外交・安全保障グループ 公式ブログ

キヤノングローバル戦略研究所外交・安全保障グループの研究員が、リレー形式で世界の動きを紹介します。

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2011年10月27日(木)

DC道場フェロー・レポート(上院・下院合同編・10月25日)

[ 2011年DC道場 ]


 今日の午後は、国防省の知人に政治任用制度などについてお話を伺った。彼は日本の専門家であり日本語も話すので、俄然、日米比較談義となった。
 概要は以下の通りである。なお、カッコ内は日本側(柄山、道下)からの発言である。
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 現在、日米いずれもねじれている。(米国の場合は、行政府と立法府、上院と下院が二重にねじれている。しかし、米国では大統領の力が強いのでどうにかなる。)
 昔は下院が党派的な議論に走っている場合でも、上院は落ち着いて超党派で議論する雰囲気があった。上院は任期が6年で、じっくりと腰を据えて物事に取り組むことができていた。しかし、最近では下院と上院が似てきており、上院でも党派的な議論が増えてきている。下院は任期が2年なので、最初の6カ月くらいは政策に専念できても、残りの期間は常に選挙を意識して行動せざるを得なくなる。(日本では参議院の存在意義についての議論があり、参議院の歴史を研究した専門家ですら「上院不要論」に傾いている。)
 政治任用者の多い米国では政策決定が大変である。政治任用者のなかには他の政策決定者と認識を共有していない人物も多く、2年程度で政府を去ってしまう場合も多いので、1年目で仕事を覚えて、2年目で仕事がスムーズに進むようになったと思ったらいなくなってしまう。また、「献金をした」「選挙を手伝った」などの理由で任命される政治任用者も多い。大使に任命される等、ランクの高い政治任用がなされるケースもある。そのようなタイプの政治任用者は専門家ではないことが多く、政策に対する理解や価値観を共有していないため、政策決定が困難になる。その意味で、日本のように同質性の高い環境の中では、スムーズに政策決定を行うことができるので羨ましい。
 また、意見のバラツキが大きい中で、自分の作った政策に対する承認を得るのに多くの段階を経なければならないのは大変な作業である。(米国ではルールは明確だが、人間の同質性は低い。日本では部外者にはルールは分かりにくいが人間の同質性は高い。また、官僚の間には暗黙のルールがある。他方、多様性は米国のダイナミズムの源泉になっているのも事実であろう。日米はお互いを羨んでいるようなところがあるのかも知れない。また、日本でも役所における電子政府推進のために、ITのアドバイザーとして情報化統括責任者補佐官(CIO補佐官)という制度を作って民間の専門家を登用した。しかし、予算や人事に関して権限が無いために、役人のバックアップが得られない場合は、全く機能せずにお飾りに堕してしまう失敗例が散見される。外部から入ってくる人間の立ち位置、権限を担保する工夫が必要だ。)
 ラインのポジションに政治任用者が就くのは米国でも難しい。政治任用者は、ラインの業務を行っている人物のアドバイザーのようなポジションに就くのが好ましいのではないか。例えば、自分のオフィスには部外からの出向者がおり、アドバイザー役を務めている。彼のポジションは非常に有効に機能している。自分は国防省の通常の採用プロセスを経て採用されたので政治任用者ではないが、部外から国防省に入って、いきなり仕事をしなければならなかったのは大変であった。日々、が学習プロセスであった。
 (現在、米議会議員の事務所で働いているが、各種の会合に参加させてもらっている。行政府に比べて立法府の方が外部にオープンであるという印象を持った。勿論、議員は民意を国政に反映させるのが役割なので、当然のことかも知れない。)実は、自分も日本にいたときに、日本の国会議員事務所で働いたことがある。日本語ができたということもあったろうが、色々な会議や会合に出席させてもらった。非常にオープンだったという印象がある。但し、議員事務所がオープンであるかどうかは議員個人のパーソナリティに依るところが大きいのではないか。(了)


道下徳成 政策研究大学院大学准教授・PAC道場第1期生