外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年11月2日(水)

DC道場フェロー・レポート(下院編・11月1日)

[ 2011年DC道場 ]


 本日は、CRS(Congress Research Service:議会調査局)のエネルギー政策・資源・科学・産業担当の専門家と面談し、核施設防護に関するお話を伺うことができた。日本でも去る3月11日に起きた東日本大震災に端を発する、東京電力福島第一原子力発電所事故が発生し、原子力発電所の安全性について喧々諤々の議論が行われている。多くは原子炉や付随する建物・施設の堅牢性や、立地の自然災害に対する安全性等の議論の様だが、中にはテロの標的となった場合を心配する意見もある。確かに、今回の事故によって原子炉内部の構造が一般に大々的に明らかにされ、全電源喪失という状態にすれば爆破等の大げさな破壊活動を行わなくとも、広範囲にわたってダメージを与え、住民を恐怖に陥れることができるということが分かってしまった(もっとも、北朝鮮辺りの工作部隊では随分前からそうしたシミュレーションも行っているという話も聞いたこともある)。 

 米国では、2001年9月11日の貿易センタービル爆破事件以来、原子力発電所のセキュリティ体制とその脆弱性については、国家レベルで取り組む事案となった。それ以前は、門に守衛がいる程度の警備体制しかとっておらず、日本の原子力発電所と同じような体制だったそうだ。しかし9.11以降は米国議会が監視と法規制やセキュリティレベルの強化に乗り出し、日本でもお馴染みとなったNRC(Nuclear Regulatory Commission:アメリカ合衆国原子力規制委員会)に対してその執行を強く求めるようになった。2005年に制定されたエネルギー政策法(The Energy Policy Act of 2005)によって、潜在的な攻撃の可能性への対応を行うために、NRCは原子炉に用いられる使用基準における設計基準脅威(Design Basis Threat)の見直しを行った。因みにNRCの委員長を含めた5人の委員は大統領によって任命され、大統領の指示に従って活動する明らかなる行政機構なのだが、9.11以降は議会による規制強化やセキュリティプログラム、セキュリティポリシー策定への圧力が大変強くなり、また同時に、各種利益団体や圧力団体によるロビー活動も盛んに行われ、それらが政策決定に影響を及ぼしているという。

 面白かったのは、3年ごとに実施される原子力発電所の警備強化訓練である。CRSの専門官の説明によれば、実際に敵と味方に分かれて攻撃と防御のシミュレーションを行うのだが、その際にはレーザービームを発する銃を用いて銃撃戦を行い、レーザービームが当たるとセンサーによって被弾と判定される。撃たれた人間は倒れたままでいるか、若しくはそっと退場する。まるでサバイバルゲームのようで楽しそうに聞こえるが、放射性物質をテロリストに奪われてダーティーボムとして使用されるかもしれないという危機を想定しており、至って真面目に行われるそうだ。こうして定期的に、脆弱性のあぶり出しを行っているわけだ。 

 かなり実戦的な想定をしてセキュリティ対策のプログラムを作っているが、実際に核関連施設の防護についてはDHS(U.S. Department of Homeland Security:国土安全保障省)のスキームの一環として組み込まれており、実際に攻撃を受けた場合には通常雇われているセキュリティのプロフェッショナルに加えて、州警察や軍隊の支援を得られるような体制を整えている。また、海岸沿いにある施設については、沿岸警備隊による警戒行動も強化されている。このように、治安維持に関わる行政組織が幾つも連携し、日頃から情報の共有と、有事の際の協力体制を構築するのがDHSの基本概念である。専門官曰く、「実際に米国の原子力発電所がアタックを受けたことはないので、いざ本番というときになってDHSという大掛かりな仕組みが上手く機能するかどうかは未知数である」とのことだ。しかし、そうしたスキームを備えているということだけでも、不逞の輩に対しては十分に抑止力になるのではないかと思う。特に日本においては、こうした概念を持った動きはまだ見られない。また、専門官は「DHSを機能させるためには、FBIのようなカウンターインテリジェンスが重要になる」とも指摘していたが、つまりは公安系のインテリジェンスと、刑事系のインテリジェンスのクロスオーバーが重要になってくるということかと思う。 

 話は変わるが、本日は世界銀行に勤める日本人の方々と食事を共にする機会を得た。一人はJICAから派遣されている方で、もう一人はJICAを退職して世界銀行に転職した方である。日本を離れ、常に世界的な視野を求められる職務に就いているお二人は、それだけに祖国の状況を憂う気持ちが日本に住む人々よりも強いように感じられた。特に政治の現状に関しては、強い怒りを持ち、制度疲労を起こしている政策決定システムにも、空理空論の政治主導にも辟易しておられ、いい意味での政治任用制度の広がりに期待するというお言葉を頂いた。大統領制の下で行政府と立法府が明確に役割分担をしている米国と、議院内閣制の下で行政府の長たる総理大臣が、立法府における与党のコントロール下にあるという日本では、当然政治任用の制度設計も異なってくるであろう。いずれにせよ、「国益とは何か」、「国民の生命・財産を守るには何が必要か」という本質的な部分を外さないようにして、そのために資するような制度設計にしなければならないと、改めて強く感じた。(了)


柄山直樹 PAC道場第2期生