外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月29日(土)

DC道場フェロー・レポート(下院編・10月27日)

[ 2011年DC道場 ]


 本日は、The United States Association of Former Members of Congress(以下FMC:議員経験者協会)のスタッフで、一昨日の火曜日に行われたThe Congressional study group on Japan (以下CSGJ:議員による日本研究グループ)の会合をコーディネートしていたスタッフである某氏と道下さんの3人で昼食を共にした。先日のブログ記事にも書いたのだが、私は日本においてFMCのような組織があるのかどうか、聞いたことはなかった。某氏によれば、やっぱり日本には無いという。しかし諸外国における同様の組織は40ほどあり、FMCがとりわけ活発に交流しているのが、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどである。カナダ及びヨーロッパの同様の組織とは、共同でInternational Election Monitors Institute(国際選挙監視協会)という組織を立ち上げて、民主主義構築を目指す諸団体と一緒になって、世界規模で選挙のオブザーバー等を務めることを目的として活動している。引退した議員というと、かなりお年を召した方を想像するが、なかなかアクティブである。


 FMCの中にある研究グループ(友好議連のようなもの)は日本に関するCSGJの他にドイツ、トルコに関するものがあるのは先日書いたとおりだが、CSGJの事務局を預かる某氏としては、何と言っても日本との関係強化を進めたい。そのために、日本における議員経験者のグループを作れないか、という話になった。道下さんも私も、これには全面的に賛成であった。但し、非営利・超党派で大物が集う組織というものが、果たして日本ででき得るのか、これは今後の工夫が必要だ。組織の目標や人員の配置、そして事務局機能などをきちんとしないと、例え箱ができたとしても有名無実なものになりかねない。CSGJの共同議長に現職が名を連ねていることからも分かるように、FMCは議員経験者だけでなく、現職議員も含めた活動をしている。そして、何と言ってもそれなりに現職議員に対して影響力があるのだ。某氏曰く、金目当ての怪しいブローカーまがいのロビー活動ではなく、まっとうな事案についてまっとうに活動しているという。功成り名を遂げた人達が(再選を狙う人達もいるだろうが)、あくまで非営利で活動しているならば、それは非常に興味深い。


 ロビイングは案件によっては非常に多額の契約になる、DCでは美味しい商売だ。ロビイストとしての箔をつけるために、政治任用職に積極的に取り組む人も多い。政府に仕える1~2年をそれほど高くない給与で我慢するのは、転身した後に多額の報酬を得るための投資期間だからだ。しかし、本気で議員経験者達が非営利でロビー活動を行えば、これはロビイストにとっては脅威だ。ロビイストに限らずコンサルタントもそうだが、稼ぐ連中というのは問題の本質は解決しないことが多い。むしろ問題の一部を解決して、解決が可能であるように見せながら、次の契約をものにする。クライアントが永続的に頼ってくるように仕向けられるかどうかが腕の見せ所であり、本質を解決して問題が消えてしまっては商売にならないのである。だから、本当に問題を解決するロビイストやコンサルタントは、あまり儲かっていない。


 因みに日本で英語の教師をしたり、永田町で働いたりした経験を持つ某氏は、日本語が分かる。彼は日本語で、「"元議員"ではなく、"議員経験者"と呼んでくれ」と言っていた。その心は、元では引退してしまった人という印象が強いが、経験者というと蓄えた知見を有効に発揮するアクティブなイメージがあるからだ。心憎いまでに日本語の使い分けができている彼は、日本のプロ野球をこよなく愛している。広島市民球場が無くなってドームに移ってしまったことを残念がり、東京で過ごした時期に贔屓のヤクルトスワローズを応援するために、神宮球場で水色のビニール傘を振っていた日々を懐かしみ、そして群馬弁も理解する面白い男だが、将来は故郷に帰って下院議員または上院議員になろうという野心家でもある。永田町の論理も日本人のメンタリティーもお見通しの人物が、将来米国の国政に立つことになったときに味方にすれば頼もしいが、敵に回せば大変手ごわい相手になる。日本もFMCのような組織を作って、こうした人々との静かだが確かな交流を促進してみるべきだと思う。(了)


柄山直樹 PAC道場第2期生