外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

  • 当サイト内の署名記事は、執筆者個人の責任で発表するものであり、キヤノングローバル戦略研究所としての見解を示すものではありません。
  • 当サイト内の記事を無断で転載することを禁じます。

2016年3月1日(火)

外交・安保カレンダー(2月29日-3月6日) 

[ 2016年外交・安保カレンダー ]


今週の焦点は米大統領選スーパーチューズデーの結果だ。今回の原稿は成田発ブラッセル行直行便の中で書いているが、残念ながら本便には機上Wi-Fiサービスがない。本コラム掲載が半日遅れとなることをご容赦願いたい。それにしても世の中便利になったというか、機内で一息付ける時間すら無くなってしまったと言うべきか。

米大統領選についての関心は今や、トランプ候補が勝つか否かではなく、どの程度の差で勝つかとなりつつある。最近の米国内政はワシントンの政治評論家を大いに驚かせている。それまで物知り顔でコメントしていた共和党系識者たちが狼狽する様子は滑稽ですらある。トランプの勝利は否定しがたい現実だから実に始末が悪い。

それにしても、米国の共和党はどうなってしまうのだろうか。白人・男性・低学歴・ブルーカラーを中心とする一部庶民層の共和党(及びワシントン全体)に対する不信感と怒りは多くの専門家の想像を超えていたのだろうか。今週後半にはブラッセルからワシントンに飛ぶので、来週には現地の雰囲気をご報告できると思う。

〇アメリカ両大陸
過去半年強の間に、オバマ政権はイラン核関連合意、対キューバ国交正常化合意、シリア停戦合意、対北朝鮮制裁米中合意を結んできたが、筆者はどうもしっくり来ない。シリアにしても北朝鮮にしても、米国が纏め上げたというよりは、ロシアや中国のペースで進んだ合意という印象を拭えないからだ。
合意に至る過程で米国は「必要以上に足元を見られた」のではないか。昨年来述べている通り、イラン核合意が同国の核開発計画を完全に断念させることが出来なかった。対北朝鮮追加制裁では中国と握ったものの、ロシアへの根回しが遅れた。シリアでも劣勢だったアサド政権が息を吹き返すかもしれない。
これらは「米国の衰退」の結果では必ずしもない。むしろ、オバマ政権の外交が米国の「実力以下」でしかないという悲劇の結果ではないか。更に、気になるのは「トランプ旋風」に象徴される米国政治の劣化の可能性である。このままでは米国の凋落が現実になってしまうのではないかと思うほどだ。

〇欧州・ロシア
今週も欧州では数多くの会合が開かれるが、筆者が注目するのは3日からパリで開かれるウクライナ問題に関する閣僚会議だ。参加国は相変らず独仏露とウクライナだが、目立った進展はない。このまま西欧はロシアと親露勢力が東欧で既成事実を積み重ねていくのを見ているしかないのだろうか。

〇東アジア・大洋州
中国で3日から政協(人民政治協商会議)、5日から全人代(全国人民代表大会)の会合が開かれる。以前日本では前者が参議院、後者は衆議院に相当する機関だなどと説明する向きもあったが、これは完全な間違いだ。いつも言うことだが、議会のない国の閣僚は自由に外遊ができるので、実に羨ましい限りだ。

〇中東・アフリカ
イラク・モスルのダムが決壊する可能性があるらしい。同ダムは2014年夏にイスラム国が一時占拠したが、その後イラク政府軍等の支配下にある。問題は長年メインテナンスが不十分だったため、最悪の場合、ダムが決壊し、モスルは勿論、下流のティクリートからバグダッドまでの流域で大洪水が発生するかもしれないという。恐ろしい。

〇インド亜大陸
近く米太平洋軍のハリス司令官が訪印する可能性があるらしい。米太平洋軍がインド洋を担当していることはあまり知られていない。実現すれば、ハリス司令官の訪印は南シナ海への最新鋭艦船派遣に言及した直後であり、その意義は決して小さくないだろう。今週はこのくらいにしておこう。


