外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2013年6月4日(火)

外交・安保カレンダー(6月3-9日)

[ 2013年外交・安保カレンダー ]


今週注目のイベントはやはり米中首脳会談だ。通常ワシントンか北京で開かれてきたが、今回はカリフォルニアで丸二日、しかもプライベートな環境で行う。米中首脳間に最低限の相互信頼関係が生まれれば良いのだが。そう簡単ではないだろう。

米側が最も懸念するのは中国側、特に人民解放軍による対米サイバー攻撃だ。以前から内々この問題は指摘されてきたが、最近米側はオンレコで対中懸念を表明するようになった。これまでの中国側の不誠実な対応に業を煮やしたのだろう。

米側(ワシントンポスト)の報道が正しければ、中国側が不正に入手した情報はいずれも東アジアに前方展開する米軍の最新鋭武器システムに関するものばかり。米国の対中抑止力を大幅に減じかねないという意味で日本にとっても深刻である。

今回の米中首脳会談には米国でも様々な議論があるが、中国に最も同情的な米国人識者の間でも、今回の首脳会談で大きな進展を予測する向きは少ない。多くは両首脳がせめて個人的に親しくなり、より率直に話し合えることを期待する程度だ。

一方、中国が米国に求めているのは「新たな大国同士の関係」である。この概念が正確に意味するところは不明だが、中国が言いたいことは大体次のようなものではなかろうか。

●中国はもう小国ではなく、米国は中国を大国として取り扱うべし
●米国の力の衰退は明らかであり、米国は大国中国と、対立ではなく、共存すべし
●米国はこうした中国の大国としての権益を東アジア地域において認めるべし
●その権益の中には、当然ながら、政治、経済、軍事、領域的権益が含まれる

少なくとも、ここら辺が、当たらずとも遠からずだろう。

これに対し、米国側の考え方はちょっと違う。そもそも米国は中国大陸に野心はないし、そんな野心を持つつもりもない。米国の関心はあくまで海洋覇権だが、もし中国がそれに挑戦してくるならば、決して容赦はしないだろう。

筆者が恐れているのは将来の「第二次太平洋戦争」だ。少なくとも、このままいけば、その可能性はある。中国の主張は、残念ながら、米国の西太平洋における権益の一部を放棄せよと言っているに等しい。

現在の中国には80年前の日本のイメージがどうしても重なる。勿論、当時の日本と今の中国は同じではない。しかし、西太平洋における米国の覇権にチャレンジするという点で基本的構造は変わらない。

先週はNSC設置に関する懇談会の最終会合があった。その翌日には海外情報機関の設置について記事が出ていた。これをきっかけに、日本の対外諜報活動の整備が進むことを大いに期待したい。

ただ、ちょっと気になるのはNSCと情報機関の役割分担だ。両者は相互に独立した存在である。前者は政策の企画立案実施を含む政策調整機関であるのに対し、後者は情報収集・分析機関で政策作りにはタッチしない。いや、すべきではないのだ。

日本でこのことを正確に理解している人はジャーナリストにも少ない。これが筆者の実感である。更に、本格的対外情報機関を作る場合、情報収集部門と情報分析部門の両方がしっかりしている必要がある。このことをメディアはどの程度理解しているだろうか。

情報収集部門はいわゆるオペレーター、工作員、諜報員の部隊であるのに対し、情報分析部門はアナリストの集団だ。本当に世界レベルのインテリジェンス・サービスを作りたいなら、オペレーターとアナリストの両方の養成が不可欠である。

総じて言えることは、オペレーターとアナリストを両方バランスよく強化していくべし、ということなのだろうが、アナリストとオペレーターのベストミックスを実現するのは容易ではない。現時点で、筆者にどれがベストかについての答えはない。

但し、一点明らかなことがある。筆者の知る限り、西側主要国のインテリジェンス・サービスの最高幹部の殆どは地域や国際関係の専門家であり、オペレーターがトップになったという話は聞かない。対外情報機関の組織作りは想像以上に複雑だ。

いずれにせよ、この問題を関係省庁間の縄張り争いなどに矮小化させないことが肝心だ。さもないと、「JCIA」は出来たものの、結局は今のままで、状況は変わらない、ということにもなりかねない。


