしたことに対し）「とんでもないこと」と述べている。随分思い切ったことを言うものだと感心した。勿論、日本では考えられない。

中国外交部は、「中英両国は訪英成功を高く評価している」と述べる一方で、「誰が映像を流したのか」などと苛立ちを隠さなかった。中国側は英政府が意図的に情報をリークしたと疑っているのだが、園遊会では英王室の侍従長が件の警察幹部に対し、「自分の体験を（女王に）話したら」とわざわざ促している。

テレビカメラが回っていることは承知の上だから、この侍従長、確信犯かもしれない。それだけではない。中国側はレッドカーペットの長さが足りない等と難癖をつけたり、通訳と称し女王と習主席が乗る馬車に「スパイを送りこもうとした」とも報じられた。今後も中英関係はギクシャクし続けるだろう。

二つ目は13日に発表された米国防省の「中国の軍事・安全保障情勢」に関する対議会年次報告だ。改めて読んでみると、米国防省の対中政策の本質が判り易く書かれている。同報告書に関する記者ブリーフを行った国防次官補代理の発言が最も判り易いので再録しよう。

「米国は、中国と相互利益ある分野では協力するが、中国との競争を力の立場から（from a position of strength）管理し、誤解や誤算のリスクを減らす努力を行う。・・・米国のアプローチはリスクの減少、共通の土台の拡大、及び、軍事的優位の維持（maintaining our military superiority）に焦点を当てる。」

要するに、米国は中国が軍事的優位に立つことを拒否し、あくまで力の立場から競争するつもりなのだ。国防省に関する限り、今後対中政策が軟化する可能性は低いだろう。あのオバマ政権ですら、末期には中国に対する政策から楽観論が消えつつある。米国の次期大統領の対中政策には大いに関心がある。


〇欧州･ロシア　
欧州は相変わらずだ。17-19日にはフランスで労働関係制度改革に反対するデモが行われる。17日にはウイーンで国際シリア支援グループ会合が開かれる。19日にはウクライナ・EU首脳会議が開かれる。しかし、会議は踊るだけで何も決まらない。欧州の意思決定は本当に時間がかかる。

〇東アジア・大洋州
20日には台湾総統の就任式がある。オバマ大統領が21日からベトナム訪問後に訪日し、G7首脳会議と広島訪問を行う。日本の一部には今も米国が謝罪すべしとの声があるようだが、成熟した日米両国間で謝罪を議論する実益はないだろう。重要なことは、日米間で和解プロセスが今も進んでいるということ。昨年の安倍首相による米議会演説、70年談話、日韓合意と今回の米大統領の広島訪問は一連の流れだ。

〇中東・アフリカ
トルコでは政権与党が臨時党大会を22日に開き、ダウトオール首相が党首（すなわち共和国の首相）を退任する。この首相、外相時代は変わった政治家だなと思ったが、今やエルドアン大統領に正論を吐く骨のある政治家になったのか。それとも単に権力闘争に敗れただけなのか。

〇アメリカ両大陸
トランプ候補とライアン下院議長との会談は「起死回生」打とはならなかった。議長は未だトランプ支持を表明していない。ではヒラリーの楽勝かと問われれば、そこも良く判らない。
16日のワシントンポストは、自己満足、失言、人気のなさ、起訴の可能性、秘密主義、副大統領候補選択の失敗など、ヒラリーが敗北しかねない理由を12も挙げている。まだまだ勝敗の行方を占うのは早過ぎるようだ。

