キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2012年3月6日(火)
[ 2012年外交・安保カレンダー ]
今週の焦点は何といっても3月6日のスーパーテューズデーでロムニーが混戦から抜け出るか否かだろう。3日のワシントン州では勝利したが、6日に予備選が行われる州は東部、南部、中西部など様々であり、ロムニーの圧勝は期待できない。
順当に行けば全体としてはロムニーが辛勝するだろうとは思うが、問題はその後だ。これまでも「党が割れたら負け」と言い続けてきたのだが、「党の分裂」とは必ずしも「予備選挙で圧倒的勝者がいない」ことを意味するわけではない。
2008年の民主党予備選ではクリントンとオバマが接戦になったが、党自体は割れなかった。クリントンがオバマに協力したからである。逆に、1976年の共和党の場合は同様のケースでレーガンがフォードに協力しなかった。これが党の分裂だ。
今の共和党が危機的状況にあると考える最大の理由は、サントラムにせよ、ギングリッチにせよ、予備選の敗者がロムニーに協力するようには思えないことなのだ。このまま党大会に流れ込みロムニー降ろしでも始まれば、今年の共和党は終わりだろう。
もう一つ、日本ではあまり大きく報じられていないが、欧米で大きく報じられているニュースはイスラエル首相の訪米だ。但し、イスラエルと米国が対立しているような報道に惑わされてはいけない。
この段階での米イスラエル両国首脳の動きは政治的パーフォーマンスだ。両国の本音は可能な限りイランに圧力を掛け政策変更させたい、ということ。イスラエルの世論調査によれば、イスラエルで単独対イラン攻撃を支持する声は19%しかない。
オバマ大統領はAIPACの年次総会で演説を行ったが、関連報道の見出しは「米、イスラエルに武力行使の選択肢を確認」、「オバマ、イランの核武装阻止を宣言」、「オバマ、外交的解決のための時間はまだある」などと大きく割れている。
見出しが割れるということは、オバマの演説内容が適切であるということだ。ここでオバマが一方的発言を行えば、逆にイランに対する抑止力は消失する。今はイランに対し米国とイスラエルが何をするか分からないという印象を与えることが最も重要なのだ。
今週は欧州財政危機についても一言。例えば、5日にはドイツの外相がチェコを訪問している。チェコは英国と共に3月1日にEU25カ国が署名した新財政条約に署名しなかった。ドイツは本気でチェコを説得しようとしているのだろうか。
しかし、こうして各国の債務に関し自己規制を強化することが本当に欧州経済再生に繋がるかどうかは大いに疑問だ。1990年代の日本と同様、あれだけ金利を下げても経済は上向かない。規制を強めれば逆にデフレスパイラルに突入すると思うのだが。
3月5-10日 中国全国人民代表大会開催
個人的には薄熙来がどうなったかが気になるが・・・。
5日 欧州議会、委員会会合
5日 米イスラエル首脳会談
日本での関心が「今一つ」なのは残念だ。個人的には、テレビカメラの前での両人の表情が気になる。前回は明らかに不愉快そうだったが、今回はどうだろう。この二人は意外に正直で、感情が顔に出易いから面白い。
5-6日 ブリュッセル租税フォーラム2012
5-6日 日EU政策策定者セミナー「欧州債務危機と今後の欧州統合の行方」(東京)
5-9日 IAEA理事会(オーストリア・ウィーン)
6日 スーパーテューズデー(オハイオ、マサチューセッツ、ジョージア、オクラホマ、テネシー、バーモント、バージニア、アイダホ、アラスカ、ノースダコタなど)
それにしてもあれだけ広い国で、同日にマサチューセッツからノースダコタ、アラスカまで投票するなんて!候補者はさぞ大変だろうと思う。大統領選といえば、3月下旬公開される「スーパーテューズデー、正義を売った日」という映画の試写を先日見た。
ジョージ・クルーニーが演ずる大統領候補をめぐる選挙キャンペーンの内幕を描いた映画だが、結構良く出来ていると思った。アメリカの選挙のことを知りたい向きにはお勧めの映画かもしれない。
7日 アナン国連・アラブ連盟特使、エジプトとシリア訪問
全国連事務総長を引っ張り出しても、シリア問題が前進するとは到底思えない。
7-9日 北朝鮮の核問題高官、訪米
シラキュース大学での会合に参加するという。典型的なトラック1.5交流。米国も新体制化の北朝鮮の出方を見守るつもりなのだろう。
8日 トルコ首相、ドイツ訪問
8日 欧州中央銀行(ECB)理事会(独フランクフルト)
8-9日 EU司法・内務理事会(ベルギー・ブリュッセル)
9日 陸山会事件で小沢氏に対する論告求刑公判(東京地裁)
9日 EU環境理事会(ベルギー・ブリュッセル)
9-10日 EU外相会合(非公式、デンマーク・コペンハーゲン)
10日 スロバキア議会選
10日 Jリーグ開幕
11-14日 インド財界代表団、イラン訪問
インドとイラン、パキスタンとイランの関係は実は非常に重要だと思うのだが、なかなかフォローできない。
11日 東日本大震災、東京電力福島第1原子力発電所事故から1年
11日 エルサルバドル議会選
【来週の予定】
12日 スイスで国民投票
12-13日 日銀金融政策決定会合
15日 香港行政長官選挙
15日まで(10日前後?) 消費税引き上げ関連法案を国会提出
16日 日本振興銀行を巡る銀行法違反事件で同行元会長に判決(東京地裁)
16-19日 パリ本見本市(今年は日本の書籍がテーマ)
17日 東ティモール大統領選
18日 ギニアビサウ大統領選
宮家 邦彦 キヤノングローバル戦略研究所理事・特別顧問