2011年11月1日(火)
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2011年DC道場
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私がフェローとしてお世話になっている下院議員が本日、テレビのニュース関係の番組に10分程度出演した。月曜日なので地元にいた議員は、司会者と中継カメラによってやりとりをしていた。質問は、今盛んに問題とされている赤字削減策に関する意見を求めるものであり、民主党所属の議員は当然、共和党の考え方を強烈な調子で批判していた。オバマ大統領が10年間で4兆円の赤字削減を打ち出したにもかかわらず、7月の議会では1兆円分の削減案しかまとめることができなかった。現在は民主党・共和党の双方から6人ずつの議員を出して構成した特別委員会にて、残りの赤字についての削減策を練っている。1.2兆円の削減を11月23日までに決められなければ、来年から国防費やメディケアの分野での自動的な予算削減が決まるというトリガー条項がある。そのようなペナルティが控えているものの、特別委員会の審議はなかなかまとまらないようで、日本人の議会ウォッチャーの中でも「まとめるのは無理」という観測をする人も多いようだ。うちの先生(永田町的言い回しで恐縮だが)は、共和党の茶会派(ティーパーティー)が唱える「小さい政府の実現」や、「増税反対」を徹底的に批判していた。曰く、「共和党は国防費以外、何でも削減して財源を確保しようとするが、そんなやり方で果たして社会は健全に保てるのか?失業率は回復するのか?」
事務所のスタッフ皆で放送を見終えた後、首席補佐官(Chief of Staff)が皆に「どう思った?」と意見を求める。議員の主張そのものは民主党全体のトーンと同じであり、特に目新しいものではない。従って意見は主に、議員がどういう印象を与えるか?ということになっていく。「よそ行きの顔で、かなりアグレッシブでしたね」と、日頃の温厚でフレンドリーな顔と打って変わって戦闘的な感じだったという意見が多い。それに対して首席補佐官が、「我々にとって、今何が一番大事か分かるか?選挙だ。選挙に勝たねば何も無くなってしまうのだ。有権者にどう見えるか、それは非常に重要なのだ。」と若いスタッフ達に説明をしていたのが、私には一番印象的であった。この首席補佐官というポジションは、文字通り事務所を統括する立場であり、議員の立法作業の補佐を行う他にも各種会合で議員の代理を務めたりもする。渡米前は、首席補佐官の仕事は立法作業という「頭脳勝負」だけというようなイメージを勝手に持っていたが、選挙の際には広報担当スタッフを従えて陣頭指揮を執る。この首席補佐官を経験して議員になる人も、結構多いらしい。またその逆に、落選した議員が首席補佐官として働くケースもあるという。当事務所の首席補佐官は、先日も「たちの悪い有権者対策について」という党主催の勉強会に参加していた。秘書の悩みは日米共通のものがあると思い、同情半ば、可笑しさ半ばであった。
下院議員の改選は、2年毎である。必ず2年毎に選挙があるので、落ち着いてワシントンDCでの政策論議に取り組めない。徹底して「金帰火来」を繰り返すのは、そのためだ。それ故に、立法担当スタッフが重要視されている。議員は法案に対する賛成反対を決めるに際して、立法スタッフの助言に頼る。当然、投票行動は選挙にどう響くかまで考えて決められる。米国の下院議員事務所に各分野に精通した立法スタッフが揃えられているというスタイルは、その任期が短いということも影響しているようだ。下院議員が抱えられるスタッフの数は22人が上限であり、うち4人をインターン等の常勤でないスタッフにすることと決められている。因みにインターンとフェローは、厳密にいうと違う。事務所の主戦力でないという点では同じなのだが、インターンは政治に興味のある学生等が見習いのために殆どの者は無給で働いている。フェローも無給ではあるが、事務所を足場に自由に人脈作りや研究をする、どちらかというと客員のような感じの存在で、インターンより格上の扱いなのである。事務所の先輩たるインターン諸氏には事務所の鍵が貸与されていないのに、僅か2か月しか滞在しないフェローの私が鍵を預かっている。申し訳ないので、朝は一番に行って鍵を開ける等、永田町仕込みの秘書らしさを発揮して頑張りたい(言うほど有能な秘書ではなかったが)。(了)
柄山直樹 PAC道場第2期生