〇インド亜大陸　
21-22日にインド首相がイランを訪問するのが気になるといえば気になる。今週はこのくらいにしておこう。

5月16日　インド高速鉄道に関する第2回合同委員会開催
16日　インド1月鉱工業生産指数発表
16日　インド・ケララ州議会選挙、プドゥチェリ連邦直轄領議会選挙、タミル・ナドゥ州議会選挙
16日か17日　ロシア第1四半期GDP成長率（速報値）発表
16日　欧州委員会のMogherini副委員長がリビア訪問
17日　米大統領予備選挙（オレゴン州）
17日　米国民主党大統領予備選挙（ケンタッキー州）
17日　米国4月CPI発表
17日　ユーロ・グループ（非公式ユーロ圏財務相会合）（ブリュッセル）
17日　英国4月CPI発表
17-18日　APEC貿易相会合（ペルー・アレキパ）、日本からは山田外務大臣政務官が本会合に出席
17-18日　フィンランドのニーニスト大統領がエストニア訪問
17-18日　濵地外務大臣政務官が、国連アジア太平洋経済社会委員会（ESCAP）第72回総会への出席のため、タイを訪問
17-18日　欧州理事会のトゥスク議長がデンマークとグリーンランドを訪問
17-19日　ヨルダン国王アブドゥッラー2世がベルギーを訪問
17-20日　ガーナ共和国のマハマ大統領が日本訪問
18日　欧州中央銀行（ECB）政策理事会（非金融政策）（フランクフルト）
18日　ユーロスタット、4月CPI発表
18日　国際貿易委員会（ITC）によるTPPの影響報告書発表
18日　南ア4月CPI発表
18日　英国労働市場統計（1～3月）発表
18日まで　米国際貿易委員会（ITC）によるTPPの影響報告書を大統領と議会に提出
18日か19日　ロシア1～4月鉱工業生産指数発表
18-20日　「中国貿易週間・南ア2016」（ダーバン）
19-21日　第14回エネルギー産業国際展示会（パキスタン・ラホール）
19日　南ア3月自動車製造・販売統計発表
19日　フランス第1四半期失業率発表
19日　ロシア2015年第4四半期連邦構成体別直接投資統計発表
20日　台湾新総統、副総統就任
20日　メキシコ第1四半期GDP発表
20-21日　G7財務相・中央銀行総裁会議（宮城県仙台市）
20-21日　APEC観光相会合（リマ）
21日　チリ大統領教書発表（バルパライソ）
22日　タジキスタン大統領選の憲法規定改正に関する国民投票
22日　キプロス議会選挙
22日　ベトナム国会議員選挙
22日　アメリカのオバマ大統領がベトナムを訪問
22日　ブルキナファソ市議会選挙
22日　オーストリア大統領選挙

【来週の予定】
5月23日　EU外相理事会（ブリュッセル）
23日　メキシコ3月小売・卸売販売指数発表
23-24日　世界人道サミット（WHS）（トルコ・イスタンブール）
23-25日　医療機器見本市「イラク・メディケア」（エルビル）
23-25日　カナダのトルドー首相が日本訪問
23-27日　アフリカ開発銀行年次総会（ザンビア・ルサカ）
24日　NASAがISS（国際宇宙ステーション）48次長期滞在クルーを乗せたソユーズMS-01を打ち上げ（カザフスタン）
24日　EU一般問題理事会（ブリュッセル）
24日　米国共和党大統領予備選挙（ワシントン州）
24日　ユーロ・グループ（非公式ユーロ圏財務相会合）（ブリュッセル）
25日　EU経済・財務相（ECOFIN）理事会（ブリュッセル）
25日　ロシア2015年第4四半期外国直接投資統計発表
25日か26日　ロシア4月雇用統計発表
25日　メキシコ4月貿易統計発表
25-26日　欧州議会本会議（ブリュッセル）
25-26日　アスタナ経済フォーラム（カザフスタン・アスタナ）
25-31日　韓国の朴大統領がエチオピア、ウガンダ、ケニアを訪問
26日　EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会（ブリュッセル）
26日　香港4月貿易統計発表
26日か27日　ロシア1～3月貿易統計発表
26日　ロシアのプーチン大統領がギリシアを訪問
26-27日　EU競争担当相理事会（ブリュッセル）
26-27日　G7サミット（伊勢志摩サミット）（三重県志摩市）
27日　米国第1四半期GDP（確定値）発表
27日　CIS首相会議（キルギス・ビシケク）
27日　メキシコ4月雇用統計発表
27日　米オバマ大統領が広島訪問（広島県広島市）
28-29日　APEC観光相会合（ペルー・リマ）
28日-6月2日　アルジェ国際見本市（アルジェリア・アルジェ）

宮家 邦彦 　キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問