2月29日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
29日 日中外交当局間の対話(東京)
29日 日エジプト首脳会談
29日-3月1日 EU競争担当相理事会(ブリュッセル)
29日-3月1日 モゲリーニEU上級代表、アゼルバイジャン、アルメニア歴訪
29日-3月4日 日EU経済連携協定(EPA)交渉第15回会合(ブリュッセル)
29日-3月5日 フィンランド外相、オーストラリア、ニュージーランド歴訪
29日-3月24日 国連人権理事会(ジュネーヴ)
3月1日 スーパーチューズデー
1日 米大統領予備選挙(アラバマ、アーカンソー、ジョージア、マサチューセッツ、オクラホマ、テネシー、テキサス、バーモント、バージニア州)、共和党大統領予備選挙(アラスカ州)
1日 ユーロスタット、1月失業率発表
1日 「三・一独立運動」記念式典で韓国大統領が演説(ソウル)
1日 中国2月製造業PMI
1日 米国2月新車販売
1-2日 ブラジル中銀、Copom
1-2日 バングラデシュ外相、インド訪問
2日 欧州連合理事会常駐副代表委員会(Coreper I)(ブリュッセル)
3日 ブラジル2015年第4四半期GDP発表
3日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(ブリュッセル)
3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3-5日 中国人民政治協商会議
3-7日 香港インターナショナル・ジュエリー・ショー
3-13日 ジュネーヴ国際自動車ショー
3-24日 ニュージーランド国民投票
4日 米国1月貿易統計、2月雇用統計発表
4日 EU環境相理事会(ブリュッセル)
4日か9日 ロシア2月CPI発表
4日 サモア議会選
4-6日 パキスタン・オート・パーツショー(ラホール)
5日 米大統領予備選挙(ルイジアナ、メーン州)
5日 米国共和党、民主党党員集会(カンザス州)
5日 米国共和党党員集会(ネブラスカ州)、民主党党員集会(ワシントン州)
5日 スロバキア議会選
5日 中国全国人民代表大会開幕
6日 ベナン大統領選
6-7日 国連事務総長、アルジェリア訪問

【来週の予定】
3月7日 ユーロ・グループ(非公式ユーロ圏財務相会合)(ブリュッセル)
7日 EU雇用・社会政策・健康・消費者問題担当相理事会(ブリュッセル)
7日 EU・トルコ難民サミット(ブリュッセル)
7日 ロシア2015年第3四半期外国直接投資統計発表
7-10日 欧州議会本会議、委員会会議(ストラスブール)
7-11日 国際原子力機関(IAEA)理事会(ニューヨーク)
7-18日 強制失踪委員会第10回会期(ジュネーヴ)
7-31日 自由権規約委員会第116回会期(ジュネーヴ)
7日-4月30日 米韓合同軍事演習
8日 ユーロスタット、2015年第4四半期実質GDP成長率発表
8日 EU経済・財務相(ECOFIN)理事会(ブリュッセル)
8日 米大統領予備選挙(ミシガン、ミシシッピ州)、共和党大統領予備選挙(アイダホ州)
8日 米国共和党党員集会(ハワイ、アイダホ州)
8日 中国2月貿易統計
9日 米国第6回民主党大統領候補者討論会(フロリダ州マイアミ)
10日 米国第10回共和党大統領候補者討論会(フロリダ州)
10日 米国2月財政収支
10日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(金融政策)(フランクフルト)
10日 中国2月CPI・PPI
10日 米カナダ首脳会談(ホワイトハウス)
10-11日 EU司法・内務相理事会(ブリュッセル)
10-24日 国際労働機関(ILO)理事会及び委員会第326回会期(ジュネーヴ)
11日 東日本大震災から5年
12日 1-2月の中国鉱工業生産、小売売上高、都市部固定資産投資
13日 大統領予備選挙(プエルトリコ)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問