キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2014年8月12日(火)
[ 2014年外交・安保カレンダー ]
あれだけ中東での軍事介入を頑なに拒んできたオバマ政権が、今回はあっけなくというか、限定的だからなのか、遂にイラク北部のイスラム国(IS、旧ISIS)に対する空爆に踏み切った。これが出来るのだったら、なぜ今までやらなかったのか。理由はよく分からないが、恐らく今回はISがエルビルに向かおうとしたからではないか。
イラク北部シリア国境付近に住んでいたYazidi教徒はISの攻撃を逃れ山岳地帯に身を潜めた。幼い子供たちが灼熱地獄の中で脱水症状などを起こし次々と亡くなっている。キリスト教徒もクルド自治区に着の身着のまま逃げてきた。しかし、同様のことはシリアでも起きている。やはり、今回の空爆の目的はクルド自治政府の防衛だろう。
いずれにせよ、これらは事実上エスニッククレンジングだ。何故こうした事態を予測できなかったのだろう。ISISも当初はバグダッドを目指していたが、イラク中央政府の抵抗で方針を変更したのかもしれない。そうだとすれば、彼らの戦術的柔軟性、機動性は大したものだ。少なくとも、並みのサラフィストではない。
米国の一部には2007年の「大攻勢」の再現を期待する声もあるが、ペトレイアス将軍が指揮したあの作戦と現在では状況があまりにも異なる。今はマリキ首相に求心力がなく、米地上軍も存在せず、スンニ系部族の協力も得られない。クルドはいつ独立宣言しても不思議はない。過去7年の間にイラク内政は液状化してしまったのだ。
ISの連中は、行政面でも、宣伝面でも、アルカーイダよりはるかにワルだと思う。彼らを殲滅するには、オバマ大統領の言う通り、数週間単位の時間では足りないかもしれない。恐らく数ヶ月、場合によっては数年かかるだろう。それでは、これから数年間、米国はこんな「ままごと」を続けるのか。これで持続的効果は本当に期待できるのか。今週はこのくらいにしておこう。
8月11日 キルギスタン大統領、ロシア訪問
11日か12日 ロシア第2四半期GDP暫定値発表
11-12日 岸田外相、インドネシア訪問
11-12日 欧州連合外務・安全保障政策上級代表兼欧州委員会副委員長、ベトナム訪問
11-22日 兵器用核分裂性物質生産禁止条約のための政府専門家会合、第二回会期(ジュネーヴ)
11-29日 国連人種差別撤廃委員会第85回会期(ジュネーヴ)
12日 日航機墜落事故から29年
12日 米国7月財政収支発表
12日 米豪外務・国防閣僚会議(豪)
13日 米国7月小売売上高統計発表
13日 中国7月固定資産投資、社会消費品小売総額発表
13日 GDP一次速報値(第2四半期)(内閣府)
13日 日銀金融政策決定会合議事録公表(7月分)
13-14日 自動車貿易及び非関税措置に関する米国との並行交渉の事務レベル協議(東京)
14日 EU統計局(ユーロスタット)、7月消費者物価指数(CPI)発表
14-16日 香港インターナショナルティーフェア2014、香港漢方博覧会、現代漢方&ヘルスケア製品展・国際会議
14-18日 香港フード・エキスポ2014
15日 終戦記念日、全国戦没者追悼式
15日 パナマ運河開通100周年(サンパウロ)
15日か18日 ロシア1~7月鉱工業生産指数発表
15-18日 カンボジア・総合機械展示会「CIMIF2014」(プノンペン)
【来週の予定】
18-29日 包括的核実験禁止条約機関準備委員会作業部会B、第43回会期(ウィーン)
19日 米国7月消費者物価指数(CPI)発表
20日か21日 ロシア上半期貿易統計、7月雇用統計発表
20日 米連邦公開市場委(FOMC)議事要旨(FRB)
24-27日 英副首相インド訪問
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問