 
6月3日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
3日 麻生太郎財務相がキム世銀総裁と会談
3日 カナダ中銀のポロズ新総裁就任
3日 第25回人種差別撤廃条約締約国会議(ニューヨーク)
3日 ウェリントン休場(女王誕生日)
3日 社会保障制度改革国民会議(首相官邸)
3日 第5回アフリカ開発会議が閉幕(横浜市)
3-4日 日中韓自由貿易協定(FTA)交渉、準備会合(東京)
3-4日 WTO一般理事会(ジュネーブ)
3-4日 ロシア・EUサミット(ロシア・エカテリンブルク)
3-4日 チリの大統領、訪米(オバマ大統領、ケリー国務長官と会合)
3-4日 メドベージェフ・ロシア首相、バレンツ海欧州北極圏評議会に出席(ノルウェー・キルケネス)
3-5日 南アフリカ共和国大統領、来日
3-6日 水環境連盟(WFP)理事会(ローマ)
3-7日 第16回開発のための科学技術委員会(ジュネーヴ)
3-7日 第21回欧州バイオマス会議と展示会(コペンハーゲン)
3-7日 IAEA理事会(ウィーン)
3-7日 国際安全保障の文脈におけるIT分野の発展に関する政府専門家グループ第3会合(ニューヨーク)
3-14日 国連気候変動枠組み条約第19回締約国会議(COP19)に向けた作業部会(独ボン)
3-21日 国連貢献委員会、第73セッション(ニューヨーク)
3-28日 計画と調整のための委員会、第53回セッション(ニューヨーク)
4日 経団連定時総会
4日 欧州経済社会委員会、人間の権利としてのアクセシビリティ:障害者のエンパワメント
4日 チリ大統領が訪米
4日 ユーロ圏4月生産者物価指数
4日 ブラジル4月鉱工業生産指数発表
4日 米国4月貿易統計、2012年年間補正発表
4日か5日 ロシア5月消費者物価指数発表
4-7日 欧州委員会、グリーンウィーク2013(ブリュッセル)
4-8日 台北国際電脳展(コンピューテックス台北)開幕(台北)
5日 欧州評議会、常駐代表委員会(CoreperI.II)(ブリュッセル)
5日 米地区連銀景況報告(ベージュブック)
5日 欧州委員会、たばこ密輸と戦うための努力を強化(ブリュッセル)
5日 欧州委員会、ラトビアの収束レポートを提示(ブリュッセル)
5日 産業競争力会議(首相官邸)
5日 ユーロスタット、第1四半期実質GDP成長率発表
5日 米第1四半期非農業部門労働生産性
5日 米第1四半期単位労働費用
5日 米地区連銀経済報告(ベージュブック)
5-6日 欧州委員会、見習いと訓練生制度に関する会議(ブリュッセル)
5-7日 世界経済フォーラム東アジア会議(ヤンゴン・ミャンマー)
5-7日 アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)第6回外相会議(インドネシア・バリ)
5-21日 第102回ILO総会(ジュネーヴ)
6日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(通信)(ルクセンブルク)
6日 欧州中央銀行(ECB)政策理事会(フランクフルト)
6日 欧州議会委員会会議(ブリュッセル)
6日 欧州委員会、産業政策に関する会議(ブリュッセル)
6日 米倉経団連会長が東京電力福島第1原発を視察
6日 欧州経済社会委員会、会議:悪循環を打破するためにいかに回復を促進するか(ブリュッセル)
6日 経済財政諮問会議(首相官邸)
6日 総合資源エネルギー調査会総合部会電気料金審査専門委(経産省)
6日 欧州中銀金融政策発表
6-7日 EU司法・内務相理事会(ルクセンブルク)
6-7日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(エネルギー)(ルクセンブルク)
6-7日 G20財務相・中央銀行総裁会議(サンクトペテルブルク)
6-7日 アジア中南米協力フォーラム(FEALAC)第6回外相会議(インドネシア・バリ、7日まで)
6-8日 フランス共和国大統領、来日
7日 日仏首脳会談
7日 ロシア政府、2013年の社会経済政策基本施策を発表
7日 米国5月雇用統計発表
7日 米5月雇用統計、4月消費者信用残高
7日 ブラジル5月IPCA発表
7-8日 米中首脳会談(米カリフォルニア州)
8日 ナウル共和国、議会選
8日 エジプト前大統領、再審理公判
8日 中国5月貿易統計発表
9日 スイス国民投票
9日 中国5月CPI、固定資産投資、社会消費品小売総額発表
9日 埼玉県志木、愛知県半田、三重県尾鷲各市長選投開票
9-11日 第17回アジア石油ガス会議(マレーシア)


 
【来週の予定】
10日 EU運輸・通信・エネルギー担当相理事会(運輸)(ルクセンブルク)
10-11日 日銀政策委・金融政策決定会合
10-12日 第12回ライフサイエンス技術大会IAIT−BioMed(イスラエル・テルアビブ)
10-12日 ペルー大統領、訪米
10-13日 欧州議会本会議(ストラスブール)
10-13日 2013中国北京国際節能環保展覧会(北京)
10-13日 第1回アフリカ・パームオイル会議(コートジボワール・アビジャン)
10-14日 EU・モルドバFTA交渉会合
10-14日 第23回海洋法に関する国際連合条約締約国会議(ニューヨーク)
10-14日 第20回アフリカ連合(AU)産業相閣僚会議(ケニア・ナイロビ)
11日 ペルー大統領が訪米
11日 黒田東彦日銀総裁会見
11日 欧州委員会、EUの鉄鋼業界を活性化するため行動計画発表(ストラスブール)
11-12日 WTO・TRIPS理事会(ジュネーブ)
11-13日 米ゲーム見本市「E3」(ロサンゼルス)
11-21日 ITU理事会(ジュネーヴ)
12日 日銀、金融経済月報公表
12日 インド4月WPI、CPI、IIP発表
12-13日 ソマリア投資サミット(ケニア・ナイロビ)
12-15日 ニュージーランド農業見本市(ハミルトン)
12-21日 宇宙空間平和利用委員会、第56回セッション(ウィーン)
13日 千葉市長任期満了
13日 ブラジル4月月間小売り調査発表
13日 米国5月小売売上高統計発表
13-14日 第40回 包括的核実験禁止条約機関準備委員会(ウィーン)
13-16日 ゴルフ全米オープン
14日 イラン大統領選
14日 EU外相理事会(貿易)(ルクセンブルク)
14日 日・クウェート租税条約、発効
14日 日銀議事録(5月21、22日分)
14日 成長戦略と「骨太の方針」を閣議決定
14日 ユーロスタット、5月CPI発表
16日 静岡県知事選
16-27日 世界遺産委(プノンペン)


宮家 邦彦  キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問