キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。
2011年10月31日(月)
[ 2011年DC道場 ]
今日の午後は、政府説明責任局(Government Accountability Office)を訪ね、GAOの位置づけや活動内容、報告書の作成手順などについてお話を伺った。
最近では、日本の各省庁も「政策評価」と称する作業を行っているが、通り一遍の内容になっているものが多い。また、仕分け作業は「事業を維持するかどうか」に焦点が絞られている。GAOでお話を伺い、日本でも中立的かつ専門的な機関を作り、重要案件についてだけでも精密な政策評価と改善についての具体的な提案を得ることができれば好ましいであろうと感じた。
以下、概要である。
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【GAOの体制】
・職員数は3350人。今回訪問した国際問題担当、研究手法担当を含む13のチームがある。予算は5億7110万ドル(約560億円)。
・GAOの政策提言によってコスト削減された額が499億ドル。従って、「GAO予算の1ドルにつき87ドルのリターンとなる」と称している。
・2010年度は2,005個の提言を行い、そのうち80%以上が政策に反映されたとしている。
・もともとは「政府会計検査局(Government Accounting Office)」と名乗っていたが、2004年に業務内容をより正しく反映した現在の名称に変更された。
【GAOの業務】
・議会のリクエストで調査を行う。外交安保分野だと、外交委員会、軍事委員会、歳出委員会などが関係してくる。GAOの行う業務内容は法律で定められている場合もあり、議会が書簡で依頼してくる場合もある。
・最近では議会が、イラク、アフガン、パキスタンなどを関心事としてあげてきた。大きいテーマはこれに沿って決めるが、具体的な研究課題や手法についてはGAO自身が主体的に設定する。これによって、意味のある研究可能な課題に的確な手法で取り組むことが可能になる。
・1つのテーマにつき2名のチームで担当するが、3名で行うこともある。
・アフガニスタンの治安組織についての調査では、国防省や国務省と話し合って作業を進め、研究のアプローチを定める。具体的には、防衛、国際問題、開発の専門家などと話し合いながら作業を進める。また、テーマについては、他省庁の監察官のオフィスと調整し、作業が重複しないようにしている。
・最近では、財政上の維持可能性(fiscal sustainability)が重要な課題になっている。例えば、米国からの支援がなくなったあとでも、アフガニスタンの各省庁が独自に活動を維持できるようになっているかどうかを調査している。道路を造ってあげたとしても、それをアフガニスタン人が自分の予算で整備・維持できなければ無意味なのである。
・GAOの70~80%はGAO出身者で占められている。GAOにいると、常に新しいテーマを手がけることになるので飽きることはない。このため、GAOに長く勤務する人が多い。
・GAOと他省庁との間に人的交流は多くない。ただ、議会との人的交流は活発で、特に議会の委員会との関係は深い。シンクタンクとの関係もある。プロジェクトを行うときにはシンクタンク関係者にもインタビューすることが多い。
・報告書が完成すると関係省庁は7~30日の期間を与えられ、報告書に対してコメントすることが許される。関係省庁のコメントは報告書の巻末に掲載される。報告書の内容と関係省庁の立場に大きい違いがあった場合には、その問題が議会の公聴会のテーマになることもある。
・GAOは超党派で客観的な政策評価を行うことを旨としている。報告書の内容が議会などからの政治的圧力で歪曲されることはない。また、こうした圧力を受けないようにするために、①議会と活発にコミュニケーションをとる、②透明性を維持する、③ブリーフィングを積極的に行う、④報告書の草稿を各方面に開示する、などの方法をとっている。
【研究の進め方】
・「研究のフェーズとステップ」は以下の通りである。これらを作業プロセスの最初に洗い出し、仮説も提示しておく。
①研究課題―研究可能な課題であること
②基準と必要な情報およびソース―何を基準に政策を評価するのか?(政策文書?各省庁の計画?)
③範囲と手法
④研究の限界
⑤研究結果によってGAOがどんな提言をできることになるか
・アフガニスタンの報告書では、①米国の政策目標を実現できているか、②アフガニスタンに良い影響を与えているか、③米国政府の各省庁はキチンとモニタリングを行っているか、などが課題となった。
【研究手法担当チーム】
・2000年頃に研究手法の専門チームを作った。独立した専門家チームになったので、専門性が高まり、学会でも高く評価されるような陣容を備えることができている。
・人員は160~170人程度で、①手法の開発(80人)、②経済(40~50人)、③評価手法(10人。学会でも有名な人々)、④科学技術、工学(40人)という内訳である。また、専門別で見ると、手法の専門家30~40人、データ分析の専門家30人、統計の専門家10人、サーベイの専門家30人などとなる。
・具体的には、海外への食糧支援の評価を行ったことがある。対象はアフリカの国々がほとんどで、一部、アジアとラテン・アメリカがあった。29カ国を対象として、USAIDとともに、①援助食糧の質、②食糧の栄養(特に、子供にとって適切であるかどうか)を評価した。しかし、米国の援助の4分の3はWHOが運用していたことや、支援対象が距離的に遠い国々であるため、作業が難しかった。サーベイするにも電子メールで行うのか、電話で行うのかから始まって、手法上の困難が山積している。また、ラテン・アメリカ以外の国々は時差も大きいので大変である。
・その他にも、「学校給食プログラム」の評価、アフガニスタン支援の効果など、各種の評価を手がけた。アフガニスタンで水供給支援の評価を行ったが、世界銀行など他の機関も政策評価を行っていた。その時の評価では、宗教上の少数派の生活は良くなっているかについても評価したが、現地の米国大使館と協力して行った。しかし、治安の問題でカバーできるエリアが限定されたり、インタビューする相手が本当に現地コミュニティの声を代表しているのかどうかが不明であったり、難しいところもある。また、人々が援助について知っているのかどうかについても調べた。こうした評価ではインタビューが中心的な役割を果たした。
・政策評価の手法を他省庁に教えるという活動は行わない。ただ、手法について会議で発表することはあるので、そういう場では誰でも聞くことができる。また、他省庁が実施している政策評価やその手法を評価することはある。(了)
道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生